第三十二話:やったもん勝ち
屋良とケンカした日の午後八時。午後八時といえば親父が帰ってくる平均的な時間。俺のケータイのディスプレイには20:05と表示されている。
もうそろそろ帰ってきてもいいはず。俺はそう思って自分の部屋の窓から外を見ていると、親父愛用黒光りのベンツが駐車場に入っていった。
「やっと帰ってきたよ」
俺は一人しかいないのに親父帰宅の情報を伝え部屋から出る。
「ただいま」
親父がいかにも疲れてますって声で帰宅を伝える。するとお袋が玄関まで走ってきた。また室内サザエさんごっこが始まる。
「ちょっとお父さん」
俺がサザエさんごっこに割り込みしたように親父を呼ぶと、一気にサザエさんごっこが終焉を迎え、お袋が親父のカバンを持ってスタコラと廊下を歩いていった。
「どうしたんだ」
「ちょっと話があってさ」
「金なら貸さないぞ」
貸さなくてもあるっての(貯金)。
「えっ?硲さんをクビにしないで欲しい?」
親父は驚いて俺の話を食い入るように聞く。そりゃそうだよな。俺は一回も硲さんに会ってないのになんでいきなりそんな事を言うんだろうなって普通みんな思う。
「そう。クラスメートに硲さんの娘がいて、その娘が俺のお父さんがその会社の社長だって知っていて、なんかこれじゃあ生活出来ないって言われたもんだから言った訳」
「そうなのか…別に断ってもいいんじゃないか?」
親父が怪しそうに俺を見る。だって元不良だしね。
「お父さん、女の目がどれだけの凶器になるか知ってるの?もうタイタニック号も沈んじゃうぐらいすごい威力だぜ」
俺の例え攻撃に親父はひるんだ。
「イエス青春?」
親父が親指を立てて聞いた。
「イエス青春」
俺は親指を立てて応えた。
青春をいち早く体験した青春の先輩に青春の手助けをしてもらうとは…なんて俺は思っていた。
「だけどクビは取り消せないんだよね」
えー…。
「なんかの大きな会社と契約を結ばなきゃな」
これって世にいうプロジェクトってやつですか?
「そのプロジェクトが成功すれば、硲さんのクビが無くなるって訳ね」
「無くなるっつーか保留だな」
保留かよっとツッコミたくなった。
でもそのプロジェクト。どうしても成功させてぇ。俺はこういう挫折から成功へと歩む物語が超好きなんだよね。
絶対成功させる方法…、誰かに成功させればいい訳だよね。
俺は鉛筆の命でもある黒鉛の頭蓋骨をコツンコツンと机に当てて考える。
プロジェクトに成功すれば、硲さんのクビが無くなるんだよね。硲さんはこの間何してろって話だよね。硲さん、プロジェクト、成功、クビ…。
鉛筆の命が折れた瞬間、俺は思いついた。
人は思いついた事をすぐ行動に移すから成功するんだ。例えばマンガ家が誰も思いつかないストーリーのマンガを書くから雑誌に連載される。そのまんま保留したら誰かにそのストーリーを使われるかもしれない。そう、要するにやられる前にやれって事だ。
つまり…。
「硲さんがプロジェクトをやればいいんだよ」
都内にある喫茶店で俺と硲さんは向かい合って一つのテーブルに座っている。周りから見れば微笑ましい親子のお茶シーンに見える。
「プロジェクトをやる…?私、そこの会社をクビになったものですよ」
「だーかーら、プロジェクトはそんな会社と関係ねーんだろう?」
「はぁ」
「硲さん、会社の名刺持ってる?」
「はぁ、持ってますが」
「よし」
「株式会社ベリーコムの取締役の硲です。宜しくお願いします」
要するに、やったもん勝ちだよ。会社の許可なくても名刺ありゃいいんだよ。そうすりゃ…。
「ベリーコムの方ですね。お待ちしておりました。さあ、どうぞ」
古風な雰囲気を醸し出す料亭。そこに座っているスーツを来たビジネスマンと硲さん。テーブルの上には和という豪華さが魅力的な和食の数々。そこに目立つように置いてあるビールとコップ。まさにプロジェクトなのか?
なぜそんな重要な契約の日時と場所が分かったのかというと、そんなんサザエさんごっこを聞けばいいだけ。俺の親父、すぐおかんにベラベラ話すんだもんな。
まあ、要するに、やったもん勝ちなんだよ。
誰だって誰の話も聞かずに自分が望む人生を進む事は出来ないんだ。例えで言うとドラクエだって周りの人々と話さなければストーリーを進める事は出来ないんだ。まあ攻略本を買えば一番いいんだが、そんな分厚い本に頼らなくても俺は出来る。
「いやぁ、君は趣味がよく合う」
取引先のおじさんがはははと笑いながら硲さんのビールを注ぐ。
「どんな人でもドラクエは面白いですよ」
ドラクエかよ!?この二人のおっさん、趣味がドラクエかよ。どんだけ暇なんだよ。
「やっぱり二回目のラプソーンが強いですよね」
「ええ、もうラプソーンを倒したのですか?」
おっさん二人は次々と話を広める。
誰だよ、ラプソーン。こんなおっさんにラプソーンを倒せるならケイン・コスギはどんだけ倒せるんだよ。ラプソーン…。
「じゃあ今度倒してくださいよ。ラプソーン」
取引先のおじさんはビールをグイッと飲んで硲さんに助けを求める。
ありゃありゃ、初対面で約束しちゃったよ。どんだけ仲良くなったんだよ、あの二人?
「いいですよ。それよりプロジェクトの事を…」
硲さんは30枚程度の書類を鞄から取り出した。
「もういいよ、承認だよ、承認。ラプソーンのためならこんなの楽だよ」
えー…。プロジェクトよりラプソーンかよ?
俺と硲さんはそう思った。
てな訳で社長もわからないままプロジェクトの承認はとれた。これって、俺の勝ち?
俺・ラプソーン・硲さんVS取引先・社長(親父)。勝者、俺・ラプソーン・硲さんチーム。商品、プロジェクトの承認。
ああ、ラプソーン。君のとてつもない戦力のおかげで勝つ事が出来たよ。俺は心の中だけでもラプソーンに握手をした。てかラプソーンって誰だよ。
「いやー、まさか成功したなんてね。プロジェクトってこんなに簡単なんだね」
親父に呼ばれた硲さんは、親父にこう言われたそうだ。俺もそう思わなかったけど。
「しかも、プロジェクトの打ち合わせで私も二人がいたカフェにいましてね、二人の話は聞いていたよ。それならやってもらおうじゃないのって思って、行くはずだった社員に行っといたよ。いやー、君、クビ免除だよ」
親父…。漢字間違ってるよ。言っといたよだよ。(作者の間違い)。
てなわけで、硲さんは親父が社長のシステムエンジニアの会社、ベリーコムにまた入る事になった。
「お父さんがねー、まこちんと慎に会いたいってぇ、だからウチに来てくんない?」
意味も無くケータイのストラップをガチャガチャと鳴らしながら俺と屋良に告げ、教室から去った。
ちなみにまこちんとは俺のあだ名で、女子の間だけで使われている。なぜまこちんと呼ばれたかと言うと、俺の書いたパンダの絵があるマンガのまこちんってキャラに似てたからだ。あだ名って怖いなって想う。
いよいよ、俺と屋良が硲家に参上する日が来た。
屋良はドキドキしていた。俺は何故呼ばれたんだと思っているんだろう。とりあえず俺はそう察し、屋良を呼んだ。
「どうしたん?」
「いいか、屋良。嘘でも緊張してろ。分かったな」
「えっ…、はぁ」
屋良はキョトンとした顔で俺を見た。何故緊張?俺の辞書に緊張なんて文字は無いんだぜ。と思っているのだろう。
「嘘でもだ」
「分かってるって」
「嘘でもだ」
「なんで二回言ったん?(笑)」
テンポのいい漫才らしきものを繰り広げ、俺は硲家のインターホンをゆっくりと押した。
ピンポーンと言う音が硲家の中を巡り反射して俺と屋良の耳に入った。
その直後、トテトテと小さな足音がして、ゆっくりとドアが開く。
休日の家の中でも化粧を欠かせない硲の顔が目に入る。まあ、俺らが来るからしてるんだろう。妹に萌がいるから分かるが、家の中にいる女子は怖い。萌を例にすると、まずはご飯は上品に食わない。うたた寝はするし、好きな歌は熱唱する。いわゆる、ヒーローショーを終えた後のヒーローと怪獣の会話みたいな奴だ。
「(ヒーローレッド)おまえ強く蹴りすぎ」
「(怪獣)わりぃわりぃ。タバコ吸うけ?マイルドセブンなんだけど」
「(ヒーローレッド)ありがとな。でも俺マルボロなんだ」
「(ヒーローグリーン)俺マイルドセブンなんよ。くれい」
「(怪獣)はいよ」
「(敵戦闘員)次どこだっけ?」
「(ヒーローピンク)次…うわぁ、けっこう遠いぞ」
「(全員)マジかよ!!ダルいな」
てな感じ。なんか夢を壊すような感じ。しかも出かける前にメイクする顔が尚更怖いからビビる。ビビる大木。
「どうしたの?」
「いやいや、何でもない」
色々考えてたら急に聞かれたから俺は焦った。
「おはよぉ、慎」
「おはよ」
「じゃあ上がって」
硲が上がった後に続いて俺と屋良も上がった。
うん。なかなかお洒落で風水もけっこういい。不良で過ごした少年時代、女の子の家に入るなんて久し振りだから嘗め回すように家を見た。一方屋良はヤバいぐらいドキドキしてる振りをしていた。
彼は演技が上手いですねえ。あまりに上手すぎて硲が引いてますねー。それに気付かない屋良もすごいですねー。
やる気が無い実況みたいに俺は思った事を頭の中でまとめた。
リビングに通されると、そこには何故かスーツ姿の硲さんとテーブルいっぱいのご馳走と、テーブルに置ききれない程料理があるのにまだキッチンで何かを作っている硲さんの奥さんがいた。
これで分かった。お礼を言いたいんだな。
俺と屋良は軽く頭を下げた。
「やあ、よく来たね。まあどこか適当に座って」
「はい、失礼します」
高校受験の面接試験の時、座ってくださいと言われた時こう言えと何回も言われたっけな。
ほんとに適当に座った。長方形のテーブルの長い横の方で硲と屋良は隣になって短い方に俺と硲さんが向かい合うように座って、硲さんの奥さんは長い方に屋良たちと向かい合って座った。
「稲垣君、この前は本当にありがとう。君のおかげでこの家族は食べていけると同じだよ」
硲さんが頭を下げながら言った。
「いや、大丈夫ですよ。第一、この事を考えたのは屋良ですし」
「えっ?」
当の本人である屋良が小さく呟いた。
「人見知りが激しくて初めて見た人とは緊張して話せないからな、社長の息子でしかもそんな人見知りをしない俺に言ったんだよな。なぁ屋良」
もちろんそんなの嘘だ。ただ屋良と硲が長続きするための嘘だ。俺は社長の息子であり、人見知りをしないのは本当だけどね。
「そうだったの?」
硲に聞かれて屋良は周りを見渡した後、『そうだよ』と返した。
「マジ嬉しい。超ありがと↑↑」
マジと超の使い方を間違っているが、それが彼女の感謝の表現なのだから別にいいやと想った。
「屋良君、本当にありがとう。これからも麻里の事をよろしく頼むよ」
硲さんは両手を差し出して握手を求めた。
屋良もそれに答えて、両手を差しだし強く握った。これでいいんだ。これで。
結果、屋良と硲の付き合いは親公認となり、二人の愛はもっと深まったのだ。うーん、青春。
屋良と硲は休み時間に二人になって立ち入り禁止になっている屋上でいつも話しているとクラスで有名になった。
硲さんが会社に戻ってから、よくやってると親父もベタ誉めして、給料も成績もウナギ上りだそうだ。
その頃、日本を騒がせていたのは、この近所にある公園で起きた殺人事件であった。
次回、新編突入。ドラッグについて語る。




