84 開戦
風魔法で玉座の間の前までみなを運ぶ。扉の前についたときに、奥に異質な者達がいるのだとよくわかった。
アクトもただ剣を集めていたわけじゃないだろう。仲間を集め、世界を滅ぼす為に動き回っていたはずだ。前見た時は、側近の盲目の女だけだったが、恐らくこの気配からもっと人数がいるだろう。
……本当に俺達は勝てるのか。そんなことも思った。それはもちろん、俺だけじゃなくみんなが思っていることだ。戦闘経験の未だに浅いマルンは一番不安だろうし、経験のあるジースやパブリはこの気配を感じ取って心配になっているだろう。
ティアフォールドを復讐で滅ぼすだけだったのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
「カズヒロ様?」
「……なんでもない」
もう逃げられないもんな。アヴィに微笑んで、俺は扉に手をかけた。
ギイ、という重い音がして、大きな扉が開いていく。
中には案の定、気味悪く微笑むアクト。そして盲目の側近、その他のメンバー……こいつらは知らない顔だ。
そして――
「ティー師匠」
師匠がいた。俺が呼べばビクリ、と肩を震わせる。師匠のいる場所まで距離があるとしても、あの表情は見たことがない。
後ろめたいような、怯えているような。兎にも角にも、俺を騙してたことを悔やんでいるのは確かだろう。
だが俺が怒りを感じているのはそこではない。
アクト側に居る事だ。
「あの方がカズヒロ様の師匠様ですか?」
「ああ」
今でも昨日の事のように覚えている。剣技や魔法を学んだこと、沢山の本を読ませて貰えたこと、食卓を囲んで笑ったこと。
だからこそ、あの人はあの男の横に立つべき人間じゃない。たとえ人の命を奪って得た不老不死の者だとしても。
「君に僕を殺せるかなぁ」
アクトは言った。挑発のつもりなのだろう。自分が死なないというのを利用した皮肉だろうか。だからといって俺が諦める気などはさらさらない。出来る限りの全力で、このクソ野郎を殺すだけだ。
「俺の望みはそこに居るバカ師匠に説教して、このクソ王国をぶち壊すことだ。お前はただの障害物でしかない」
「ふーん、頑張ってね」
アクトが手を上げる。俺は剣にポケットから収縮させていた《星の孤剣》を取り出してオリジナルサイズへと変化させた。
アクトの手がこちらへ向くと、カマイタチのような激しい風が吹く。今まで経験したことのない強烈な風魔法だ。
マルンが咄嗟に前に出て、それを防ぐ。まだ未熟だからなのか、魔法が強力だからなのかは不明だが、防いでいるマルンの表情がこころなしか苦しげだ。
アクトの仲間もそれを合図に、《カマイタチ》を避けながらこちらへと走ってくる。
……本格的にぶつかり合いになるな。
「おっと!」
ガキン、と金属がぶつかる音。それは、ジースと敵陣の女だった。ジースに短剣を防がれたことを不服そうにしている。
そして防いだジースも焦りが見える。……俺はその女が寄ってきたことに気付かなかった。ジースも焦っていることから、相手は相当な手練。ようやっと凝らしてみて気付いたのだろう。
「大将の首を取れなかったのは初めてよ」
「そりゃ光栄だね」
ジースは俺を一瞥する。別に取る気はなかったが、あの女はジースの獲物となるらしい。初めて対等――それ以上の人間に出会えて嬉しいのだろう。
俺が返事をしないうちに、女の剣戟に押されて部屋を飛び出していく。
「おや、うちの暗殺者が持ってかれちゃったよ」
「……こっちも一緒だよ」
「アハハハ」
アクトは余裕なのだと知らされる。こちらはギリギリ、いや押されているというのに。
魔法の爆発が起きて横を見れば、別の魔術師とパブリがやりあっている。パブリは元々漆黒会と馴染みがあるだけあって、何か話しているのが見て取れる。
ただこの距離では何を言っているかがわからない。変な余裕を持ってドジこかなきゃいいが……。
「じゃ、ま、だ、よぉあおおぁあああ!!」
「い゛っ!?」
まだ風魔法を防いでいたマルンが、真横からの奇襲を受ける。離れている俺でも横腹に入る音が聞こえたくらいだ。
マルンは吹き飛ばされて、部屋の壁にぶつかる――だけではなく、そのまま隣、隣、隣の部屋へとぶち抜いて飛んでいく。
……まずいな、アヴィとは違って回復には長けていない。戦闘経験も浅い彼女が戻ってきて戦えるわけが無い。
「お? なんだ、もう終わりかよ」
まるで巨人だ。2メートルはゆうに越せるだろうという巨漢が俺の前に立っている。完全なるパワー型だというのは分かるが、奇襲を仕掛けられるほどにはスピードもあるらしい。
孤剣を握るのとは別の手で魔法を展開する。この男に通用するかわからないが、少しでも抵抗すべきだろう。
拳をグッと握り締めると、魔法が完成する。鋼鉄の拳を可能にする強化魔法だ。
そのまま振りかぶろうとすれば、遠方から走る音が聞こえ、気付けば目の前の巨漢はマルンが飛んだ方とは反対方向に吹き飛んでいた。
代わりに目の前には、ボロボロになったマルンが立っていた。
「超むかつく! ぜったいマルンが勝つからね!」
豪快に鼻血を拭き取り、吹き飛んだ男を追って穴の空いた壁を走っていった。
……まあ、並大抵の攻撃じゃあマルンの体力値は削れないってことか。
流石のアクトも、自慢のパワー型を失ったことにより少し表情を変えた。あれは……不機嫌だ。予定とは違ったのだろう。
あのままマルンがK.O.されると予想していたはずだ。だが考えれば分かるはずだ。盾に選ばれる女が、その辺の町娘と同じようなステータスかを。
「じゃあ、ティー」
「……アタシはいい。こう言うのは趣味じゃないんでね」
「ふーん。趣味、ねえ……」
「…………」
「では私が」
前に出たのはアクトの側近、ミラ。乳白色の不気味な瞳が彼女の盲目を教えてくれるが、アクトに付いているだけあって一筋縄では済まない。
俺が構えた時、アヴィが前に出た。
「カズヒロ様」
ニコリと微笑んで斧を取り出す。お前の出る幕じゃない、そう言いたいのだ。
……俺は真面目に大将戦をやるとするか。




