罪の報い
◆scene No.26◆
そして……
少し時は過ぎて……。
涼真は、姉の円香にある日突然言われたのだ。
「涼真、うちのパパね海外赴任になったの」
「へぇ、おめでとう?」
「でね、私たちもついてくから、涼真もさ、もういい年なんだし彼女と結婚して、ここに住んで管理してよ。だいたい涼真一人だと心配だから」
「結婚ー?」
「また、そんなめんどくせって顔に書いて」
「でもなぁ………ここに住むって」
結婚……。
たしかに涼真も志歩もそういう年頃で、馴れ初めはともかくとして二人は上手くいっていたし、何よりも何故ここに住まないか、円香にも志歩にも説明のしょうがない。
志歩と冬悟が不倫していた事を涼真は知らない筈なのだから。
(……俺を選んだのは……志歩だから……。これもまた人生ってやつ?)
涼真はそんな事を思いつつも、自分と………冬悟と志歩の事をちらりと考えた。
そして、涼真もまた………人の事情に手を出したがゆえに。
志歩の気持ちを弄ぼうとしていた……その罪ゆえにか。
全ては済んだこと。
それを……見なかった、知らなかった、全て無かった事……。そう振る舞うべきなのかも知れない。
☆★☆★☆★☆
「ねぇ、挨拶回るの一緒に来てくれるよね?」
一通り荷物を片付けた志歩が言うと
「しょーがねーけど、行ってやるかぁ……」
よいしょ、と立ち上がった涼真が洗剤の入った紙袋を持つと志歩と共に出掛けるべく靴を履いた。
「今日なら、日曜だからどの家もこの時間ならだいたい居るだろ」
志歩はこの日は休みで涼真は昼からの仕事だった。
「じゃあ、まずは……隣行って、あ、そうだ。志歩は桐生さん知ってるんだよな?家庭教師だった」
涼真が志歩の不倫相手まで知っていたと志歩は知らないはずだ。……だから、さりげなく事前にその名を言っておこうと思ったのだ。
「桐生さん……?」
「そ、斜め向かいに住んでるんだ」
「へ、へぇ~そうなんだ」
「うちの姉ちゃんと、莉沙さん、仲良かったから志歩もたぶん仲良くしてもらえんじゃない?」
「………だと、いいな」
涼真は、隣を回ってから、桐生家のインターホンを鳴らした。
「あ、釼持です~」
『はい、涼真くん?』
「結婚したんで、奥さん紹介しに来ました~」
『あ、挨拶に来てくれたの、少し待ってね』
莉沙の声がして、少しして玄関が開いて莉沙とそして冬悟が揃って出て来て………。
それぞれの視線が一瞬戸惑いを浮かべ揺らいで、すぐに笑みを浮かべた。
「あれ?志歩ちゃん」
冬悟がさりげない風を装い、言葉を発した。
「お久しぶりです」
「涼真くんの奥さんって、お店にいた?」
莉沙もにこっと微笑んで言った。
「ご近所になりますので、よろしくお願いしますね、桐生先生、それに莉沙さん」
「こちらこそよろしくお願いします」
莉沙は柔らかい微笑みを志歩と涼真に向けた。
心からの祝福を滲ませていた。
「こんな風にご近所になるなんて……偶然ですね」
「本当にそうね、涼真くん志歩ちゃん、結婚おめでとう」
―――――
犯してしまった罪というものは、容易くは消え失せず、不意に形を変えて報いというものを連れてやってくる。
それは……全て、自分の選んだ道のその先にある。
人の道は、遊戯ではない………。
人は、時には優しくて時には残酷で。
時は、経てば忘れさせてもくれるし、時にまた甦らせて、忘れさせてもくれない。
それぞれが心に秘めた罪を抱えて、表には決して浮かべてはならない。秘めた罪をまた出してしまったときは、新たな罪を重ねてしまうかもしれないから………。
みんな、そこには重い重い蓋をする。
ここが、また……秘密を隠すための、零。
ゴールのない、始まり。
―――完―――
最後までお読み下さり、ありがとうございました!
ハッピーエンド(?)なんですけど、ちょっとゾクッとするエンドのゾットエンドのつもりです。
それぞれ男女別の視点から、書きましたが……いかがでしたでしょうか?
普通の人でも白か黒かじゃなくてどちらの性質もあったりするだろうし、何気なくそんな事をしてしまう事ってあるかと思うのです。
一見普通のそんな幸せそうな家庭の、ちょっとした(?)出来事を、ハラハラドキドキしながら読み進めてくださっていたら何よりも嬉しいです。
アクセス&ブクマ&評価&感想を下さった皆様ありがとうございました。執筆する上では何よりもの励みになりました。
また感想などお聞かせくださるととても嬉しいですm(__)m




