第三十一話:鏡のヒビ
「何やってるんだよ…?」
俺らは固まっていた。女子高生は急な出来事で焦ったのか俺らの顔を何回も見ていた。
「いや、ただゲーセン行っただけだよ」
大塚はそういっていたが顔は全然そんな事を少しも言いたくないような顔をしていた。大塚は自分が苦しいのだろう。
「ゲーセンなら近くにあるじゃん。ゲーム機もあるしさ」
「…」
俺も大沢も大塚も何も言えなかった。むしろ言いたくなかった。フタリノアトヲツイテイタなんて…。
「何をしていたんだって聞いてるんだよ!!」
屋良は近くにあったゲーム機を強く叩いた。壊れたのかビービーって鳴ってディスプレイには『係員を呼んでください』と表示してある。俺らも係員に修理して欲しい。本当の事も嘘の事も言えないロボットのような心を。
屋良が怒鳴っても何も言えなかった。ロボットの心を持った男3人は、何も言えない。
俺は耐えきれずに下を見た。緑色のゲーセンの床が、いろんな形の足跡によって、黒みを帯びていて、緑色を主張出来なくなっている。俺の心ももしかしたらゲーセンの床のように、足跡のようなロボットの心が、本当の心を包んでしまったのだ。
ゲーセンの床も係員がモップを操って綺麗にする。俺も、係員に掃除してほしい。
今の俺らは、ゲーセンよりも不幸なんだ。
「俺らの後を着いてたんだろ?」
俺はその言葉に感づいて黒みを帯びた緑色から光が射す方向を向いた。
「正解かぁ。賞品あるのかな?」
屋良は笑いながら自分が壊したゲーム機を見つめた。ちょっと反省してるかも…。かわいいな。
「行こうぜ」
俺らが一言も言えないまま屋良と硲が去った。ゲーセン独特の雑音が、俺の耳を通り過ぎていた。
「何があったんだろ…」
女子高生がボソッと呟いてどっか行った。他の女子高生もゾロゾロとどっか行った。
思い出す。屋良が色んな女子に告白して破れて、嘘泣きをしながら俺らにいつも何かをおごらしていたな…。笑い、励まし、俺らは屋良の青春をいつも見ていたな。
あいつは、新たな青春に向かって旅立ちたかったんだなと俺は思う。あいつも、俺らの青春の旅立ちを願って応援してたんだな…。ならばここは屋良は卒業したんだと思え…。
「稲垣、大沢、追うぞ」
えっ…。
「追うんだよ。屋良に本当のことを言って謝るぞ」
…まあいいか。
俺らはゲーセンを走って去った。
ゲーセンの前にある50人乗りのバスの前を綺麗にスルーして屋良のもとへと走っていく。走っていく…走っていく…走って…。
「見つかんねえよ…」
都会の街を走ったが、やっぱり見つからねぇ。だってここは都会だもの。
「出番ですね…。パトラッシュ」
大沢が俺を見て言った。すると俺はパッとそれを思い出した。
「パトラッシュって、稲垣のあだ名?」
大塚が聞くと、大沢が頷いた。
「そう。俺鼻が利いてて寒がりだからパトラッシュ。俺の中学の頃のあだ名」
寒くて死んじゃってしまったからね。パトラッシュ。
「寒がりでパトラッシュって…」
大塚がこの頃の中学生のネーミングセンスに引いていた。世の中には色んなセンスがあるんだよ…。
「匂いを嗅ぐためなんか物をくれ!大沢殿」
「任せとけ。パトラッシュ」
そして、大沢殿は匂いを嗅ぐために必要な物を持ってきました。
…納豆?
名犬、パトラッシュの目の前にはおかめ納豆が一個置いてあります。
俺…何すればいいの?…ワン。
「行けー!!パトラッシュ!!」
「行けるかぁ!!」
大塚とツッコミをハモったため、ちょっと気持ちよくなった。
たく、あいつら超うぜぇ。てめぇらに見られなくても俺はちゃんと出来るってーの。
屋良はそう思いながら公園の近くを歩いていた。
「慎」
「なに?」
話の話題はもうわかってるっての。
「稲垣たち、もう反省してると思うよ」
ほら、正解。
「たぶんさ、私たちの事を思ってやったんだと思うよ」
はあ、うぜぇ。
ほんと人間の心理はわからねえ。ケンカをした後第三者と話をすると必ず相手には悪気はないって言うんだよな。たぶんだけど、そう言った奴は自分の力で仲直りさせたい。仲良しキューピッドになりたいんだよな。今目の前にもいるし…。頼むから俺だけのキューピッドになってくれ(キモい)。
「ねぇねぇ、ここで休もうぜ」
屋良は公園のベンチに指を指した。
「いいよ」
硲は了解してベンチへと向かう。すると、公園の奥で錆びた鉄と鉄がこすりあってるような音がする…。キーキーと。
「ねぇ、あっちで何か聞こえるよ」
硲は公園の奥を指で指した。そこには確かに高い音。
俺は恐る恐るケータイのカメラモードのフラッシュ機能を使った。霊、もう出てもいいぜ。
ケータイのフラッシュで照らし、俺は正体を見破った。高い機械音の犯人は、淋しくブランコを漕いでいるサラリーマン。これで一件落着…。麻里…。
俺は振り返ると、硲が震えていた。他にいるの!?幽霊。
「麻里…」
「お父さん…」
えっ?
「これならどうだ!!パトラッシュ!!」
ファブリーズ……。
「屋良見つける気あんのかよ?」
名犬パトラッシュもさすがにキレて大沢にツッコミをした。
「てか俺これ持ってるじゃん」
大塚は笑顔で俺らに屋良著作の恋人はサンタクロースツアープランを見せた。
「早く出せよ」
俺と大沢は声を揃えてツッコミをした。
「でもこれで屋良が見つかるぞ」
俺はこう言って屋良著作のプランの匂いを嗅いだ。うん、紙の臭い。
「こっちだぁ!!」
俺は叫んで走り始めた。二人は普通に引いていた。キャハハ。
俺が辿り着いた場所は公園。ここで臭いは途切れているんだ。ここしかない。
俺が確信すると声が聞こえた。
「誰かいるぞ」
「なんで、なんでお父さんがここにいるの?今日は仕事じゃないの?」
これで分かったぞ。ブランコに乗っていたのはサラリーマンの幽霊じゃなくて、硲のお父さんなんだな。世界って狭いな。
硲さんは娘に会ってからずっと黙っている。付き合ってるからなのか?
「クビになった」
硲さんはボソッと呟いた。
…クビ?リスとトラの融合形態のあれ?
「クビ…。なんで私たちに言わないの!?」
麻里は涙ながらに硲さんに聞く。麻里はやっぱり涙が似合う女だなぁ(おいおい)。
「生活に困るから、言いづらかったんだ」
「じゃあ今までの給料はどうしてたの?」
「金融会社に借りて…」
金融会社、ヤミ金?
麻里はその言葉を聞いて崩れた。てか泣き崩れた。
「なんでこんなことになるの…」
麻里は何回もそう言って泣き続けていた。
俺はただ立ち尽くすしか無かった。目の前に好きな人が泣いているのに何も出来なかった。要するに俺は弱いんだ。
俺はやや曇りの夜空を見上げてそう思った。
「なんか硲が泣いてるぞ」
大沢がそう言って指を指している。
「えっマジ!?」
俺らがその方向を見ると、泣き崩れている硲をサラリーマンと屋良が見ている光景が目に映った。
「何があったんだ?てかあのサラリーマン誰だ?」
大塚が名探偵のように疑問を生み出す。
「さっきからクビがなんたらとか言ってるぞ」
「へぇ…硲の父ちゃんクビにあったんだ」
二人の会話を聞いた時、俺はハッと何かを思い出した。
『クビにしたんですか』
『いい人だったのにね、硲さん』
硲さん…?
「ねぇ、屋良の彼女の名字って何だっけ?」
「いきなりどうしたん」
二人は俺を見てはははって笑った。
「硲だろ。覚えてろよそんくらい」
まっ、間違いない!!硲のおとんをクビにしたのは、まぎれもなく俺の父親、稲垣吾郎だ!!(SMAPではありません)
俺の頭の中で何回もベートーベンの『運命』が奏でられていた。俺んちは硲家の敵になり、その彼氏の屋良が敵になって…もう訳分からなくなっている。
そんな中でも一生懸命頭脳の細部まで使い頭の中を生理して、俺はある事を決めたのだ。
まあそうゆう訳でケンカ中の屋良よりも先に硲を幸せにすり事に決めました。(別に硲の事は好きではないが…)
乱文、長文申し訳ございませんでした。
屋良との仲直りのためある作戦を決行した俺ら。
果たして、その作戦とは何だろか?