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23 未知のダンジョンⅢ

「この先にある違和感が知りたかったんだろ?」


 ボスを難なく倒した後、ジースがそう話した。

やはり奴には分かっていたようだ。

奴隷になってこちらに隠し事が出来なくなったのか、ペラペラと話を始めた。


「これだ」


 腰に着いていたポーチから取り出したのは、小さな弓だった。なんというか、本当に手のひらサイズの。

だがそれはいきなりサイズが変わり、長弓なような大きなサイズへと変化を遂げた。

まさかとは思ったが――


「勇者の遺品だ」


 やはり。

それであればこの先の違和感に納得が行く。

それに、長い間このダンジョンが見つからなかった理由も。この男でなければ見つけられなかっただろう。


 魔物があちこちに残っていたのは、彼が戦闘を行ってないからであった。

俺たちにしてみせた気配遮断はまだ序の口で、一般人なら分からないが俺ならわかる程度に抑えて遮断していたという。

我ながら舐められたものだといらついたが、実際の彼の本気を見せてもらった時には感服した。


 目の前にいたのにわからなかったのだから。


多分、というか絶対。

俺よりも優れた遮断性能を持っているし、スピードに関しても俺を上回るだろう。

頼もしい味方がついたものだ。


「この弓をとったから結界が消えたらしい」


 取れた、ということはつまり、弓がジースを選んだということ。

きっと俺であっても触れることは許されていないはずだ。


 いいぞ、このペースはなかなかいい。

俺たちに今2つも勇者の武器が揃っている。このまま全部揃えて早く王国諸共潰さねば。


「最奥を知ってしまったし戻るか……」

「いや待て」


 ジースがそういうので立ち止まると、その辺から石の破片を持ってきた。

人差し指をクイと動かし、それを寄越せと指図する。

どうやら仮面のことらしい。ジースは俺のこの仮面が呪われている……という嘘がバレているようだ。


「貸せ。口元だけでも割った方が今後楽だろ」


 つまるところ奴には俺の身分もバレているわけで。街に散々お尋ね者と貼りだされている顔を晒しても、何も言うことはなかった。

それを承知の上で俺のパーティへ加わりたいと言ってきたのだろう。

 ジースは俺の仮面を器用に口元だけ割って、それを俺に返した。付けてみればちょうどいい。鼻は依然隠れたままだが、口が出ているので人前での食事も難なく出来るだろう。


「助かる」

「気にするな」





 入口に戻ると、既に他のパーティ達は揃っていた。まあさほど長いダンジョンでもなかったから、当然だろう。

 俺の予想通り金銀財宝を持っている人間が複数いるじゃないか、これはいい事をしたな。

その中のひと組、赤い月は俺達を見つけるなりハッとして急いで近づいてくるじゃないか。


「一番遅いから死んだかと思ったぞ! ……って、口元どうした!?」


 飛び出てきた言葉に驚いた。本当にこいつは《見当違い》なんだな。

ジースの方へ一瞥すると、俺の思ったことが通じたのかため息を吐くだけだった。

本当にこの男はよくゼッドの下についたな……。

仮面が割れているせいで、俺たちが余計苦戦したと思っているらしい。最初に呪いの仮面って話しなかったかよ? もっと疑問を持て。


 地上に戻る道中、ジースがゼッドにパーティを出ていく話をすると言っていた。

パーティ自体は勝手に冒険者たちがやっていることで、ギルドを通して書類やら何やらを書き換える必要はない。

それゆえにハウスルールならぬ、パーティルールが存在し、脱退加入がなかなか難しいという。

しかしながらソロで活動するには危険すぎる仕事のため、パーティに入れない作れない人間は奴隷が必須になるというわけだ。


「ゼッド、少し話が」


 そう言ってジースがゼッドを引っ張っていく。

脱退の話が完了する前にアヴィと契約を結ばせてしまったからなぁ……。最悪断られるようならば、洗脳やらで無理矢理にでもパーティ脱退でもしてもらおうと思ったのだが……。

その必要はないようだった。


 遠目で見ていると、ジースが脱退を提案した後のゼッドの顔は、あからさまな「安堵」だった。

やつはもしかして、顔に出やすいタイプなんだろうか。

《上位パーティ》じゃなければ許されないと思う。

 なんとまあ他のメンバーと相談することもないまま、ジースの脱退が決定した。

あの様子だと、きっと以前から内輪でそういう話が出ていたのかもしれない。というか、それ自体ジースも知っていたかもしれない。奴のことだし。


ジースが戻ってくるタイミングで、今回のダンジョン攻略班リーダーであるパーティが声を上げた。


「今回もらった情報は俺達パーティの方で、上へ報告させてもらう。みなありがとう」


 どうやら現地解散のようだ。まぁ、遠足じゃないからな。長々とこいつらと一緒にいる意味はないだろう。

ぞろぞろとその場からパーティが解散し、各々の拠点やら次の目的地へと足を進めていく。

 こっちも新たな仲間を得たことだし、色々と打ち合わせをしないといけない。

それに今回のダンジョン攻略でまた新たな素材が手に入った。

こんなに早いタイミングでまた利用することになるとは思いもしなかったが、またあのスラムへ行こうか……。





「おやおや、おふたりは知り合いれしたか?」


 今朝にも見たこの店主を再び見ることになるとは……なんて思ったが、それ以前に店主がいうことに驚いてそれどころではなかった。

ジースがこの店を知っていた。

いや主従を結んでいるのは俺ではなくてアヴィなのだから、事細かに自分のことを喋る必要はない。とはいえ、この店を知っているだけでも熟練度が一般人とだいぶ開くというのに……。


「……いや、ジースとはさっき仲間になったばかりだ」


 やはり主従は俺と結んでおくべきだっただろうか。なんて思いながらジースを一瞥した。

彼は昔からこの店を贔屓にしているらしく、店内に並ぶ品々も彼の討伐品が多いらしい。

赤い月をこっそりと抜け出しては危険度の高い場所へ赴き、魔物を始末して、ここに換金しに来るようだ。

まぁあんなパーティにいて延々と人助けなんてしていたら、彼の大好きなお金も稼げないだろう。

ゼッドの考えとジースの目的は噛み合いそうにないだろうし。


「ハヒュヒュヒュ……しょれはしょれはまた、面白しょうでしゅね」


 不気味に笑いながらも手はしっかり動かして、必要分のエルを用意していく。

最初の時の魔石に比べると金にはならなかったが、貯蓄としては十分だろう。ジースに多いと思える程の分けても問題がないほどだ。


「助かった。また世話になる」



 さて、後は防具を受け取って金を支払い、試験に臨むだけなんだが――

なにぶん時間が空いてしまっている。

防具が早くて明日の夜にできるわけで、午前中から夕方頃までは暇というわけだ。


 それだったら、他の二人の鍛錬も兼ねて手合わせとかしたらどうだろうか。

ジースの戦闘能力も知りたいし、試験に向けてアヴィを少しでも能力アップさせたい。

この街付近で戦闘を行っても咎められない地域とか場所とかあるんだろうか? 適当にそのへんの森で戦闘をして怒られたり、なんて小学生みたいなことはやめたい。


「ジース、このあたりで訓練所とかはあるか?」

「手合わせか? 心当たりがいくつか」

「よし。明日は空いた時間に一度練習試合といこう」

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