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戦えない落ちこぼれは知力で成り上がる  作者: 加藤 成
第1章 異世界
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第8話 力を求めて 中編

 相変わらず無駄に広いな。

 私は今訓練場の高い壁に立ち、訓練場を見下ろしている。高さは約30メートルくらいといったところだろう。その壁が訓練場をぐるっと囲うかんじになっている。なっているが、なんせ訓練場が広い。奥の壁が目を凝らさないと見えないくらい広い。 しかしただ大きいというわけではない。この訓練場の中には複数のスペースがあり、さまざまな訓練が可能になっている。例えば魔法訓練用スペースや森の中を想定した森林スペース、水場での戦いを想定した湖スペースなど様々だ。



 しかし、それを考えてもこんなに広くする必要あったのだろうか。

 ん?前に始めてきた時も同じ事を考えた気がする。確かあれは…っと、違う違う。今回の目的を忘れて回想に入るところだった。


 私は頭を振り、本来の目的に集中する。

 そして真下には今回の目的である、異世界者たちと訓練を指導するために呼ばれた騎士団一行が、魔法組と武器組に分かれて訓練をしている。場所は武器組が闘技場スペース。魔法組は闘技場スペースすぐ横の魔法訓練用スペースだ。もう訓練は始まっている様子で、時々魔法が的に当たる音が聞こえる。



 音は聞こえるが、さすがにこの距離だと見えないな。

 もう少し近ずくか。



 そう思うが否や私は、今立っている壁から何の躊躇もなく飛び降りた。

 今までの経験上、約2秒〜3秒ほどで地面に着くだろう。普通なら魔力で身体強化をしていても、打ち所が悪ければ骨折する。

 まぁ地面に当たれば…の話だが。

 つまるところ何が言いたいかというと、地面に当たらなければいい。

 考えているうちに顔が地面に着き、影の中へと吸い込まれるように消えていく。

 影の中に物に当たるという原理はない、自分の影と他人の影が合わさっても痛みがないように。

 飛び降りたことが嘘のように、そこに居るという結果だけが残る。つまり影の中に入った私はそこに立っているだけで怪我や、ましてや死ぬなんて事はない。

 ある意味ズルい力だが、魔力に消費と影が私を全身隠していないと出来ないという欠陥がある。



 今回は日が出て数時間しか経ってなかったから出来たが、真昼だったら影が足らず死んでいただろうな。そんな失敗はしないがな。さてそれじゃあ行くとしよう。



 私は影の中を進み、やがて魔法訓練用スペースの中央に1本だけ立っている大きな樹の影から顔を出し、そのまま樹の上に姿を隠す。其処で気配を消し、異界の者達の成長がどれ程かを観察する。



「ファイアボール!」



「ボルトジャベリン!」



「グランドニードル!」



「私に方が強いわね!」



「た、たまたま威力が弱かっただけだし」



「いやぁ素晴らしい!昨日の今日であそこまでの威力。普通の者なら成功すらしないのに、さすが勇者様方だ!」



 なるほど、確かにこの短期間で初級とはいえ魔法を使えるとは、やはりそれなりに才能があるということか。しかし何だ、この緊張感の無さは。彼らは翔太の死体の幻覚を見たんじゃないのか?普通仲間が死んだら、2度と同じことがないように守れるだけの力を付けようと、少しでも必死に強くなろうとするだろう。

 なのに彼らはどうだ、私が見る限りただただ遊んでいるようにしか見えない。

 まるでーーー



「いい加減にしてッ!」



 突如1人の少女が大きな声を出す。その声で私の思考は止まり、彼女以外の者たちは驚き騒ぐのを止める。



「どっ、どうしたんだよ八城。いきなり大声出して」



「皆いい加減にして!私たちは遊んでる暇なんてないの。早く強くならなくちゃいけないの!皆だって見たでしょ瀬戸君の死を!?あの時、私に力があれば…」



 八城と呼ばれた少女はそこまで言うと俯き、手から血が出るんじゃないか、というぐらい強く握る。

 おそらく彼女は、翔太を守れなかったことが悔しくて悲しいのだろう。だから必死に強くなるとしている。皆も必死になって強くなってほしい。そう思っているのだろう。

 だがそれは私が見る限り通じないだろう。



「ね、ねぇ八城ちゃん」



「…なに?」



「その…瀬戸くんって誰のこと?」



「えっ?」



 八城以外の彼らは翔太のことを、ただの道端に落ちている石ころと同じぐらいのレベルにしか思っていないだろうからな。

 私の予想は当たり、他の者たちも瀬戸という名前に首を傾げている。そんな彼らに、八城という少女が必死になって説明している。



 まさかここまでクズの集まりだったとわな。



「おーい、どうかしたのかい?」



「聞いてくれよ神坂。八城がさぁ…」



 騒がしくなってきたな。様子がおかしいのを察してきたのか、或いは偶然か…どちらにせよこれ以上ここにいても何も収穫はないだろう。そろそろ翔太のとこに戻るとしよう。



 私は静かに木から降り、影の中に入いーーー



「ッ!そこの木の後ろにいるのは誰!?」



 ーーーろうとしたが入れなかった。それにしてもなぜバレた?



「あの木の背後に誰かいるの?八城さん」



 どうやら私に気づいたのは八城らしい。



「えぇ、私の魔力探知に反応があったわ。どんな事があろうと探知はやってた方がいいって教わったから、一応ずっとやってたの。さっきも1回反応があったんだけど、気のせいだと思って何も言わなかった。けど今は違う。はっきりと反応があったわ」



 チッ、魔力探知か。それなら納得だ。

 情けない油断した。このまま逃げても追跡される、仕方ない…。




「早く出てきなさい!」



 私は両手を上げてゆっくりと彼女らの前に姿を現わす。それと同時に騎士団が私を囲み、剣を構える。その背後に魔法部隊も待機しているのが見える。



 …なってないな。人1人に対してそんな大勢で囲むなんて。もし私が1人じゃ無かったら、彼らの後ろから奇襲をかけさせているところだ。



「貴様は何者だ!その仮面をとって顔を見せろ」



あぁそういえば今日は仮面だったな。仮面といっても、顔だけのじゃなくて舞台の裏方の黒子が被ってるようなものに、顔だけ笑った顔の仮面が付いている。

因みに仮面や被り物は全部で48個ある。

まぁそれは置いといて…。



「あなたは馬鹿ですか?顔を見られたくないから仮面を付けているのに、取れと言われて取るわけないでしょう。それに人に聞く前に自分からと、習わなかったのですか?」



 騎士の1人が質問してきたことに対し、私はからかうように質問で返す。

 普通この返しは名前を聞くときに使うんだがな。

 からかわれてるのがわかったのか、相手は顔を紅潮させ怒りを露わにする。


 まるでタコだな。


 口調を変えたのは、違う場所で素顔で会った時バレないようにするためだ。



「ーーーーーッ!バカにしやがって…死ねェェェ!」



「おい、待てッ!?」



 さっきの騎士が剣を振り上げてこちらに迫ってくる。それを騎士団長が止めようとするがもう遅い。

 私は振り下ろされる剣の間合いに自ら入り込み、紙一重で躱すと同時に顎に掌底を打つ。そのまま顎を掴み、後頭部を地面に叩きつける。



「うぐっ!?がぁ!?」



「ダス、大丈夫か?!」



 騎士団長が慌てて駆け寄る。

 そんな大きな隙をつくって、彼らは私を舐めているのか?

 そんな大きな隙を見逃すほど私は甘くないよ。



「仲間がやられたからといって、敵に背を向けるのは感心しませんね騎士団長殿」



「うっ…」



 一瞬で団長の背後を取り、隠し持っていたダガーを首に当てる。



「形成逆転ですね。さぁ全員武器を捨てなさい」



 戸惑いながらも騎士達は武器を置いていく。



「卑怯者!グラスさんを解放しろ!」



 後ろの方にいた青年が私に剣先を向け告げる。

 彼は確か神坂といったな。なぜ彼はまだ武器を持っている?騎士団長も同じことを思っているのだろう、顔が真っ青だ。普通解放しろといって解放する奴なんていないだろ。



「えぇ、いいですよ」



「は?」



 まぁ解放するんだがな。だっていたところで邪魔だろうこんな奴。

 ダガーを首元から離し、騎士団長であるグラスを神坂という青年の方に押す。

 それを見ていた騎士団や魔法部隊は武器を拾い直す。



「どういうつもりだ?」



 神坂が睨むようにしてこちらの様子を伺ってくる。



「変な質問しますね、あなたが解放しろといったんじゃないですか」



「それはそうだが…」



「ま、からかうのも飽きたし正直に言いましょう。『邪魔だった』それだけです。その気になれば、ここにいる全員を戦闘不能にするのに3分あれば充分ですから」



 おっ?空気が一気に張りつめたな。



「貴様ッ…!どれだけ我々を馬鹿にすれば…ッ!」



「言ったじゃないですか騎士団長殿、からかうのは飽きたと。それにあくまで戦闘不能にする場合です。つまり…」



 さて、調子に乗った雑魚どもをそろそろ黙らせるとしよう。

 私は言葉に威圧を乗せる。



「殺すだけなら1分もいらん」



「「「「「ッ?!」」」」」



 その瞬間、騎士団長のグラスと神坂以外は、腰が抜けたようにその場にへたり込む。よく見ると涙を浮かべているものもいるな。耐えた2人も足が震えているあたりギリギリなのだろう。



「なっ何だこれは!?体が重い…」



「威圧に耐えたことは褒めてあげましょう。ですがこれまでです」



 私は腰にある2本のダガーのうち、1本を逆手に構える。側から見るとその場から姿を消したように見えるほどの刹那の速さでグラスの背後をとり、ダガーで喉を狙う。



「そこまでですッ!」



 その声にダガーが首元スレスレで止まる。



 …マズい。まさかあの方がここに来るとは。



「これは一体何の騒ぎですか」



「…アスカ様」



 さっきまで私がいた木の横には、般若のごとく怒りを露わにした女王陛下たるアスカ様が立っていた。


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