60 護衛テスト
「よく来てくださいました」
俺達を迎えたのは白髪の気さくそうな紳士。彼はこのグレアブルー魔法学院の学院長だ。俺達はその院長室に呼ばれていた。
俺がソファに座ると、横にマルンが座った。ジース、アヴィそしてパブリは後ろに立って待機している。マルンはお構いなしに用意されたお茶と菓子を頬張っていた。
これぞ末っ子特権というやつだ。別に羨ましいわけではない。
「実を言うと、貴方がたで三組目なんです」
なんだ、既に決まりました。ありがとうございましたってか。だったら呼ぶなよって話だが、恐らく違うのだろう。院長はニコニコと微笑みながら話を続けた。
そもそも今回の依頼というのは、ざっくり言えばこうだ。
このグレアブルー学院は、三年生と最終学年である五年生の際に、訓練合宿のようなものを行う。今まで学院で座学やものに対して練習をしていたのと違い、現場に出ての実戦だ。
とはいえ本当に危ない状況に陥った時のために、護衛として冒険者を雇うらしい。いわば保険というものだ。
それに有能な冒険者も排出しているようで、ギルドからしたらはい喜んでと依頼を受けざるを得ない。こちら側としても、子供もおもりは面倒だが、何もなければただ見守ってお金をもらうだけの簡単な仕事なのだ。
……まぁジースは納得していないようだが、女性陣の強い押しに負けたのだろう。
そんなわけでこの院長がほしいのは、有能な学生を守れる有能な冒険者。前の二組目はだめだったのだろう。
こんなに気を遣う学校だから、きっと護衛の前にこちらを試す機会があるはず。
「ご安心を。前の冒険者とは違うので」
ニコリと笑顔を向けて言う。
院長はその言葉を聞くと、俺達を別の場所へ通した。そこは屋外訓練場。既に数人待機していて、あれが俺達の試験官なのだろう。ギルド以来だな。あぁいや、俺は試験してないか……。
見た感じ教師だろうか。向こうもこちらの様子を伺っている。前のパーティのように雑魚じゃなきゃいいが……みたいな感じなんだろうか。
「先生方、紹介しよう。彼らは――」
「院長。もう結構です。とっとと終わらせましょう」
「……そうだね」
モノクルを掛けた男はそう言う。どれだけ前のパーティに飽き飽きしているのだろ。可哀想に。まぁ大事な時間を潰されちゃそうなるか。
どうやら早速試験が始まるらしい。となると彼が先鋒か? うちからは誰を出そう……。パブリでも出して様子を伺うとしようか。
「頼む」
「はいなのです」
「な……。こんな子供を先に出すのか? だったら私でなくてもいいだろう。グリーデ先生」
「へ、あ、は、はい……」
教師に呼ばれて出てきたのは小柄の少女のような教師。背丈に合わない大きいローブと杖が、まるでパブリと同じようだ。まぁ中身は全く違うのだが……。
恐らく立場が低いのだろう。ビクビクと怯えながら指示に従っている。新人とかなんだろうか。
「では頑張ってくださいね」
院長は微笑むだけだ。誰がどう来てもパブリが負けるようなら、護衛は厳しいだろう。 院長が合図をする。始まったというのに、小柄の二人は動こうとしない。パブリは様子を伺っているようだが、相手は普通に怯えている。なんでこんなやつ連れてきたんだよ。
「し、しりませんよ、どうなっても……」
「大丈夫なのです」
「…………」
にっこりと笑顔を見せるパブリ。相手方も覚悟を決めたのか杖を大きく振った。すると彼女の背後に五つ魔法陣が展開された。
陣を読んだ感じじゃさほど練度も高くはない。手加減でもしているのか。
属性は……氷か。
女性教師が杖をパブリに向けて振りかぶると、魔法陣から一斉に無数の氷の塊が降り注いだ。
パブリはといえば、杖を自身の前でドン、と地面に突き立てた。簡易的な魔法壁だろう。あの程度の氷だったらあれで充分だからな。
……そして背後にいる俺達にも氷の雨が降り注いでいるわけで。マルンは盾で自衛、ジースはこの程度簡単に避けられる。俺はアヴィを魔法壁に入れて観戦していた。
「終わりなのです? じゃあこちらも失礼するのです」
「……っ」
女性教師もギュッと杖を構えてガードする。全て防がれるとは思っていなかった表情だ。殺す気でくる気もない癖に甘えた考えだ。
「氷よ」
パブリが詠唱すると、女性教師の足が凍りつき始めた。膝まで完璧に凍ったと思えば、そこで氷は止まった。遠距離攻撃を予想していた人間からすれば驚きだろう。
別に属性まで合わせなくてもいいのに。あいつは……。
「別にターン制ではないのですよ? 反撃でもいいのですよ。じゃないと――」
――次の瞬間女性の周りに、30センチほどの刃物のような氷の塊が現れた。それらは急激に距離を縮めて、女性の首元あたりでピタリと止まった。
女性教師はカタカタと震えて、しまいには杖を手放してしまった。
「何してるんです? 死ぬ気です? このままだと――」
「パブリ」
「あらら」
パブリ、意外にも周りが見えないタイプなんだな。相手の子は完全に降伏状態だし、他の先生方もドン引きしている。
それとも長く生き過ぎて基準がおかしくなってるとか? 全てがみんな自分と同じく永遠の命があるとは思うなよ、と再度言い聞かせるべきなんだろうか。
女性教師は怯えまくり院長に慰められている。これじゃあ俺達は悪役じゃないか。何しに来たんだ全く。
まぁいい。次は誰を出そうか。戦力から言えばアヴィかマルンだろう。というかマルンを先鋒に出すべきだったな。失敗だ。
流石に負けないとは思うが、頼んだぞ。
「マルン」
「はーい! 頑張るね!」
マルンはうちの中でも一番戦闘経験がない。しかも対人ときたら余計にないだろう。バトルロイヤルでも守りに徹していたし、戦闘面は他のメンバーがカバーしていた。
それに魔法耐性や知識もまだまだだ。相手はこのままいけば……魔法……使い……?
俺はマルンの対戦相手を見て目を見開いた。そこにいたのはまるで魔物のような巨漢。魔法の魔の字もないようなパワー型。ここは魔法学院じゃなかったか?
「驚かれているようですね。昨今では魔法剣士を望む生徒も多く、体術など魔法以外も教えているのです」
「……なるほど」
女性教師は医務室にでも行ったのだろう。院長が一人、こちらにやってきてそう説明してくれた。他のパーティも同じような質問をしたのだろうな。
油断していたらここでつまずきそうだ。
だが相手がパワー型ならマルンの敵ではない。彼女の体力値はそんじょそこらのファイターでは削れない。それに持つのはあの勇者の遺物。神器だ。
始め、の合図で両者距離を詰める。ゴリラ教師の方は両手にアーマーをしていて、それで殴って攻撃するのだろう。対するマルンは……攻撃方法なし。
何も指示なしにどう戦うか。面白いな。
「いくぞぉおお!!!」
「うん!」
まずゴリラ教師が右手でいきなりストレートを打つ。当然マルンは避けられるはずもなく直撃。
もちろんそれでも盾は展開される。主人を守るのがこれの役割だ。強制的に守りになる。
そのまま吹き飛ばされて俺の目の前までやって来る。だがそれを受け止めてやったりはしないし、マルンもギリギリで当たらぬようブレーキを掛けた。そして再び教師の元へと走っていく。
そんな攻防が何度かあって、その中でマルンは相手の行動を見切り始めた。このストレートが来たら次はこれ。だからこう動く。
予測して自らの望んだ未来になるように誘導する。
そしてしまいには、細い体を吹き飛ばされずにその強い拳を受け止めたのだ。教師陣はどよめいた。一番驚いていたのは、この拳の主である教師だ。
その驚きが隙となった。
マルンは大盾を右手サイズに縮小する。拳をギュッと握りしめて、思い切り振りかぶった。
「そーれっ!」
鈍い音が響いて、マルンのストレートは直撃。ゴリラ教師は吹き飛んで、壁にぶち当たりそのまま動かなくなった。死んではいないはずだ。
結果勝者はまさかのマルンだった。




