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狼少年の話  作者: 美橘
14/17

狂狡の娘

※グロ表現注意

村人たちが悲鳴を上げる中、騒ぎを聞きつけてきたドクは我が目を疑った。

血の流れる地面に転がる村人の死体と、目を見開いたままのガランの頭。

その近くには散った花に埋もれた体がうつ伏せで倒れている。

そして逃げ惑う村人を追いかけ、鋭い爪で切り裂く少女とも狼とも言えるそれ。

サラが着ていたワンピースは血に染まり、白かったとは思えない。

頭と胴体はかろうじてサラのままなのだが、炯眼が最早サラが正気ではないことを物語っていた。


「なんということだ…。恐れていたことが起こってしまった…」


ドクはその場に崩れそうになるのを必死に堪える。

そこへ向かい側の方からサロメが走ってくるのが見えた。


「サロメ…!」


ドクは急ぎサロメの元へ走った。

現状を見たサロメは真っ青になった顔でドクを見つめた。


「村長…。これは一体…」


ほとんど涙目のサロメにドクは伏せ目がちに推測を告げる。


「向こうにガランが転がっとる。恐らくルカの事を理由に言い寄ろうとでもしたんだろう」


「あのバカ野郎…!」


村人の悲鳴が響く中、2人はひたすらにサラを止める方法を考えた。

早く止めなければ村が滅んでしまう。

そして恐らく自分たちもサラに殺される。

まるで狼族を滅ぼしたあの日のようだと、ドクは思った。


「報いなのかもしれんな…」


ドクの呟きにサロメは眉間に皺を寄せる。


「村長、やめてくれ。サラは優しい子だ。こんなこと望んでいるはずがない。そう…俺が森の中であの子を見つけた時から、穏やかで心優しい子だったんだ」



ちょうど17年前、サロメが森で狩をしていた時、赤子の泣き声が聞こえた。

不審に思ったサロメが声の方へ寄ると、大樹の穴に泣いている赤子とその傍らに息絶えた女性がいた。

おそらく母親なのだろう。

変わりに人の形によく似た狼が死んでいた。

心臓が大きく跳ねた。

狼族の生き残りがいたのか…!?

狼族は人間よりも長命だ。

滅亡を告げられた時から、これまで生き延びていてもおかしくはない。

サロメは赤子を抱き上げ、あやした。

その時に見た赤子の左手は人のそれとは違い、毛深さの中に鋭い爪が生えていた。

その赤子は間違いなく、死んでいる狼族と女性の子供だった。

サロメは黙って赤子を連れ帰った。

サラはそのことをサロメから、ルカはサラから聞いた。

そして翌日、ルカは叫び始めた。

狼は確かに生きていた。

そして今もまだ生きている。

そのことを伝えるために。

そしてサラの願いは…


「ウォォォォン!!」


サロメが思いに耽っていた矢先、離れた場所から銃声と咆哮が響いた。

その音にサロメとドクは一瞬顔を見合わせ、同時に走り出した。


「サラ!!」


村の入り口に着いた2人はこちらに背を向けて立つサラを見つけ、サロメが名を呼んだ。

振り返ったサラは両手に男の頭を鷲掴みしている。

その1人は見たことのある男だった。


「…カガミ!?」


ドクが驚いて言うと、サロメはサラから視線を外さないまま、誰だ?と聞く。


「この前狼退治だと言ってここに来た男だ」


ドクの答えにサロメが男のことを思い出していると、サラは掴んだ男を左右に投げ捨て、2人に向かって走り出した。

これはきっと報いだ。

サロメがサラの名を叫ぶ隣で、ドクは静かに目を閉じた。

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