ルカの最期
松明の火が辺りを明るくし、中心の処刑台を囲むように村人全員が集まった。
サラの両隣にはドクとサロメがそれぞれ寄り添っている。
「ルカ…」
誰かの声が聞こえ、場は一斉に騒がしくなった。
役人に連れられたルカが村人の間を通って歩いてくる。
口々に言葉を発する村人に、ルカはにっこりと笑ってみせた。
サラの後方からも声がした。
「気の毒だが、自業自得だろう」
「あぁ。あのガジェット所長が放っておくわけないもんなぁ」
…!
とっさに振り返って憤怒しそうになったサラの肩を、サロメがそっと抑えた。
少し強めの力に振り仰ぐと、唇を引き締め何かを必死に堪えるサロメの表情があった。
恐らく、いや、確実にサロメも憤りを感じているのだ。
それを堪えている。
ルカのために。
サラは肩に乗っているサロメの手に自分のそれを重ね、処刑台へと視線を戻した。
ちょうどルカが台に上がり、首に縄がかけられるところだった。
縄がかけられたのを確認し、宰らしき役人がルカの斜め前に立つ。
「これより罪人ルカの処刑を始める。罪名は虚言・瞞着罪。これによる被害者が数名。これを重罪とみなし、よって絞首刑とする。ルカ少年、何か言うことは?」
淡々と書状を読み上げる宰に対し、村人の中から不満の声がちらほら上がる。
問われたルカは真っ直ぐにサラを見つめた。
その様は豪胆で、勇ましい姿と表情だった。
「サラ!ごめんな。守ってやるって約束、叶えられなかった。それと、はっきり言ったことなかったけど…だいすきだ」
ルカの言葉にサラは首を横に振っていた。
違う。叶えてくれたよ。
言いたいのに、喉が詰まってて声が出ない。
泣くのを必死に堪えているから。
「…おっさん、ありがとな。ドクじいちゃん、ごめんな。じいちゃんのせいじゃないからな」
言葉を続けるルカの声は聞いたこともない程に穏やかで、サロメもドクもただ見つめ返すことしかできずにいた。
そして漸くサラは声を絞り出すように言った。
「ルカ…違うよ…。ルカはずっと私を守ってくれてたよ。そして願いも叶えてくれたんだよ。ルカは何も間違ってない。何も悪くないよ…」
そこまで言って、サラの目から涙が落ちた。
最後に詰まりながら言った“だいすきだよ”は聞こえただろうか。
涙で歪む視界の中、揺れ動くルカが足元から落下するのが見えた。
縄で吊るされたルカに悲鳴が次々飛び、役人に対して義憤の声が上がる。
「ルカ…!」
堪え切れず、顔を覆ってその場にしゃがみ込むサラに、サロメも同じようにしゃがみ、そっと背を撫でた。
松明に照らされた処刑台からルカが降ろされたのは、それから1時間後だった。
その間ずっとサラはその場から離れず、何も言わずにサロメとドクは一緒にサラの背を撫で続けた。
ただ、ドクはサラの言葉が気になっていた。
“願いを叶えてくれた”
サラがずっと願っていたこと。
それが叶ったということは。
…サラ、まさかお前まで死ぬ気なんじゃなかろうな…。
不安は増すばかりだが、果たして自分に止めることができるだろうか。
ルカの事でドクは自分の無力さを思い知り、矜持をも失いかけていた。
処刑台の周りに残っていたのはサラ、サロメ、ドクと役人が数名。
風の音すらも聞こえない、静かな夜だった。




