第10章 世界の望み
「ん、うーん…結構読んだなぁ」
つい今しがた読み終わった本を閉じ、座ったまま体を伸ばす。固まった関節がコキコキと音を上げる。
1週間前、この秘密の書庫に入ってから僕は、生活に必要なこと以外は全て本を読むことに費やした。睡眠時間も平均2時間ぐらいしか寝てない。
でもそのおかげで色々なことがわかってきた。
この世界の名はノーテス。そしてこの国の名はラース王国って言うのは、最初この世界に来た時に王女様が言ってたから知ってた。今僕がいる国以外にガルダ公国、メルロ帝国、そしてシン皇国がある。
シン皇国以外は王様や女王様がいるけど、皇国は教皇って言う人がトップらしい。なんだか地球でいうヴァチカンみたい。
強さは武力ならメルロ帝国、魔法ならシン皇国で、ラース王国とガルダ公国は帝国と皇国に少し劣る。
昔はどの国とも仲が悪かったらしく頻繁に戦争が行われてたみたいだけど、魔王が世界征服を企み、その企みを阻止するため停戦協定が組まれた。でも魔王の予想以上に強さに歯が立たなかった。
ある時、見たことのない魔方陣がラース王国にある遺跡から見つかった。その時代の王は最後の賭けとしてその魔方陣を発動させた。そうするとそこには4人の人が立っていた。
これが記録に残る最初の勇者召喚。そしてその勇者達が魔王を倒し世界に平和をもたらした。
そして今もその停戦協定は続き戦争は起きていない。
次は魔法。
この世界には魔素という特殊な目に見えない粒子が飛んでいて、それを取り込み体内で魔力に変え魔法を発動させる。そして魔法は自然に干渉しない。
属性は自然属性の地水火風雷、あと光と闇が一般的。もちろんそれ以外の属性もあって、それらは特殊属性という。ヴァンさんの幻属性やヒスイさんの影属性がそれに当たる。
これが一般的に教わる歴史と魔法のまとめ。
次にアスカ様が纏めた本や資料。
国のことは一般的に教わるなんら変わりはない。ただ歴史と魔法に関しては違い?というより詳しく記されていた。
歴史は勇者たち4人のところ。なんでも4人は友達だったんだけど、召喚されたら1人だけ仲間外れされて敵と戦う時、手を取り合ったのは3人のみ。そしてその1人は皆んなとは違う戦い方をした。そう記されていた。
なんで今、僕が魔王と言わず敵といったか、実際は魔王なんて存在しなかった。資料には『世界の敵』そう書かれてた。
今はここまでしか分かってない。
魔法の方は資料、本共に全て目を通した。そして偶然気づいた矛盾。
この世界には魔素がある。一般的にはそう記されてる。でもアスカ様の纏めた物に気になる一文があった。
『しかし川の近くで魔法訓練をすると、何故か次の日魚の死体が大量に川を埋め尽くす』
最初は、そんな事があったんだぁくらいにしか捉えてなかったんだけど、河川付近での訓練時、毎回起きるとなると不自然に思えてくる。読み進めていくと、魚は全て焼け死んでいたとのこと。でも原因不明で毎年起きるわけじゃないから、そういうことが起きる年もある、くらいで今も通ってるらしい。
ここで僕はふと思う。本当にこの世界に魔素があるのか?と。
この現象はどうにも僕が知ってる現象と似過ぎている。
僕はある1つの仮説を立てる。その仮説を立証できる資料がないか、僕は記憶を探り、また読んでない魔法関係の資料を読み漁る。
そして1つの実験に目が止まる。その実験はこうだ。
ある一定の密室空間で火属性を出し続ける。その魔法がいつまで火を維持できるか。そんな内容だった。
結果から言うと3分で火はほぼ消えかけた。
でも問題はこの後。
この実験の立案者が密室空間の中に入ろうと扉を開けた直後、大爆発が起きた。
ここでおかしいのはそもそも魔法とは、さっきも言ったように魔素を体内に取り込んで、魔力へと変換。そして魔法を放つ。つまり、いくら魔素といっても、魔力にならなければ魔法には影響しない。
なのに何故この実験は大爆発が起きたのか。それはーーーん?後ろの影から見られてる?
「ヒスイさん、います?」
直後、本棚の影からヒスイさんがゆっくりと出てくる。メイド服で。
最近僕は、この人の趣味はコスプレなんじゃないかと思っている。この前なんてどこかの学校の制服できたし。まぁ、聞かないしつっこまないけど。
「さすがだ、いつから気付いてた?」
「今ですよ」と答えるとヒスイさんはガッツポーズをした。どうやら結構前からいたらしい。その後流れるような動作で、紅茶とお茶菓子を用意し僕の向かいに座る。
「ホントはすぐに話しかけるつもりだったんだが、なんだか難しい顔をしていたからな。タイミングを見てたんだ。ところで何を考えていたんだ?」
「考えてたというより整理してたのほうが正しいですね」
淹れてもらった紅茶のお礼をいい、ひと口飲んだ後今までのことを話す。
「なるほど。それで翔太は爆発のことをどう考えてるんだ?」
「バックドラフト…僕たちの世界にはそいう言葉があります。密閉された空間で不完全燃焼により可燃性のガスが溜まり、その状態から酸素が取り込まれると起こる爆発のことです。それが起きたんだと考えています」
「つまり君が言いたいのは、魔法に影響を当たるのは魔素じゃ無く、『空気』。そう言いたいんだね」
「はい。もっというと魔法は自然に干渉すると考えています。おかしいですか?」
「おかしい?とんでもない。私はあながち間違ってないと思うよ、根拠はないけど。私の周りでもこの世界の常識じゃ説明がつかないこと起きてるし。ま、それはこれから君自身が検証してくしかないね。それで、本来の目的である世界の真理のほうはどう?」
この話に飽きたのか、ヒスイさんがお茶菓子であるバームクーヘンを食べながら聞いてくる。
「それはまだわからなくて…。そこの本棚にある一冊、それが最後なんですよ。なのに全然掴めてないから正直焦ってます」
ヒスイさんは「ふーん」とそっけない返事を返す。返事とは裏腹に、その最後の一冊に興味を持ったのか、おもむろに席を立ち本棚へと足を運ぶ。本棚の前に立つと本を手に取り、僕にも聞こえるほどの声で題名を読み始めた。
「『大好きな世界』だって。翔太、本当にこの本を読んだらわかるのか?これ絵本だぞ?」
「知ってます。だから僕も不安なんですよ。もしこのまま何もわからなかったらアスカ様もきっと僕を…」
そう思うと最後の一冊に手を付ける勇気が出ない。怖い。嫌だ。いっそこのままここにずっと。
そんな負なことばかり考えてしまう。
『神様ってなんだろう?どんな人だろう。見てみたい。どうしたら会えるのおばあちゃん』
え?
俯いていた顔を上げるとヒスイさんが最後の一冊を朗読していた。
僕が顔をあげたのがわかったのだろう、朗読を止め僕の目を見る。
「何にそんなに怯えているのかは大体想像がつく。安心しろお前になら必ずできる、などと私は言わない。成功する根拠がないにだから。だが、終わった後のことなら言える。成功しようが失敗しようが安心しろ。どんな結果になってもこれからお前は私が守る」
その言葉に心がスッと軽くなる。
どんな安心しろという言葉よりも一番嬉しい。理由は分からないけど一番響いた。
自然と頬が緩む。
ヒスイさんはふっと笑うと絵本に視線を戻し、朗読を再開する。。
それはね坊や、このお空の上から私たちを見守ってくださっているんだよ。
じゃあいるかどうか分からないよ…。
いいえ、分かりますよ。神様はねぇ、星の延命を願っているの。今私たちが生きていれる、それが神様が居られるという事なのよ。
そっかぁ。じゃあ僕、神様のために一生懸命生きるよ。
えぇ、そうしましょう。私もまだまだあなたの成長を見たいから長生きしなきゃねぇ。
「なんだこの絵本は?変な絵本だ。翔太もそう思うだろ。…翔太?」
ヒスイさんが何か言ってるけど今はそれより、絵本の一節。
神が望むのは星の延命だって?もしそうだとしたら、この星が望んだものってまさか…。でもそう考えると全て辻褄が…。
その瞬間、僕の意識はブラックアウトした。




