↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

12話 看病と質問

 朝、目覚めるといつもと違う倦怠感に襲われた。明らかに熱を持った身体を起こそうとすると、頭に鈍い痛みが走る。

 確か昨夜、1人で呑んでそのまま布団にも入らず雑魚寝をしたことを思い出した。ダルいまま熱を測ると、体温計には『37.8℃』と分かりやすく熱があることを示す。

 仕方なく今日は休むことを颯介に連絡し、重要事項だけ後で教えてもらおう。


「よいしょっと」


 玄関から声がしたと思えば、すぐに扉が開かれた。このアパートは、扉を開ければすぐにリビングに繋がっているため、ピッキングをした雛実ちゃんとすぐに目が合った。


「あれ、幽太君風邪?だいぶ具合悪そうだけど」


 雛実ちゃんはゲームをしに来たのだろう、コントローラーを机に置くと、俺のおでこに手を当てる。


「これは37.8°だね」

「なんで分かるんだよっ…いつっ」


 いつものツッコミをしようとするが、声を上げると頭に響く。雛実ちゃんは俺の様子を見ると、部屋に戻って行った。

 数分後、雛実ちゃんはありったけの飲み物と、冷却シートを手に近づいてきた。


「風邪の時はいっぱい汗出さなきゃだから、いっぱい飲んでね?あと、冷たいかもだけどっ」


 俺のおでこにひんやりとした冷たさが広がり、頭痛も少し和らいだ。雛実ちゃんは、俺の体調を気遣ってか『じゃあ、あったかくしてるんだよ〜?』と帰って行く。

 一人暮らしだと体調を崩した時、メンタル的にも辛いのだが、雛実ちゃんのような友人が1人いるだけで、だいぶ救われる。



 雛実ちゃんの言いつけ通り暖かくして、一眠りしていると外は既に夕暮れになっていた。体調は朝よりは良くなったものの、健康かと言われると首を縦には振れない。

 スマホを開くと、颯介と浠柑から授業の内容が送られていた。

 それと、2人から『起きたらちょっと外に出てみて』と追伸が綴られていた。

 重い身体で外へ出ると、ドアノブに袋がかけられていた。


「いい友を持ったもんだな」


 中には薬や軽食が入っており、この状況において最高の差し入れだった。

 部屋に戻り飲み物を一口飲んだが、あまり食欲が湧かない。食べないといけないのは分かるのだが、脳はそれを拒む。

 少しでも良くなるためと、再び布団に潜るが、長く寝ていたため目はギンギンだ。


「明日は大学行けっかなぁ」


 天井のシミを数えながら、そんなことを呟いているとチャイムが鳴らされる。


「入るわよ」


 こちらの返事を待たずに入ってきたのは、月見里さんだった。

 月見里さんはそれ以上は何も言わず、俺のほとんど使ってないキッチンに立つ。

 コンコンコンと包丁がまな板に当たる音が聞こえ、実家にいる頃を思い出した。


「あんた苦手なものとかないわよね、あっても食べてもらうけど」

「月見里さんの手作りなら、なんでも食べれる」


 嘘は言っていないのだが、ほのかに月見里さんが笑ったように見えた。



 15分ほどすると、完成したのか自前のエプロンを外し、机に運んでくる。

 色合いが華やかなお粥に、だしの香りが食欲を引き立てる味噌汁が目の前に置かれる。


「あ〜んまでしてもらったり?」

「自惚れないで」


 冷たい返しに熱も冷めてきた気がする。

 湯気の立つお粥を一口すする。柔らかな米の甘みが口の中に広がり、思っていたよりも優しい味だった。

 続けて味噌汁を口に含む。出汁の風味と味噌の塩気がじんわりと身体に染みていく。


「美味しい」


 ふと溢れた感想に月見里さんは満足気だ。

 止まることなく食べ進め、いつの間にか茶碗はからになっていた。


「あとは薬飲んで、よく寝る事ね」


 皿を洗った月見里さんは、周りのゴミなども簡単にまとめてくれた。何から何まで申し訳ない。

 月見里さんが帰る時、遠ざかる背中を見ていると『待ってっ、くれ…』とつい、呼び止めてしまった。


「あ、いや…やっぱなんでもない…」


 月見里さんはピタリと足を止めると、ニヒルな顔で見つめてくる。


「もしかして、1人だと寂しいのかしらぁ〜?」


 クスクスと笑う月見里さんの目を見れず、布団で顔を隠す。早く居なくなってくれと、待っているが扉の音が聞こえてこない。

 チラリと布団を捲ると『ばぁ〜っ』と月見里さんが覗き込んでいた。


「仕方ないから、明日の課題終わるまでいてあげるわよ」


 恥ずかしい気持ちがほとんどだが、少しだけ安心も感じた。



 あれから何分が経っただろうか、パソコンを持ち込んできた月見里さんは、黙々と作業を進めている。キリッとした目元や、考え込む時に唇に指を当てる仕草が何故か可愛く見える。あぁ、普通に美人だったか。

 最近の月見里さんのイメージは、ゲームで悔しがったり、暴力の助長など、見た目とは乖離したところを見てきたため、忘れていた。


「そういえば朝方に雛実ちゃんが来たらしいわね」


 一区切りついたのか、雑談混じりに聞いてくる。


「あぁ、飲み物とか冷却シートとか色々貰ったんだ。後でお礼しとかなきゃな」


 月見里さんは『ふぅ〜ん』と気の抜けた返事をする。


「私と雛実ちゃん、ど(・)っ(・)ち(・)が(・)嬉(・)し(・)か(・)っ(・)た(・)?」


 こんな時に頭が痛くなる質問をしないでほしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。