嘘の深意
翌朝、村は静けさの中動き出していた。
仕事を始める男たちや、家事に勤しむ主婦たちには笑顔が見られず、どこか暗い表情だ。
毎朝うるさいくらいに響いていたルカの声が聞こえず、どこか物寂しさを感じているからだった。
「なんだか急に静かになったわね」
「そうねぇ。ルカの声に笑う人たちが沢山いたものね…」
「もうあの声を聞けないと思うと、少し寂しいわ」
いつもの主婦たちが路傍で話している。
その表情もやはり、明るさと快活さがない。
静けさは朝日が天を通り過ぎるまで続いた。
午後、サラは1人村の中を歩いていた。
寂寥感漂うサラを見兼ねて、サロメが散歩でもしてこいと言ったのだ。
村人たちはいくらか元気を取り戻しているようで、ちらほらと笑顔も見える。
そんな中、大股でこちらに向かってくる男がいた。
「ガランさん…」
場違いな程陽気に見えるガランはサラの前で立ち止まると、背に隠していた花束を差し出した。
「サラ。ルカの事残念だったな。これ、墓にでも飾ってくれ」
いかにも気遣うような声と、眉間に寄せた皺が逆にガランの下心を明確にしている。
そんなガランのあけすけな態度に、サラは静かに怒りを感じていた。
「…」
「しかし、あいつもバカだなぁ。うちの親父…いや、所長を敵に回すようなことをするからだ。俺に媚でも売っときゃ違ったかもしれんのにな。はっはっは」
ガランの声に周りにいた村人たちが口々に悪口を漏らすが、サラはただ黙って差し出されたままの花束を見つめていた。
「ちょっとあんた、サラの気持ちも考えてやりなさいよ。いくらなんでも無神経すぎるわ」
1人の主婦がガランに近づき、そう言った。
遠巻きに村人たちが頷いている。
「あぁ?俺はサラを慰めてるんだろうが。だいたい根も葉もない嘘なんかつくルカが悪いんだろう。サラを苦しめた挙句、こんな辛い表情をさせるあいつが!」
その言葉に村人たちの声が変わった。
ガランの悪口からルカの嘘に対する言葉に。
「確かにルカはしょうもない嘘をついていたけど、あたしらにとっては些細なものだったんだよ!?」
主婦はそう言ったが、周りの言葉は疑問や非難の色に染まっていた。
そして誰かが言った。
「結局、あんな嘘をついたルカが悪いってことか…?」
サラの握り締めていた拳から血が滲み、落ちた。
やっぱりそれが皆の本音?
ルカは死んで当然だって?
そんなの、間違ってる。
「…ない」
「え?」
サラの呟きに主婦が気付き、問い返す。
「ルカは悪くない!あの嘘は私のための嘘だったんだもの!私を罰するべきだったのよ!!」
激しい語気と見たこともないサラの怒りにその場にいた全員が凍りついた。
「な、何を言ってるんだサラ。何であんな嘘がお前のためになるんだ?」
しどろもどろになりながらもガランが問うが、サラの耳には届いてなかった。
サラの様子に驚いていた主婦が小さく悲鳴を上げる。
包帯を巻いていなかった右腕が急激に毛深くなり、爪が恐ろしく長い鋭利なものに変わっていたのだ。
「サ、サラ…?」
その様子に他の村人とガランが気付いた時には、サラの四肢はほぼ狼のそれと同じものになっていた。




