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戦えない落ちこぼれは知力で成り上がる  作者: 加藤 成
第1章 異世界
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第9話 力を求めて 後編

「なぜ黙っているのです。私はこの状況の説明を求めているのですよ」



 マズいマズいマズい。

 下手な事を言えば疑われる、かといって黙っているのも不自然。何より彼らに主導権を取られるのが一番マズい。とにかく何か言わなくては…。



「これはーーー」



「八城さんが見つけたそこにいる賊を、これから捉えるところです!」



「セイヤ様の言う通りですわお母様!」



「賊…ですか」



 主導権とられたァァァァァァ!

 仮面越しなのにアスカ様のジト目が、的確に私の眼を貫いてくる。冷や汗が止まらん…。



「そこの賊のと呼ばれてる方、こちらに来なさい。今すぐにッ!」



「はいィィィィ!」



 有無を言わせぬ言葉に私は、ほぼ反射的に返事をしアスカ様の前に直立不動で立つ。

 さっきの騎士団長やその部下たちが、危険だのお逃げくださいだの言ってるがアスカ様は一切聞く耳を持たない。私が誰だかわかっているから。アスカ様は手がゆっくりと上げる。



 叩かれるッ!

 私は痛みに耐えるため歯を食いしばり目をギュッと瞑る。

 しかし予想とは裏腹に、上げられた手は頭の上にポンッと乗せられただけだった。

 私は目を開け安堵のため息を…なんて事はしない。

 思い出した。この人は叩くなんて甘い事はしない。この人がやるのはーーー



「あ、な、た、はァ!いったいここでェェェ!何をしてるんですかァァァァァァ!」



 ーーー強烈なアイアンクロー。

 アスカ様の握力はその身体に似合わず、大抵の果物なら握り潰せるほどだ。つまり…



「ぎゃあああァァァァァァ!」



 痛い!痛い!痛い!超痛い!頭がッ…頭が割れる!



「ハァ…ハァ…ハァ」



 時間にして十数秒だろう。なのに私が思った事は、やっと解放された、だ。それ程までにこのアイアンクロー悍ましい。

 頭の形が歪んではいないだろうか…。



「さぁ説明しなさい。なぜあなたは私の命令を無視して、こんな所で油を売っているのですか」



 痛いから待って、なんて言ったらもれなく追加サービスが来そうだ。ここは痛みを我慢してアスカ様に従おう。



「それは…その…」



 後ろにいる騎士団たちをチラリと見る。

 答えたいのは山々だが、彼らの前で翔太の名前を出すわけにはいかない。

 彼らは私とアスカ様に疑いの目を向けている。凡そ、今のやりとりで私たちの関係が気になっているのだろう。

 言い淀んだ私が何を言いたいか察してくれたのか「あぁ、そういうことですか」といって私を連れ、彼らから離れた場所へと移動する。



「お待ち下さい王妃様!その者は何者なのですか?」



「それはあとで説明しますよ騎士団長。なのでそこで少し待っていなさい」



 呼び止められたアスカ様は、振り返りも歩みを止めることもせずに言葉だけを返す。騎士団長は納得いかないようで手を伸ばすが、アスカ様に逆らうわけにはいかないと思ったのだろう、すぐに手を引っ込める。

 私はそれを横目にアスカ様の後を追った。



「さてヒスイ、ここまでくればいいでしょう?」



 後ろを見ると結構離れた位置まで来ていた。

 ざっと3,40メートルくらい…確かにここまでくれば彼らには聞こえないだろう。



「はい。気を使っていただきありがとうございます」



「それは構いませんよ。それより説明を」



「わかりました。あれは昨日のことです…」



 それから私は包み隠さず全て話した。最初は翔太を影の中から見守っていたこと、それを気づかれたこと、気が散るからとあまり監視しないでほしいと言われたことなど全てだ。

 私の言葉をアスカ様は考えるように手を顎にあて、時折頷くようにして聞いていた。



「なるほど。つまり翔太君の近くで見守りたいけど、彼にはあなたが影の中にいてもわかってしまい、彼の邪魔になってしまうと。だからここで時間を潰し、間を開けて様子を見に行く予定だった。しかし、仮にも私直属の隠密部隊、それも隊長がつい最近魔法を覚えた子供にバレてこういう事態になったと…そういうことですね?ん、胸を抑えてどうしたんですか隠密が下手な隠密部隊隊長さん?」



「グハッ…!いえ…何でもありません。その通りです…ッ」



 アスカ様の言葉のトゲの数々に膝をついてしまいそうになるのを必死で耐える。



「はぁ、まぁバレてしまった事は仕方ありません。これからは十分注意して下さい」



「はい…」



「そんな気を落とさなくてもいいですよ。今回は翔太君の近状報告を聞けたのでそれでチャラです」



「……前々から気になっていたのですが、アスカ様はなぜ翔太の事をそんなに気にかけるのですか?」



 確かにこの世界の誰とも違う力を持っている彼は私も興味がある。だがアスカ様の肩入れはなんというか…そう異常だ。



「フフフッ、今は秘密です」



 アスカ様は左手を腰に当て、右手の人差し指を口元に持っていきウィンクをした。

 外見だけ見ると20代そこそこ見えるから違和感はないが、実年齢を知っている私からするとアスカ様がそのポーズとるのを見るのはちょっと…その…キツい。なんていたって今年で3なn「ヒスイ、何を考えているのです?」



「何でもありません!」



 笑ってるのに目が全然笑ってない。



「……そうですか。さて、貴女にはこれから仕事に戻って貰おうと思いましたが、その前に特例の仕事を与えます。今から少し彼らと模擬戦をしてもらいます」

 そう言いながら騎士団のほうを指差す。



 は?笑顔で何を言ってるんだこの人は?

 もっと詳しい説明を…ってなに満足げな顔で踵を返して戻ってちゃってるの!?私まだ理解できてないんだけど!

 …あぁ、何なんだもうッ。

 状況を把握できていないまま私は、小走りで後を追った。



「ーーーというわけで貴方方の中から2人ほど選んで下さい。こちらはこのヒスイお相手します」



 どうやら説明は終わってしまったらしい。というか本当にやるんだ模擬戦。



「その前に確認したいことがあります王妃様。その者はいったい何者なのですか」



 まぁその質問は当然なんだろうが、指を指すのはやめてもらいたい。



「あぁ、そうでした。この者はヒスイ、私の護衛をしてる者です。別に怪しい者じゃありません」



 そこまで言うと私の背中をポンッと押す。

 あとは自分でしなさい、ということだろう。



「先ほどはすみませんでした。私は女王陛下直属護衛隠密部隊隊長、ヒスイといいます」



 途端に辺りがざわめき出す、主に騎士団勢が。

 それもそうだろう。今この時まで、私たち護衛隠密部隊の存在を知っていたのはアスカ様とヴァンさんだけ。いくら直属といっても彼からしたら、何処の馬の骨ともわからない奴が、女王陛下を護衛しているなんて言われても納得できないだろう。

 なるほど、それで模擬戦か。ここで勝ち実力を認めさせればみんな文句はないだろう。そうと分かれば早速始めたい、そろそろ翔太のお昼に取り掛からねばならないからな。

 私はアスカ様に離れるようお願いし、これから戦う相手を見る。どうやら相手は騎士団長と神坂に決まったらしい。



「両者出揃いましたな」



 いつからそこにいたのか、ヴァンさんが陽炎のごとく私たちの真ん中に現れる。

 相変わらず神出鬼没な人だ。



「始める前に再度ルールを確認いたします。審判はこの私、ヴァン・ローが務めさせていただきます。模擬戦の場所はここ魔法訓練場の中央部。範囲は50メートル四方内とさせていただきます。わかりやすいよう既に区切っておいたので見ていただければわかるかと」



 確かにさっきまで無かった白い線で四角く区切られている。おそらく幻覚だろう。ヴァンさんの力を知らない彼らは、どうなっている?や、あの執事いつから居たんだ?などの疑問の声が聞こえた。

 ヴァンさんは私たちを一瞥したあと話を続ける。



「模擬戦では武器、魔法共に使用可能。武器は木製では無く真剣を使っていただきます。多少の傷はそのまま続行。相手を先に降参させた方の勝ちです。もちろん模擬戦なので、殺しはご法度でございます。以上が今回の模擬戦のルールです。何か質問は?」



 そんなルールだったのか。ま、ルール自体は問題ないな。

 私は首を左右に振り、質問がないことを伝えた。騎士団長も同じそぶりをする。ただ、神坂だけは質問があるようで「はい!1つ質問」と手をあげる。ヴァンさんはそれに対し「何でしょう?」聞き返す。



「俺たちだけ2人っていうのは、やっぱり不公平です。1対1にするか2対2にしましょう」



「なるほど。と、申しておりますがどうしますかヒスイ様?」



「このままで結構です。それより早く始めましょう、少し予定が押しているので。それとヴァンさん、様をつけるのはやめて下さいっていつもいってるじゃないですか」



 言葉を返しながら私は、腰に差している2本のダガーに指をかける。このダガー、刃の形は通常と同じだが、柄頭の部分に指が1本入るほどの孔があいている。そこに両人差し指をかけ、廻しながらダガーを抜く。



「ホホホッ、相変わらず洗礼させた動きですね。さて、神坂様の意見は拒否されたのでこのまま2対1ということで行きます。両者準備はいいですかな?」



 相手も武器を出し構える。神坂は納得いっていないようだが、どうでもいい。

 私は2人を観察する。武器は2人とも両刃剣か。半身になり両手で構える基本の構え。まるで教科書通りだな。

 かくいう私は棒立ちのままダガーを廻したり、投げたりしている。

 私たちを見て準備が出来たと判断したのだろう。ヴァンさんが右手を上にあげる。



「両者ともにご武運を。模擬戦……開始ッ!」

 30秒でケリをつける。




「相手が何かする前に魔法でいっきに畳み掛けるぞ神坂君ッ!光属性中級魔法〝ライトスラッシュ〟!」



「はい!闇を祓いし聖の光、敵を浄化せしは裁きの十字架!聖属性上級魔法〝ジャッチメント〟!」



 開始と同時に怒濤の攻撃が私に迫る。それと同時に空に大きな十字架が現れる。

 ライトスラッシュ、剣に光属性を溜め放つ光の剣戟か。ジャッチメントとかいう魔法は聞いたことがない。だが凡その予想はつく。おそらくあの十字架の下にいる者を、何かしらの攻撃で敵を倒すのだろう。

 直後私の目の前が光で覆われた。同時に土煙が辺りに舞う。



「やったぁ!」



「さすがセイヤ様!これなら相手も立ち上がれませんわ!」



 外野が魔法を見て、勝ちを確信する。

 確かに当たっていれば危ないな。当たっていればだが。

 さて土煙が晴れてきたな。ここまでで約20秒たっているし、そろそろ私も動くとしよう。



「たった2日で上級魔法を使えるとは驚きました」



「「「「「なっ…!?」」」」」



「どうしたんですか皆さん、そんなありえない者を見るような目をして」



「そっそんな、どうやって…」



「簡単ですよ神坂君。私はただ後ろに下がっただけです。あの光の攻撃が私に当たる前にね」



「ありえませんわ!セイヤ様がいうにはあの攻撃の速さは光と同等。それをただ後ろに下がっただけで躱すなんて不可能です」



「お言葉ですが王女様。それはただの力不足です。私は何も攻撃がきてから躱した、とは一度も行っておりません」



「じゃあ…まさか…」



「そうです八城さん、私はーーーあっ、その前に」



 そこまでいうと私は、今だに回しているダガーのうち1本を高く上に投げる。

 ほぼ全員の視線が上に向く。

 その隙に私は一瞬のうちに2人の背後に移動した。

 直後ヴァンさんの声が響く。



「そこまで!勝者、ヒスイ様!」



 またあの人は様付けを…。私と同等かそれ以上に強いのに。

 少し間が空き、いち早く我な戻った騎士団長が異議申し立てをする。



「待ってくれヴァン殿!私たちはまだ攻撃されていないぞ?なのに何故アイツの勝利なのだ!?…ってあれ?」



 初対面の人にアイツ呼ばわりとは失礼な。それに数秒前まで私がいた場所を指差しても、今は誰もおらんぞ。仕方ない。



「私はこっちですよ」



「ッ!いつの間に…」



「貴方達が私の投げたダガーを目で追ってた時です。それより首、浅いとはいえ手当したほうがいいですよ」



「首…?なっ…血!?」



「うわっ!俺も出てる!」



「頸動脈にはギリギリ達していないので大丈夫です。その辺は加減しました」



「そういうことですグラス殿。お二人は今の一瞬で殺されていたのです。これでもまだ負けていないといいますか?」



 何も言い返せないのか、苦渋に顔を浮かべこちらを睨む2人。

 そんな中、外野から異議申し立てが出る。



「そんなの卑怯ですわ!こんな模擬戦無効です!」



 誰かが言うと思っていたが、まさか王女様が言うとは。



「まさかこの世界の貴女であるが、卑怯というとは思いませんでしたよミーア」



「どういう意味ですかお母様…」



 いつの間にか近くにきていたアスカ様が、呆れたような目で王女様を見る。



「どうもこうも、貴女達が勝手に騙されたと言ってるんですよ。勝手にヒスイの話を聞き、勝手に投げたダガーを目で追った。もう一度言います。貴女達が勝手に騙されたんです。それにヒスイなら…」



「そこまででお願いしますアスカ様。一応私の最大の武器なので」



「そうですね」といいアスカ様はそこで話を打ち切る。王女様もアスカ様の言葉が正しすぎて、ただただ黙るしかなかった。



「さて、勝負はついたしそろそろお開きにしましょう。ヒスイは元の仕事に戻りなさい。騎士団長、これからも精進しなさい。では皆さん、また後ほど」



 そう言い残しアスカ様は出口の方に向かい歩き出す。ヴァンさんも私たちに一礼し後を追った。

 さて、私も行くとするか。

 踵を返し私も出口に向かおうとするが、八城に呼び止められる。



「待ってくださいヒスイ…さん。さっきの続きを教えてくれませんか」



 さっきの続き?…あぁ。



「どうやって躱したですか、ですか。それはただ先を読んだだけですよ。もっと言うなら危機管理能力ですね。つまり経験の差ですよ。ついでに言うと私たち護衛隠密部隊全員備わってます。この程度のこと、出来なくてはあの方をお守りできませんから。では私これで」



 説明を終えるが否や私は、早足で訓練場を出た。

 ふぅ…急いで翔太の昼食を作らなくては。

 ここからは私の訓練の始まりだな。

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