運命的な出会い1
自分の思いとは裏腹に、
周囲の評価だけが独り歩きしていく。
その歪んだ差を思い知らされながら、
俺はただ流されるように日々を過ごしていた。
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四年生になると、クラス替えがあった。
どの教師がどのクラスを受け持つか──
体育館で先生たちが話し合っている声が、遠くから聞こえていた。
そのとき知った。
杉浦が、この学校に戻ってきている。
さらに、
数名の新人教師のうち一人が、四年生を担当することになっていた。
問題は、どちらが俺のクラスを持つかだった。
「新人に、あのクラスはどうなんだ……」
そんな言葉が、はっきりと俺の耳に届く。
だが次の瞬間、
新人教師はまっすぐ前を見据え、はっきりと言った。
「私が担当します」
迷いのない声だった。
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「はじめまして!
今日からこのクラスを担当します。
よろしくね!」
はきはきとした口調。
真っ直ぐで、まぶしいほど澄んだ目。
浜田先生。
この出会いが、後の俺の人生を大きく左右することになる。
だがそのときの俺は、
浜田を妖しい目で見つめる杉浦のほうに、ただ嫌悪感を覚えていた。
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宮田の一件以来、俺にはさぼり癖がついていた。
学校へ行ったり、行かなかったり。
そんなある夕方、家のインターホンが鳴る。
無視した。
だが何度も鳴る。
しぶしぶ玄関へ向かうと、外から大きな声が聞こえた。
「三浦くん!先生だよ!居るよね?開けて!」
恥ずかしさに押され、俺は扉を開けた。
立っていたのは──
浜田だった。
説教が来る、そう身構えた俺に、先生はまったく別の言葉を投げた。
「先生、お腹すいた。
一緒にご飯食べに行こうよ」
あまりに唐突で、断る隙すらなかった。
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連れて行かれたのは、ファミレスでも、子ども向けの店でもない。
静かなジャズが流れる、落ち着いたレストランだった。
向かい合って座り、
先生はメニューを差し出す。
「好きなもの、頼んでいいよ」
その優しさに、胸の奥がわずかに揺れた。
食事のあいだ、
先生はただ、俺の話を聞いた。
そして静かに言った。
「学校の授業だけで、
将来が全部決まるわけじゃない」
「この料理だって、
手に職をつけて一生懸命つくっている人がいる」
勉強もせず、
悪童と呼ばれていた俺にも、その言葉は不思議と届いた。
「でもね。
学校に来なければ、何も始まらないよね」
「いきなり毎日来い、とは言わない。
だけど、できるだけ早く戻ってきてほしい」
真剣な眼差しだった……
その瞬間、俺は初めて思った。
まだ、学校へ行く理由は残っている。と。
数日後、俺は再び通い始めた。
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登校を再開して間もない朝。
教室へ向かう途中、男子トイレの中から複数の笑い声が聞こえた。
「ざまぁねぇな!」
──いじめ。
知らない連中が、閉じているトイレのブース前で高笑いしていた。
俺はそのまま中へ入っていた。
「おい……何してんの?」
俺の姿を見た瞬間、そいつらは顔色を変え、逃げるように去っていった。
根も葉もない噂──
五年生に勝った、バックに上級生が付いている。
事実とは違う話が、俺を別の存在にしていた。
「おい、出てきて大丈夫だぞ?」
俺の言葉に反応したようにブースの扉が開いた。
そこには、ずぶ濡れの少年。
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長谷雄治。(はせゆうじ)
こいつとは、田舎を出るまで続く、長い関係の始まりだった。
体格はいい。
背も高い。
なのに──ひどく臆病だった。
最初は苛立った。
だが、見捨てることはできなかった。
──和樹との出会いに、どこか似ていたからだ。
「……ちょっと来いよ」
状況を知ろうとユージを体育館裏へ連れて行く。
だがその前に、この濡れたままではまずい。
周囲を見回し、
見つけたのは、自分の体操着。
「これ、貸してやる。着替えろ。」
背の高いユージが、
小柄な俺の体操着を着る。
当然──ぴちぴちだった。
そんな姿のユージに思わず、腹を抱えて笑った。
久しぶりの、心からの笑いだった。
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やがてチャイムが鳴り、二人で教室へ向かう。
ユージは一組。
杉浦のクラス。
面倒ごとから目を背ける教師。
──やはり、どこか似ている境遇だった。
そんな、ぴちぴちの体操着のまま走っていくユージの背中が、やけに可笑しく見えた。




