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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第肆話 月に吠える
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11:しあわせになる権利

 その光景はOSF棟の屋上にいるアルマからも見えていた。


「なんで……!」


 なんであなたはそうまでして、なお前に進もうと出来るの? 


 痛い思い、いっぱいしただろうに。悲しい思い、いっぱいしてるだろうに。


 久遠は(なんで、だって?)と続けた。マザランの猛攻を耐え抜き、トーテムを何度も乗り継ぎながら、OSF棟に近づく。屋上にいるアルマからも、久遠がキツネのトーテムに乗り移る様子が見て取れた。彼はもうすぐそばまで迫っている。


(そんなの、同じことをあんたがずっと続けてきたからだろうに。どんなに先の見えないどうしようもない世界でも、あんたが明日のために祈り続けてくれるから、おれも頑張れる。不安でも、同じように前に進んでみようって思えたんだよ)


「そうですよ! わたしだって、あなたがそうして頑張る姿を知ってるから、隣で見てきたから、ここまで頑張ってこれた! 前に進んでこれた! あなたはいつだってわたしのヒーローだった! 全人類が平等に生き延びられる道を示しちゃったり、一人で神獣に立ち向かってアルマの太刀を作っちゃったり、その背中を見てきたからわたしも頑張れた!」


 アルマは「だけど!」と声に力を込めた。


「あなたの存在は、わたしから大好きなトドゥル人を奪った! 勝手に記憶を捨てて、みんなの頑張りからも目を背けようとした! もうわけわかんないんですよ! わたし、あなたの声が好きなのに、あなたの背中が好きなのに、あなたの声を聞くと虫唾が走るし、あなたの背中を見ると刃を突き立てたくなるの! ずっと会いたかったのに、こんなのってない!」


 いのりはぺたりと地面にへたり込むと「もう嫌だよ……錬金術って奇跡を起こしてくれるんじゃなかったの? いつもみたいに奇跡を見せてよ……」と顔を覆った。


「あなたはひとつ、わたしに記憶喪失という嘘を吐いた。だからわたしもひとつ、あなたに記憶喪失という嘘を吐いた。ひとつの嘘はまたひとつの嘘を呼んで、がん細胞のように膨れ上がる。お互い、許されない仕打ちをしたの。だから……」


 いのりは胸を抑え「……だからもう、全部無かったことにしたいの」と告げた。


 マザランが地上に向けて無数の荷電粒子砲を放つ。だがそれは今までのものとは違い、無秩序で狙いの定まっていない破壊行為だった。ごりごりと地上をえぐる荷電粒子の火線たちは、やがてそのすべてがOSF棟にいるアルマの方へと向かい始める。


(やめろ! アルマ!)


 自身を消し飛ばそうとするアルマの意図に気づいた久遠が、叫んだ。


 久遠が移ったキツネのトーテムは、もうOSF棟まで五〇〇メートルも無い距離だった。


 だけどあと一歩、あと数十秒間に合わない。


 人類を滅ぼした神獣の光が、OSF棟ごとアルマを吹き飛ばそうとした、次の瞬間。



(――間に合えぇぇッッッ!)



 OSF棟近くの地面が大きく地割れし、建物よりも大きな土竜のトーテムが現れる。


 見知らぬ青年の声とともに地中から現れた土竜の神獣が、荷電粒子砲からOSF棟をかばう。


 飛び散る粒子の欠片が、星屑のように瞬く。


 敵だったはずの神獣に守られたアルマは、思わず「なんで!」と叫び返していた。


 荷電粒子砲の照射が終わると、土竜のトーテムは大きく傾いだ。 


 次いで、ズシンという地面の揺れと、暴風がアルマの元まで届いてくる。


(重力鋲展開! 液晶霊素最大噴霧! ぎりぎりだけどビームは偏向できてる! 久遠先生! 来い! 錬金炉は暖まっている! あなたの身体は準備できてる!)


 土竜のトーテムの操縦者だろうか、若い青年の声が轟いた。


 キツネのトーテムが最後の力で月に吠え、久遠の人工単子を土竜のトーテムに送り届ける。


 咆哮に呼応するように、土竜のトーテムは虹色の光に包まれた。


(賢者の石読み出し開始! 人工単子パッケージ展開! 戦闘中錬金出力!)


 虹色の光に包まれる巨大な土竜のトーテム。


 青空を覆う光の魔法陣。


 遅れて届く、暴風。


 ビームの破片がきらきらと星屑のようにきらめく。


 アルマは力なく、呟いた。


「多くの人の人生を滅茶苦茶にしたわたしたちに、しあわせになる権利なんてないでしょ」


 久遠は土竜のトーテムを介して、言った。


(でもおれはさ、あんたと暮らしたこの一ヶ月、たぶん好きだったよ)


(出力完了! サポート材ごと射出するぞ!)


 やがて錬金術の出力が終わる。


 土竜のトーテムを駆る青年の声は(射出!)と叫んで、雲野久遠の人体錬成を完了させた。


 そして……トーテムから、虹色の繭玉が放出される。


 繭玉は空高く舞い、ぱりぱりと虹色の破片に割れていった。



 ――否、中から久遠が繭を割って出たのだ。

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