74 吉報
ひと仕事終えたということで、俺達は一旦ギルドに戻った。報酬も得たことだし、完了報告を出すためだ。
ジースは魔物の素材を換金すると言ってスラムへ向かった。荷物持ちのパブリ、興味本位のマルンを連れて三人で街の裏へと消えていった。
残ったアヴィは俺について来ていた。カズヒロ様が行くなら私も、そういった感じでいつも通りだ。
カウンターに行くと受付嬢がこちらを見て顔を明るくした。アレはなにか用がある時にする顔だ。恐らく相手は大事な取引相手。
「お待ち下さい!」と元気よく言ってギルドの奥へ消えてく。待ち時間に依頼書を見て、今回の学院の依頼もちゃんと遂行できたことを再度確認しておく。
学院長のコメントもあるし、これを提示してなにか言われるようなことはないだろう。
受付嬢がパタパタと急ぎ足で戻ってくる。手に持っていたのは一つの紙、おおかた手紙だろう。薄いブルーの封筒を持ってきた。
それを受け取り表裏と確認するが、差出人はおろか俺の名前すら記載されていない。
「極秘機密です。スイ国より承りました」
「!」
そこでふと思い出した。少し前に助けたスイ国に頼んだこと。星の孤剣探しだ。当初の目的だったというのに、何度も棒に振る事が多かったために今の今まですっかり忘れていた。
その場で開けるのはまずい。勇者の遺物の存在を知っている人間は数少ない。しかもほとんどそれは伝説上の物だと言われている。
俺は昂ぶる気持ちを抑えて、まず先の依頼の完了報告を済ませた。そして足早にホテルへと戻る。
「カズヒロ様……!」
「あぁ……。国で探してくれたから、間違いはないはずだ」
自分で探した時には2回ともハズレを引いていたから、これだけは信用していいよな。
緊張している手で封筒を開けば、中から封筒と同じ薄いブルーの便箋が出てきた。そこにはきれいな字で(恐らくリン姫の字だろう)詳細が書かれていた。
「……雷鳴の山頂にあり」
それはティアフォールドとグライト帝国の間に位置する巨大な山脈の一つ、雷の頂。そこの山頂にあるという確かな話を聞いたという。
雷の頂は常に雷鳴が鳴り響く危険な山岳地帯だという。
「雷の頂はちょうど間にありますが、統治しているのはグライトです」
「そうなのか?」
「はい。山自体は危険なのであまり人はいないのですが……。亜人の国ですから、純粋な人間は嫌われています」
なるほど。ティアフォールドはあえて危険地帯だから治めるのを断ったな。受け入れなくてもティアフォールドの土地は広い。当然断るだろう。……人間の汚い手だ。それに山だからと何もない、そう思って手放したのだろう。
しかし雷の鳴り響く山か……。今回の攻略は少し難しそうだな。
『おい、換金終わったぞ』
「! ジースか、助かる」
合流次第今の内容を共有しないと。雷対策となると厳しい内容になる。俺はバフを付けていけばいいが、他のみんなは防具などで対策することになる。
そういった場合どういう物が必要なのか、この世界に疎い俺には判断が難しいのだ。だがジースは経験が長いからよく知っているだろう。
パブリも同じく経験はあるが、彼女は俺と同じ魔法タイプ。だから参考になるかといえば、ならないのである。
もっとも奴ならば当たっても死なないから問題ないのですよ、とか言いそうだ。ぶっ殺してやりたい。
『女子二人がお茶休憩中だ。俺はそっちに向かってる』
『ここのパンケーキすっごく美味しいよ! アヴィちゃんも来ればよかったのに』
「私はカズヒロ様と一分一秒でも一緒にいたいので結構です」
『『へ~~~』』
「な、なんですか!?」
……俺を巻き込むな。だがまぁ、マルンに俺は賛成だ。
アヴィには女の子らしいことをさせてやれていない。俺が与えたのも、戦闘や今後のパーティ連携に支障が出ないようなアイテムばかりだ。
アヴィはそれでいいと言っているが、正直年頃の女の子がそんなのでは可哀想だ。
もし彼女の中に少しでもそういう、娯楽に触れたいという気持ちがあるのであれば、俺はその気持ちを後押ししたい……のだが。
「よう、カズヒロ」
音もなくホテルの部屋へ侵入してきたのは、ジースだった。そんな所業が出来るのは、この世界でジースくらいしかいないだろう。
俺が手紙を読んでいると知ると、ふざけていた態度を改め、真剣な顔で聞いた。
「それ、もしかしてスイ国か?」
「よく分かったな」
「つーことは神器の件か」
ベッドサイドにあった椅子を引きずってきて、俺の座るベッドの横につけた。椅子に座ると、図々しく手紙を寄越せと手を出してくる。
俺は嘆息して手紙を渡した。少し前なら警戒して渡さなかっただろう。すっかり仲間を信じたということだ。
「雷か……」
「厳しいか」
「まぁな……。問題は俺達だろ?」
はっきり「そうだ」とは言いづらかった。グレアブルー魔法学院の一件から、魔法の知識が乏しい三人が足を引っ張っているのだ。
俺としてもここまで来ておいて「一緒には行けない」なんて安易に言いたくなかった。
「その……グライトにならば、雷耐性の装備はあると思います」
アヴィが声を上げた。そうか、統治しているのならば、それに対抗するものも所持していておかしくはない。だが問題は、グライト帝国に入るまでだ。
グライト帝国は、亜人をメインとする種族が住む国だ。しかも亜人と人間は遥か昔に戦争を起こした間柄だ。防具を買いに行くどころか、山へすら容易に俺達を迎え入れてくれるはずがないだろう。
一体どうしたものか…………。




