日暮れまでの時間
村へ戻る道を、ドクはずっと悩みながら歩いた。
緑の匂いも、鳥のさえずりも、風に揺れる木の葉の音も身に感じない。
どうにかしなくては。
だが村長の立場でも役所の決定には逆らえない。
もどかしい。
ただひたすらに考え続け、そうしているうちに村に着いてしまった。
解決法は見つからないままだ。
村の中は朝よりも騒がしくなっており、役人が入り口に2人立っていた。
手には身の丈ほどもある警棒を持っている。
「何なんだ一体…」
役所の行動の早さに、ドクは焦りを覚えた。
村の中央は処刑台を造っている最中だった。
働いているのはクシャナ村の男たちで、役人が周りで指示を出している。
「おい!村人に造らせるとは何事だ!お前たちが造ればいいだろう!」
憤懣やる方ないドクは入り口の番をしていた役人の1人に言った。
「ガジェット様からの命なのです。村人たちには連帯責任として、ルカ少年を処刑する台を造れと」
役人はしれっと言ってのけ、ドクは怒りを通り越して戦慄を感じた。
ガジェット…。
陽は天を過ぎ、午後の光へと変わっていた。
クシャナ村の役所である小さな家には役人が1人見張りとして扉の前に立ち、中には捕らえられたルカがいた。
「なぁ、別に逃げないからさぁ、これほどいてくれよ。最期ぐらい好きな人の傍にいさせろっての」
後ろに腕を縛られたルカはイスをガタガタ揺らしながら、机越しに座るヒゲの生えた役人に言う。
「馬鹿なことを言うな、ませガキ。お前は時刻がくるまでここで反省するんだ。悔恨でもしていろ」
チッと舌打ちしてルカは役人を密かに睨んだ。
サラと散歩に行こうとした途中、役人に見つかって捕らえられた。
その場にサラを置いてきてしまった…。
ルカはそのことに不安を覚える。
サラ…。
俺が守ってやるって決めたのに。
こんなところで死んでる場合じゃないんだけどな…。
ごめんな、サラ。
ルカは黙って時が来るのを待った。
外では処刑台が完成間近だった。
サラは自宅に戻るよう役人に言われたが、家には向かわずにドクの家へ走っていた。
ルカ…!ルカ…!
胸のどこかに、こんな日がいつか来るんじゃないかという不安の塊があった。
ルカの嘘は自分のためなのだから罰せられるのなら私だって…。
サラは処刑台を造っている様子を、絶望の眼差しで見つめるドクを見つけた。
「村長さん!」
「サラ!ルカはどうした?」
「役所の人に捕まっちゃったんです!村長さん、ルカを助けてください!ルカは何も悪くないのに…!」
ドクの胸に手を押し当ててサラは必死に言った。
役人の指示の声と村人の掛け声が響く。
「すまない…。わしにはもう、どうもしてやれんのだ。役所の決定は絶対なのだよ…。すまない」
働く村人たちとドクは同じ表情をしていた。
絶望と、諦めと、悔しさに歪んだ顔。
「そんな…。私のせいで…」
サラもまた、嘆恨にうなだれた。
助けることは出来ないのだろうか。
クシャナ村が赤く染まり始め、処刑台の周りに松明が設置されていく。
もうすぐ日が暮れる。




