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うちの村に異世界から無能がやってきました  作者: 投降の旗印
第二章 ゲリス編

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17. 出立

ー(マーヤ視点)ー


 私は窓枠に腰かけるユウトを呆然と見上げていた。


 なに今の話。


 どういうこと?


 複数の魔法を誰でも使える?


 そんなの訳わかんない。


 でもユウトは嘘をついているとは思えないような真剣な顔をしている。


 本当なの……?


「どうしたの。ぼーっとしちゃって。」


 ユウトの声にハッと我に返る。


「ああ、いや、ごめんなさい。衝撃的な話だったので。」


「まあ確かにこんな簡単に魔法を使えるようになるって衝撃だよね。」


「あ、いや、そこじゃないんですけど。」


「え、じゃあどこがそんなに衝撃だったの?」


「人はもともと複数の魔法を使うことが出来るってとこです。私は魔法は一つの属性しか使えないと教わってきましたから。」


「ああ、そういえばそれを教えてくれたのはマーヤだったね。」


「それって本当なんですか?」


「本当だよ。ほら」


 ユウトはそういうと手のひらから火の玉、水の玉、土の玉を次々と出した。


 本当にユウトが魔法を使えてる。しかも火と水と土。


 どういうこと?頭が追い付かないよ。


「そんな難しい顔しないで、俺は何も変わらないよ。」


 いやユウトが別人になったとは思ってないけど......


 あれちょっと待って、さっきまで “ユウトに騙された” って思ってたのに。


 実際会ってみると私を騙す気がないのがはっきりと分かる。だからあの突拍子もない話を信じられるんだけど、でもさっきの話はおかしすぎるよね。


 なぜユウトが二つの魔法を使えるようになったのかは分かったんだけど。そもそも複数の魔法を使えるようになるってどういうこと?


 私の治癒魔法はお母さんから教わったもので、物心ついたときから染み付いていたし、他の属性の魔法を学ぼうなんて微塵も思ったことなくて。


 でもユウトは使ってたし、もしかしたら本当に誰でも使えるようになるかもしれないし、じゃあ何で誰も教えてくれなかったの?


 ユウトに魔法を教えた人は、人々は間違ったことを信じてるって言ってたけど、そういうこと?みんなが間違ったことをホントだと思ってるの?


 いやまさか、この世界の人がみんな間違ってるなんて。しかも私達が一属性の魔法を使えるのは誇りみたいなもので、お母さんも「治癒の魔法を使えるのは私達ファミル族だけだから誇りを持ってもいいのよ。」って言ってたし、そんな誰でもどんな魔法を使えるなんて、そんなことあっていいわけない。


 頭の中で考えてもわかんない。ていうか私に答えを出せるのかな。


 私の頭がじんじん痛くなってきたとき、


 タッ、タッ、タッ


 と階段を上る足音が聞こえた。


「ユウト。隠れてください!」


「はいっ!」


 ユウトは窓から屋根に出て壁に張り付いた。


 トントンと襖を優しく叩く音がした。


「マーヤ。まだ起きてますか?」


 師匠の声だった。


「はい、起きてます。」


「入りますよ。」


 そう言って師匠はスーッと襖を開ける。


「先ほど、憲兵隊の方が来たんですけど、どうやらユウトさんを探しているらしいので、もし見かけたら教えてください。」


「…は、はい。」


「では、今日は色々ありましたから、ゆっくり休んでくださいね。


おやすみなさい。」


「お、おやすみなさい。」


 私の返事に優しく微笑んだ後、師匠は静かに襖を閉めて階段を下りて行った。


 は~あぶなかった~


「もう行った?」


 ユウトが窓からひょこっと顔を出して語りかけてくる。


「ちょっと!急に声を掛けないでください!」


 師匠に聞こえたらどうすんの!?


「ごめんごめん。」


 全然反省してなさそうな声で頭を下げている。


 結構軽いんだよな。この人。


「でも俺のことを言わないでくれてありがとうね。」


 ユウトが照れくさそうにつぶやいた。


「そりゃあ……言う訳ないじゃないですか。」


「でも、ガーベラさんを騙すようなことをさせちゃって申し訳ないよ。」


「いえ、謝らないでください。確かに師匠のことを尊敬してますし、なるべく嘘をつきたくないと思ってますけど、ユウトも同じくらい大事なんです。」


「そうなんだ。でももし、俺とガーベラさんどっちかを選ばなきゃいけないってなったら、遠慮なくガーベラさんを選んでいいから。その時は大人しく捕まるよ。」


「そんな事言わないでください!第一分かってるんですか?ユウトは捕まった後、殺されるんですよ!?」


「え!?マジ?」


「マジです。」


「そんなに異端者に厳しいの?」


「異端者に厳しいというか、混血に厳しいんです。」


「混血?」


「はい、違う種族の両親から産まれた子供は両方の属性の魔法を引き継ぐんです。その子供は混血と呼ばれ忌み嫌われます。」


「なんでまた……」


「ユウトが複数の魔法を使ったから混血と思われたのでしょう。混血とされた人物は憲兵の手で処刑されます。」


「え……そんな……」


「だからユウトは逃げて下さい。私はユウトに死んで欲しくありません。」


「うん……ありがとう。」


 ユウトは寂しそうに呟いた。


 でも、ユウトは1歩も動かなかった。


「どうしたんですか?早く逃げないと……

師匠がまた来るかもしれませんよ?」


「うん……そうだね……」


 ユウトは俯きながら言う。


 でも全く動こうとしない。


「逃げないんですか?」


「あの……マーヤ。」


 低い声で彼は言った。


「……はい。」


 彼の深刻な表情を見て私も背筋を伸ばす。


 ユウトは一度深呼吸した後、


「俺と一緒に、逃げてくれませんか?」


 と少し不安げな顔で言った。


「一緒に、逃げる、ですか?」


「うん。自分勝手なことだと思ってる。でも俺にはマーヤしかいない。この世界に来て最初に助けてくれたのはマーヤだったし、その後もずっとそばにいてくれた。俺はマーヤがいないとこの世界で生きていけないんだ。」


 そんな真剣な顔で言われると、ちょっとドキッとするからやめてほしい。


 一緒に逃げる。か....


 ユウト一人じゃ確かに不安だ。一人じゃ何にも出来ないし、この世界のことも良く知らない。港で仕事を始めてから大分ましになったけど、でもまだ一人で逃げ延びれるとは思えない。しかも追われながら。


 ただユウトの誘いに乗ったら、師匠を裏切ることになっちゃう。せっかく弟子と認めてもらったのに友達を助けたいから出ていくなんて、そんな不義理なこと出来ない。そんなことしたら師匠に申し訳ないし、お母さんにも申し訳ない。


 どうしたらいいんだろう。と思い悩んでいると...


 タッ、タッ、タッ、


 と階段を勢いよく駆け上がる音が聞こえ、バンと襖を開ける音がした。


 びっくりして振り返ると師匠が息を切らして立っていた。


「すみません....もうひとつ、伝えなきゃいけないことが…」


 肩で呼吸しながら師匠は言った。


「大丈夫ですか。そんなに急いでどうしたんですか。」


「えっと...ですね。あれっ、窓の外に何かいませんでした?」


 えっバレた!?驚いて振り返ると、窓の外には誰もおらず、暗い夜を月明かりが照らしているだけだった。


「気のせいですかね...」


「そ、そうですよ。それよりも何かあったんですか?」


「実は、先ほどまた来客がありまして、ジェクトさんとおっしゃっていたんですが、彼はマーヤがユウトと共犯だと疑っているらしいです。」


「ジェクト...」


 詰め所で色々と質問攻めにしてきた人だ。終始笑顔で対応してたけど、目は笑ってなくてずっと視線が突き刺さってくる感じがあって、すごく怖かった。


「マーヤはどこに行ったかと聞かれたので、もう寝ましたと伝えると、ジェクトさんはまた明日来ると言っていました。」


「彼には悪い噂が数多く出回っているようですし、もしマーヤが連れていかれてしまったらどうなってしまうのか分かりません。場合によっては店が危うくなると彼も言っていました。」


「そんな...」


 私のせいで師匠のお店が潰れるなんてことになったら、私...


「そこで提案です。」


「提案...ですか?」


「はい。夜のうちに逃げたらどうかという提案です。」


「えっ...いいん...ですか?」


「いいんですかってどういうことですか?」


「えっと、私が逃げたら次に怪しまれるのは師匠じゃないですか?私を逃がしたみたいになって、そしたらお店も大変になるんじゃ...」


「安心してください。何とかして見せますよ。」


「で、でも...」


「大丈夫です。これくらいのことは前にもありましたから。それに私は表情が読めないとよく言われるので、バレることはないと思いますよ。」


 師匠は優しく笑った。でもここに来たばかりの私だったら、その笑顔に気づかなかっただろう。


「それに、そちらに隠れている方にも嬉しい報告でしょうからね。」


「気づいてましたか~」


 ユウトが頭を掻きながら出てきた。えっ、いつから気づいてたの?


「ユウトさん、私の弟子をよろしくお願いいたします。」


「そ、そんな頭を下げないでください。ガーベラさん。むしろ俺の方が助かることが多いと思いますので...」


 師匠に頭を下げられてわたわたするユウト。ユウトと師匠が話すのはこれで最後になるかもしれない。その光景をちゃんと目に焼き付ける。


 よし、準備しよう!


 私は必要なものだけを急いで詰め込んでいった。もっと持っていきたいものはあるけど、あまり大荷物だと逃げ遅れてしまう。


 準備を整えて部屋に戻ってきた。


「早かったですね。荷物はそれだけでいいんですか?」


 かなり軽装な私を見て師匠は言った。


「あまり荷物が多すぎると、移動が遅くなりますから。」


「そうですか。」


 そう言うと、師匠は私の部屋をぐるりと見回し、机の上に置いてあった1冊の本を持ってきた。それは植物事典だった。


「この本は持っていった方がいいですよ。植物の知識は何かと役に立つでしょうから。」


「ありがとうございます。」


 そのずしりと重く分厚い本を、巾着袋の中に入れる。


 もう一度荷物を確認して、師匠に向かいなおした。


「師匠、これまでありがとうございました。」


 私は深々と頭を下げて感謝の意を伝える。


「今生の別れみたいになってますけど、まだ教えてないことがたくさんありますし、また働いてもらいますからね。」


「はい!」


 外にいるユウトの手を取って窓から出るとき、もう一度振り返った。


「また来ます。絶対。」


 そう言って、私たちは月夜の街に消えていった。

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