20 防具
馬子にも衣装――じゃないが見た目というのは重要視される項目の一つである。
村人と遜色ない服をまとい、自分を「剣士」だと自称しても誰が信じるだろう。仮にどれだけ秀でた剣士だとしても、やはりビジュアルというものはどこの世界線に置いても重要なのだ。
「いらっしゃい!」
店内に踏み入れれば、活気のある声が迎える。陽気な親父と様々な防具が俺達を出迎えた。
店を見渡せば防具だけではなく、多少の剣なりも置いてある様子だった。不思議そうに眺めている俺に何かを察したのか、
「最近じゃ防具一本でやっていくのは厳しいんだよ」
どの世界でもマルチに展開しないと生きていけないのは共通なのだろうか。
冒険者が大量に行き交うこの街では、それを助く職に就く人々も競い合っているらしい。適当に足を運んでみたはいいが、実際この街には防具屋武器屋が大量にひしめき合っていた。
激戦区ともいえよう。
とはいえ、やはり防具屋だけあって武器はいい代物とは言えない。
騙されたひよっこ冒険者様にでも売れればいい程度だろう。
「武器はいい、適当な防具を見繕っていただきたい」
店主は待ってました! と言わんばかりに表情を輝かせた。そこまで暇なんだったのだろうか。店を間違えた気がしてきたな……。
心配だからこの辺りの防具のステータスを確認したいんだが、いかんせん昔怒られた経歴があるからな。とりあえず断って置くのが礼儀だろう。
「失礼、店の在庫の防御値など確認しても?」
「あぁ構わねぇよ。どれも自慢の逸品だ」
気前のいい店主で助かった。どれ、この辺りの重装備はどうだろう。見た目は強そうだが、それに伴っているか。
昔初めて街に来た時には、触れないとステータスを見ることが出来なかった。ティー師匠との特訓で今は詠唱すら不要になっている。
今後のことを考えて真っ先に修行させられたっけ。
ほんの数ヶ月の間の出来事なのに酷く懐かしく感じる。色々な事が起こりすぎたのだ。
さて改めてこの防具を見てみよう。
見た目はファンタジーによくある重装備だ。斧とか鉄槌とかを持っている筋肉質の男が着用していそうな、いかにも! な感じが見てとれる。
なるほど、ちゃんとそれに伴って、ステータスもしっかりしている。ギルドで俺に絡んできた男達が纏っていたのが平均と考えても遥かに上回っているステータスだ。
閑古鳥が鳴いているようなこの店には不釣り合いで、本当にこの店主が作ったのか不安になる。売れてないし。
「度々すまない、これは幾らになる?」
「それかい? あぁ、2500エルだよ」
やっす。
いや、やっす。
強そうなのに安いとか、そりゃあ疑ってしまう。というか他の品々も安い。ステータスは低いわけじゃないし、駆け出しのアマチュア冒険者にもピッタリ! な装備すらも激安。
ここは某ファッションセンターか?
販売価格というものは買う人間の決め手に繋がる。物を売っていたからよく分かる。
それ相応の価格というものは大切で、価値のあるものにはしっかりと高い金を設定しなければ店の信用、集客にも繋がるものだ。
「それでは安すぎやしないか? 価値のあるものはしっかりとした金額を提示するものだと思うが……」
「そ、そうかあ? そんなボロ売れっかねぇ」
「当たり前だろ。目利きのなっている者であれば適正価格で……いやむしろ言い値で買ってくれる」
「ほいじゃ3000エルとか?」
増額500エルってお前、お小遣いじゃないんだぞ。
確かにこの閑散とした店内からしてみれば、いきなり価格を変えるのは苦行かもしれないが……。
というかそもそも変えたところで見る人がいるかという話だよな。
「価格は1万がいい」
「はぁ、は?」
「店にあるものの値段を全て4倍でもいいんじゃないか?俺ならそれくらいでも余裕で金を出すよ」
「そ、そんなにか?」
ソーシャルゲームの初心者応援ガチャとかでももう少し分捕るだろ。
それに店主が納得してなさそうだが……あんまり意見を押し付けても、再びこの店にやって来るかは分からないしな。
「あぁ、そうだ、あいつには腰周りの装備品も――」
「い、いりません!」
初めて聞くレベルの大声に驚く俺(と店主)。
いや幾らあげたものがあるからと言って、俺からのお下がりだし結構ボロボロだったはずだ。
収容力に関しては問題ないとしても、年頃の女の子が付け続けていいようなデザインでもない。
「ま、まだ壊れていません……」
「いや、十分ボロいだろう」
渡せ、と手を差し出すと頑なに装備をギュッと掴んだ。絶対に渡さない、という強い意志を感じられる。
「ご――ご主人様から、頂いたものです……! 大事に使います、使わせてください……」
瞳に涙をためながら言うアヴィ。なんだ、俺が悪いみたいじゃないか。
店主も微妙な顔をして「あんちゃん……」なんて言いながら見つめてくるし。なんなんだ2人して。
あー、もう……。
「好きにしろ……」
全くなんなんだ。
アヴィは今までに見たことないような満面の笑みを浮かべているし、店主もニヤニヤしながら見てくるし。
話を戻そう! 防具! 防具だ!!
「予算は特に決めていない。連れには魔法耐性のある防具を――」
「付与防具だって!?」
「? ああ」
「馬鹿野郎、そんな高いもん作れるわけねぇよ!」
こんな質のいい防具を作る店主の腕ですら無理なのか?確かによく見れば店内にある防具は、いい品物ばかりだが魔法やら能力が付与された防具が見当たらない。
もしかして世界基準が低いのだろうか。
師匠からは当然のように付与の仕方を学んだが、もしかすると師匠が隠れて生活するようになってから、世界の知識が格段に下がった……のか?
世界が安全になった訳でもないのに?
そんなのが本当ならば人為的に操作されたんじゃ……?
「……わかった、では作れる限りの最高の防具をお願いしたい」
「あんちゃんのは?」
「俺のは――魔術師に適した防具であればそれでいい」
「了解!」
作成には一日二日欲しいとのことだったが、試験が迫ってると伝えると明日の夜には出来るように努めると言われた。
無理を言ってしまったようで申し訳なかったが、客が来ねぇからよ! と笑顔で言われて何も言い返せなかった。
本当に質はいいのになぁ……。
店を後にして通りに出ると、赤い月のメンバーとバッタリ遭遇した。ゼッドは俺を見るなり笑顔になり、やっと見つけた! なんて叫んだ。
「ちょうど探してたんだ! よかったらこれから一緒にダンジョン攻略に行かないか?」
何事かと思えば、先日発見されたダンジョンの攻略に一緒に行かないかという誘いだった。
用事という用事は防具屋で最後だし、特に金に困ってはいないが行って損はないだろう。
適当にモンスターと戦っていたら仮面が口だけ割れましたとか言ってもいいかもしれない。今後の飯問題的に。
「詳細は?」
ダンジョンは、発見したパーティが地下五階層まで攻略したらしい。ただ、その階層から分かれ道を発見。
パーティ人数は三人であった為、人数がバラけた時に不利になると考えた。その為そこでパーティは退却をしたという。
組合へ戻り事の顛末を報告。有志を募って再度挑戦、という訳らしい。
「君たちはまだ正式に登録出来ていないんだろう? 俺たちの補佐として参加する分なら大丈夫だから、是非来ないか?」
この世界の人間すら未知のダンジョン攻略か。
果たして俺の力で対応出来るのか……それを調べる為にも、行った方がいいんだろうな。
悩んでいると、アヴィが俺に寄ってきて耳打ちをしてきた。
「カズヒロ様」
「どうした?」
「このパーティと組むのは良くないと思うんです。あの青い人とか……」
「あぁ」
アヴィも気付いていたのか。
青い人――隠密が得意な暗殺系の奴・ジースから尋常じゃない殺気がこちらに向けられている。
ゼッド達が注意しないのが不思議なほどだ。それとも放任主義と言うやつなんだろうか?
殺気は放てど手は出さないので放置している……とか? まさかな。
「俺は構わないが」
「カ、ご主人様!?」
「《お仲間は》それでいいのか?」
「え?」
殺気が消えた。コイツ、《わざと》か?つまり俺達が気付くか試していた。しかも、独断でそれをやっていた。
ゼッドは気付いていなかったようだし、ほかのメンバーも然りだ。――こいつは本性を隠している。
アヴィの言う通り、警戒しておいてよさそうだな。
予約ど忘れしていました。
アサシンクリードたのしいです。