兄の心情
あれから俺は、
どうにかして奴らに報復する方法を考え続けていた。
だが──
決定的な策は、何一つ浮かばない。
その日は土曜日。
集団下校の日だった。
地区ごとに集まり、登校時と同じ顔ぶれで帰る。
ただそれだけの、ありふれた時間。
そのはずだった。
ふいに、視線を感じた。
宮田…………
そして同時に、気づいてしまった。
──こいつ、
俺たちと同じ地区に住んでいる。
次の瞬間、宮田の肩に腕を回して笑っている、兄の姿が目に入った。
宮田は、兄に向かって頭を下げ愛想笑いを浮かべている。
その光景を見たとき、俺の中で、点と点がつながった。
最初から知っていたのだ。
俺が、兄の弟だということを。
そして、兄には決して逆らえないことも。
だから、その鬱屈の捌け口が、俺なんだと。
兄の前では媚び、俺の前では威張る。
その事実に、胸の奥が焼けつく。
──殺す。
──────
家の近くで兄と二人きりになると、俺は宮田のことを話し、家の場所を聞いた。
だが、返ってきた言葉は──
「やめとけ。
宮田に手出したら、俺がお前をボコる」
あまりにも理不尽だった……
兄という存在そのものが、どれだけ俺を惨めにしてきたか。
こいつは何も分かっていない。
もう頼れない。そう感じた。
そう悟った俺は、自分で宮田の家を突き止めた。
────
団地の一室。
そこに立ちながら、どうすれば勝てるのかを考える。
だが、答えは出ない。
それでも、何もせず帰ることだけはできなかった。
気づけば俺は、庭側に回り込み窓ガラスへ石を叩きつけていた。
乾いた破砕音。
中から声が聞こえてきた。
そんな俺はすぐにその場から逃げた。
そして、すべてが始まった。
──────
翌日。
昼休み、塚本に呼ばれ歩いていると、宮田たちに囲まれ、裏山へ連れていかれた……
仕返しだと、すぐに分かった。
だが証拠はない。
「なんで俺がやったことになるんだよ!」
最初から殺るつもりの奴らに話しなんて通じるはずもなかった。
地面に顔を押しつけられ、腹をおもいっきり蹴られ、
給食を吐く。
髪を掴まれ、何度も殴られ、唾を吐きかけられる。
多勢に無勢。
勝てるわけがない。
だが……本当の地獄は、その後だった。
「おい、お前もやれ。」
宮田が、塚本に言った。
まさか、と思った。
だが塚本は、何の躊躇もなく俺の腹を蹴った。
──裏切り。
理解した瞬間、胸の奥が静かに崩れ落ちた。
惨めだった。
弱いというだけで、ここまで踏みにじられる。
──────
それから四年生のある日まで、俺は奴らの駒になった。
万引きの強要。
新しく買ってもらったチャリを奴らのボロいチャリと交換させられたり
仕舞いにはカツアゲ……
全て宮田達に奪われてる。
当然、学校にも母にも知られてしまう。
そして──警察。
黒いインク。
十本の指。
指紋の記録。
小学生にして、犯罪者。
隣にいた母の顔を、俺は見られなかった……
──────
帰宅後、涙が止まらなかった。
その時だった。後ろから声をかけられた。
「直樹。宮田か?」
兄だった。
そんな俺は、黙って頷いた。
───────
翌日、俺は仮病で学校を休んだ。
母は、何も言わなかった。
そして夕方、兄が怪我をして帰ってきた。
そんな兄は俺の所に来て口を開いた。
「もう大丈夫だ。話つけてきた、明日から学校行け」
それだけだった。
──────
登校すると、塚本に昼休みに体育館の裏に来いと、案の定言われた。
逆らう気持ちなんて微塵もなくただ俺は、体育館裏に足を運んだ。
たが、そこには顔を腫らしている宮田達が居た。
すると奴等は──
「もう関わらない。お前も関わるな」
ただそれだけを言って去って行った………
──兄だ。
ようやく、分かった。
────────
その夜、俺は兄に礼を言おうとした。
だが、拳が飛んできた。
「お前が弱いから
周りに迷惑かけてんだろうが!」
正論だった。何も言えない。
そして最後に、兄は言った。
「もう俺に関わるな。
同じ血が流れてると思うと吐き気がする」
────────
目の前が、真っ暗になった。
兄に見放され、
友に裏切られ、
母を泣かせた。
──俺は何なんだ。
だが世間は、そんな感情など一切気にしない。
噂は膨れ上がり、俺の存在だけが歪んでいく。
それが──
三年生から四年生にかけての、俺だった。




