61 護衛テストⅡ
「次は俺が出とくか?」
先鋒次鋒とボロクソにやられた教師陣が、頭を抱えて悩んでいる中でジースは声を上げた。残る三人のうち誰を出そうか悩んでいたからだ。
とはいえ一応リーダーである俺は最後だろうし、アヴィかジースか。向こうも二連敗のままではいられないだろうから、何かしら手を打ってくるはず。
もう試験だか試合だかわからなくなってきたな。
しかしプライドが高い教師達のようで、負け続きは許されないようだ。院長はどうでもいいっていう感じだが、それでも自分達が許さないらしい。
「いや、まだ戦闘経験が浅いアヴィに出てもらう」
「私もその方が良いと思います」
「オッケー」
ジースもアヴィも魔法に対する耐性は低いし対処方法もほぼない。だがジースには経験と知識がある。アヴィよりは上手く立ち回ってくれるはずだから、後に残したいのだ。
タイミングよく向こうも人間が決まったようだ。
「獣人のお嬢さん、僕は手加減しないよ」
「それはありがとうごさいます」
優しそうな紳士のような青年だ。他のプライドの高そうな教師達とは違って、ちゃんと挨拶までしている。数少ない院長タイプのいい人なのかもしれない。
試験前の礼を済ませると、彼が取り出したのは剣。となると魔法剣士ってやつか。顔も良いしこの教師目当てで入学する生徒や、魔法剣士の学科があればそれを取る人も多そうだ。
「はじめ!」
合図されると青年は自分の前に剣を持ってきて、手をかざす。剣が光を帯びて何やら魔法を掛けているようだ。アヴィもそれを見ては下手に動けない。
ギュッと斧を握って相手の出方を待っている。
青年はニコリと微笑むとアヴィへと走ってくる。俺の立っている場所からは少し遠く、なんの魔法だかよく見えなかった。大したものでは無いと良いんだが。
思い切り剣を振る。その動きは荒くマルンですら避けられそうだ。本当に彼は教える立場なのか。アヴィはそれでも警戒を怠らず、攻撃を避けた。
避けた反動を利用して斧を振るう。体勢も厳しいためこの程度の攻撃は、防がれるだ、ろ……。
「え?」
「は?」
斧はたまたま剣を持つ腕に当たった。それは本当にたまたまで、籠手でガードしたとかそういうのじゃない。そこに腕があったから当たったのだ。
そしてその腕はもちろんのこと、神器の威力に耐えられるはずもなくスッパリと、綺麗に切り落とされた。
青年の腕が剣ごと宙を舞うさまを、まるでスローモーションのように俺は眺めていた。こんなことってあるんだな、と。
しばらくしてゴトンと音がして、その切り落とされた腕が着地したのだとわかった。その様子は教師達も呆気にとられていた。一番驚いたのは腕を切り落とされた本人だろう。
まさか冒険者相手の試験でこんなことになるとは、誰も予想しまい。
「うわぁあぁあ!! ぼ、僕の腕がぁあ!」
腕を抑えてしゃがむ青年。まぁそうなるわ。俺は腕を拾い上げて青年のもとへと歩いていく。叫ぶのをやめないこの青年は本当に教師か疑わしいくらいだ。
「おい黙れ、腕を出せ」
「うぅう、いたいいぃ、いたいいぃいい」
「はぁ」
「おい、何している! うちの生徒に!」
「いや腕を治そうと――生徒?」
っておいおい、剣が荒いとは思ったがまさか教師でないとは。ガミガミ文句を言ってくるが、それを承知の上でこいつを出したんじゃなかったのか?
「その手を離せ!」「治せるわけないだろ!」なんて叫んでいる。いや治せるに決まってるだろ、この程度の傷。
腕を適切な場所へ当てて、回復魔法を掛ける。いち、に……十秒か。だいぶ短縮されたんじゃないか?
「え……?」
「今回は相手が悪かったな」
「ま、まさかそんな……あんな傷を一瞬で……」
ふらつく青年の背中を押して教師達の方へ追いやる。アヴィは余裕そうに歩いて俺の元へ戻ってきた。当然だ。何もしてないのだから。
青年の方を見ながら、
「もう終わりですか?」
とだけ言った。戦闘不能にさせろっていう話じゃないからな。この狼の皮を被ったゴリラ娘。青年は怯えていて、医務室へと消えていった。
俺の仲間は今日で何人医務室送りにする気だよ。
いやでも戦闘経験が浅いとは言え、魔人化したゼッドや一般的な魔術師とは比べ物にならないアクトを見てきている俺達にとって、こんなもの関係ないのかもしれない。
「つ、次はどちらが?」
モノクルを掛けた教師が少し震えながら聞く。安心しろ、怪我しても死ななきゃ治せてやれるから。
さて副将はジースだろう。言わずもがな、ジースも自ら前に出た。
相手側は艶やかで生徒の目には毒になりそうな美女。悲しいことにジースに色仕掛けは聞かない。全身を金品で覆って「おいで」と言われたら飛び込んでいくだろうがな。
院長がためらいがちに「はじめ」と合図する。そりゃそうだ。一人意識不明、二名医務室行き。もうそろそろ切り上げたいと思っているところだろう。というかもうほぼほぼ勝利は見えているはずだ。
でも俺も戦ってみたいしショートカットはやめてほしいな。
艶やかな女性教師は小声でゴニョゴニョと詠唱を始めた。今までの教師陣のボロボロ具合を見て、大きめな魔法を打ち込むつもりなんだろう。
ジースはそれを見て頭を掻いてから、ふ、と消えた。
次に気付いた時には、既に女性教師の背後に立っていて。後ろから頬をつついている。指で。
驚愕する教師達の顔。にっこりと営業スマイルがごとく微笑むジース。詠唱をしていた口は、鯉のようにただパクパクと動くだけだ。
「ナイフじゃなくて良かったな、お嬢さん」
ひらひらと手を振りながら俺達の方へ悠々と歩いてくる。ジースの完勝。ジース相手に時間を生んだら負けだな。相手の速度と隠密する時間も与えぬ間に殺すしかない。が、そんな事ができるのは滅多に居ない。
女性教師はへたり、と地面に座り込んだ。そしてジースを見ながらつぶやいた。
「ジース様……♡」
聞き取れてしまったが聞かないふりをした。ジースには言わないでおこう。面白いから。
さてそれはいいとして、あっという間に大将戦まで来てしまった。恐らく俺が戦うのはあのモノクルの教師。ずっとこっちを睨みつけている。
きっとあの中では一番プライドが高く、今まで連敗しているのが許せないのだろう。試験だというのに。
「最後は俺だ」
「えぇ、こちらも私が」
「……でははじめ」
院長の合図がもう弱々しい。戦わなくてもいいじゃないかって言いたいんだろうな。でも俺は戦ってみたい。院長には悪いが、ここはやらせてもらおう。
まず教師が魔法を撃ち込んできた。魔法陣の発動もせず詠唱もない。突然俺の頭上から矢の雨が降ってきたのだ。ジースほどじゃないがこの程度避けるのは問題ない。
今避けているうちに魔法を展開しておこう。
ちょこまかと動く俺が気に入らないのか、精度が段々落ちていく。せっかく狙うほどの集中力……精神力があるのだから、そんなことですぐ心を乱されなければ完璧なのに。
おかげでこっちも魔法が完成した。師匠に散々浴びせられたやつだ。どんなものだったかは覚えていないが、遠方から当てられる度にもう殺してくれって思うほど痛かったやつ。
操作性はさほどないが、多少は当たるだろう。
矢の雨から飛び出して発動させる。魔法陣が現れて光り、そこから炎に包まれた細かい石が飛んでいく。ほぼ銃の弾丸と変わらないだろう。
しかもなんと言っても速度もそこそこ出ていること。まさに弾丸そのものだ。
魔法の名前は……知らないから、適当に弾丸魔法でいいか。
驚いていたものの、小さな魔法壁で防がれてしまった。威力不足か。速度は出ていたから、少し魔法陣を弄って火力を上げてみよう。
「な、貴様なんだその魔法は――!」
「俺もよく知らない」
「なんだそれ!?」
よしこれでいいな。一発じゃ当たらないから、2,3続けて撃ち込んでやるか。
魔法陣から三発の弾丸が発生して、教師を狙う。今度は小さい防御魔法では防げないと感じたのか、体全体を覆うようなサイズの魔法を展開された。
大丈夫だ、あの程度の魔法だったら問題なく貫通する。
着弾した一発目がガラスを割るようにパリン、と音を立てて防御魔法を突破する。残念ながらそれは教師に当たることはなかったが、彼の服を擦り傷を生んだ。
二発目は顔の真横を通り、頬に傷を作った。三発目は器用にモノクルだけを弾き飛ばして、最終的に魔法壁は音を立てて全体が割れてしまった。
「操作性に難あり……か」
「なななな、なんなんだお前!」




