66 謎の奇襲
アヴィとの通信を絶ってから、俺は火の精霊を生成。魔力値は1000程度で倒してくれるだろうか。
浮遊しながら精霊はくるりと回って俺にお辞儀をすると、魔物を探しに消えていく。これで恐らく魔物の件は片付いた。
アヴィがはぐれた件もなんとかしたいが……、そこまで手を貸すべきじゃないだろう。あまり手を貸してしまうと拗ねてしまう。「私一人でも出来ます!」なんて言って。ここは彼女を信頼しよう。
はてさてうちのチームはというと、順調に樹海を進んでいる。何度か樹海特有のの幻惑魔法に脅かされたが、なんとか乗り切っている。
それでもまだ樹海の半分も行っていない。峡谷はまだ遠く日が暮れそうだ。本来であれば馬を使う距離だろう。この森は人が歩いて通るべきではないんだろうな。
それを承知の上で試験として採用する教師陣も、なかなかに狂っている気がする。
「キリア、もう進まないほうが良いよ」
そう声を上げたのはリラ・シーク。今までの道中での会話を見る感じでは姉御肌っぽい少女だ。色黒の肌が特徴的な娘。
プライドの高いキリアのことだから、こんな指摘をされようものなら反論するかと思った。だがキリアは意外にもそれをすんなりと受け止める。霧の立ち込める森からうっすら見える空を見て、嘆息した。
「そうだな。夜はこの森は余計危険だ。ここで一晩過ごそう」
「辺りに防御と浄化魔法を掛けるわね」
「ウチは火を起こしとく」
「じゃ、じゃあ僕は見回りに、行ってくるね……」
指示されていないのにここまでテキパキ動けるのは偉いな。連携が取れている。とは言えラミアの掛けた浄化と防御は弱すぎる。学生じゃこの程度が限界か。
気付かれない程度に強化型を掛けておくか。索敵も常に敷いておこう。
火の精霊がまだ帰らないから、新たなものを生成したくないが……。一応魔力500だけを注いだ水の精霊を生成しておくか。浄化と防御に特化したこの精霊なら、なんとか持ちこたえてくれると信じたい。
……俺も明日に備えて少し寝ておくか。万が一に備えて小さな精霊を作っておこう。手荷物を学生に盗まれたりしたら恐ろしいからな。
俺は魔力1だけを注いだ火の精霊を生んだ。俺に何かが近付いた時に起こしてもらうためだ。サイズは一センチ程しかないが十分だろう。小さな火の精霊は俺のポケットに隠れていく。
こいつに任せて眠るとしよう……。
眠りから起こされたのは、二時間ほど眠った頃だった。辺りが異様に寒かったのだ。異変と思ったのか、火の精霊は俺を起こしたのだろう。
そしてそれが最後の力だったのか、俺が起きると同時に消滅してしまった。魔力1程度の精霊はこの程度なのだ、仕方がない。
生徒が作った焚き火の炎はもう既に消えている。生徒達はまだ起きていないが、薄手の布地にくるまって震えている。明らかにここだけが気温が寒すぎる。
恐らくこれは攻撃の一種。氷の魔法でも使ったのだろう。
しかし所詮は生徒の使う魔法だ。術者の場所がバレバレだし魔力の乱れが見られる。何ならここから狙撃してやろうか、と思うくらいだ。だが生徒を傷つけるのは今回の仕事を放棄するようなもの。であれば守りに徹するしか無い。
水の精霊が仕事をしていないと言いたいが、浄化は闇系の魔法にしか聞かないし、ハッキリとした攻撃魔法ではない限り防げない。まさかこういった形で命を蝕んでくるとは思いもしなかった。
とりあえずこの対処に当たろう。俺は水の精霊を回収した。魔力が戻れば多少は融通が利く。
まず生徒が寝ている場所を暖かくした。このまま寝ていればきっと死んでしまうだろうからな。この程度の魔法だったら難なく発動できる。
だが火の精霊がまだ帰ってきていない。索敵に手こずっているのだろう。攻撃特化なだけあって索敵は苦手なのだから仕方ないが……。流石に自分の魔力が減った状態で戦闘になるのは控えたいな。
術者も俺が魔法に気付いて打ち消したのが分かったのだろう。動き出した。常に索敵をしているから場所はバレバレなのだが、どう動くか観察してみよう。
それにしてもてっきりチームで行動していると思ったが、どうやら単独行動らしい。近くに俺の仲間はいないし、まさか独断で動いているというわけじゃないだろうな?
それって結構ヤバいぞ。作戦が成功しないとチームの足を引っ張る羽目になる可能性だってある。どうしたものか。
術者は地面に手をついて呪文を唱えだした。このおぞましさ――まさか闇魔法か。やはり優秀な学校なだけあって、危険度の高い闇魔法も扱える人間も多いのか。
とはいえ俺はそれを信用しない。生徒には悪いが魔法は消させてもらおう。
「おい」
生徒を見つけ出して背後に立つ。音もなく現れた冒険者に驚き、生徒は尻餅をついた。地面から手を離して詠唱をやめたせいで、魔法は徐々に消えていく。
「な、なん……!? どうしてバレた!?」
「あんな荒いやり方されたら、場所が割れるに決まってるだろ。魔力が乱れ過ぎだ」
「…………」
悔しそうな顔をするな。相当自信があったようだな。実際生徒達は今の今まで起きて来ないし。
それにしても何故単独行動をしているんだ?
「チームの命令で?」
「……私一人の判断です」
負けを認めたのか、生徒――イリン・サマローはポツポツと理由を話してくれた。
彼は仲のいい男子生徒で構成されるチームBのメンバー。元々上位で争っている2チームが気に入らないこともあり、今回この作戦を考えたという。
自分達ばかりで争って、他のチームに目を向けようとしない。それが苛立ったのだろう。
昔の俺もこれくらい頑張れていたら、親に対してこうやって抵抗したのか。……いや、過去のことを考えてもきりがない。もう終わったことなのだ。
「私が間違っていたようです。出来れば、その……」
「あぁ、言わないでおく」
「……ありがとうございます」
「とっとと戻れ」
はぁ。頭が完全に冴えてしまった。これは寝れそうにないな。二時間睡眠なんてここの世界に来てから初めてだ。社畜時代が懐かしい……。
とはいえあれは命の危機がない仕事(あるっちゃあるが)だったからいいが、今は死ぬ可能性だってあるんだよな。少し寝ておくか……?
なんて考えているうちに、朝日が昇っていくのに俺は気付かなかった。
はい。そのとおりでございます。
わすれておりました。




