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魔法の国で王妃となった私は、やがて幸せになります。  作者: 猫公


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第5話 私が見つけるべき真実⑤

 「ユラン様。ローティス坊ちゃまに可愛いと思ってもらえる服を選出してきました」


 「違うわ。ユラン様はもっと肌に密着するカッコいい服が似合うに決まっているわ」


 「分かっていないわね。ユラン様は清楚系の服が良いに決まっているの」


 使用人であるメイドは、数多の洋服から私に似合う服を選んでくれていた。悪気は無いのだろうが、私は着せ替え人形のように何度も試着をさせられる。

 

 彼女らの好みがそれぞれ違っているから一向に決まる様子は無かった。そんな彼女らをユベルトは一喝して、結果的に無難な服を用意してもらった。

 

 「度重なる無礼、申し訳ございませんユラン様」

 

 「いいのよ。悪い気はしなかったもの」

 

 着替えを終えると宮殿の二階にある書庫を案内される。そこは私の身長をとうに超える大きな棚が並べられており、手を伸ばしても到底届くことはなかった。


 「この部屋にどれだけの本が収納されているのよ」


 「魔法の国(ラオリト)にあるすべての本が収容されております。もちろん魔法により原本を複製した物ばかりですが」


 「この中から帳簿と入出国記録を……んー、どうやって探そうかしら」


 「ユラン様。ここに収納している書籍は、こちらの魔法を使って探すことが可能でございます」


 ユベルトは空中を浮遊する光の球体を引き寄せる。これに触れながら脳内で求めている本を想像するだけで、その者の思考を読み取って自動的に本が運ばれてくるらしい。

 

 基本的に魔法は使用者のみにしか効力を生じない。こうやって使用者以外にも干渉できる魔法はとても珍しい。

 だけどその魔法の使用を私は拒絶する。


「……いい。魔法は使いたくないもの。自力で探すことにするわ」


「必要とあらばお手伝いいたしましょうか?」


「ありがとうユベルト。だけどこれは私のワガママだから、あなたはここまで案内してくれただけ十分よ。それに、さっきからメイド達があなたに話しかける機会を伺っているみたいなの。仕事に戻ってあげて」


 書庫のドアにはメイド達が困った様子でこちらを窺っていた。

 

「ですが」


「心配ご無用。私だって魔術師の端くれなのだから」


「お怪我には十分気を付けて下さい」


「ええ」

 

 ユベルトは申し訳なさそうな顔をしたあと、頭を下げてメイド達の方へ歩いていく。


「さて、どれくらい時間がかかるか分からないけど探してみますか。他にも気になる本があれば引っ張り出そう」


 もちろん数えきれないほどの棚を端から順に探していくわけではない。

 私は白紙に魔法陣を描き、複数体の小さな人形を作り出した。その人形に髪の毛を与えて、私の思考を共有する。


 「帳簿や入出国の記録だけじゃなくて気になる本はすべて出してくること。いいね?」


 「きゅい!」

 

 小さな人形達は、その命令に従って本棚を巡っていく。

 働き者の人形達はそれぞれが協力し合って本を運んでくる。それを私は一冊ずつ読んでいく。全体の半分程度の本棚を確認し終えたあたりで、日が暮れていることに気づいた。


「もうこんな時間。とりあえず今日はこの本を読んで——おわっ」


 疲労で立ちくらみした私を、ガッシリした体格の男性が支える。彼の薬指には私と同じ指輪が嵌められていた。


「宮殿に来たばかりなのに書庫で勉強とは感心する」


「ローティス様」


 彼は山積みになっている本を手に取って、それをぱらぱらと捲る。「ふむ」と小さく唸る。

 

 「この国の歴史について勉強しているのか。文化と貿易。他国との協定と戦争。この国は魔術の国(サブナク)と分離してから脆くなった。活発だった市場は衰退し、各国との貿易も一部停止させられた」


「それは魔術の国(サブナク)も同じです。国が分断されたことで供給が行き届かずに貧困で飢えている人もいました」


「国が分離してまだ日が浅いころ、魔法の国(ラオリト)と魔術の国(サブナク)を隔てる壁を破壊し、お互いに食料を分け合ったり酒を飲んだり交流を続けていた大人達もいたようだ」


「そうなのですね」


 その話は初耳であった。第一王子だからといって甘やかされて生きてきたわけではないのだろうか。いずれこの国の頂点に立つ人間としてそういった知識を詰め込まれているのだろうか。ユベルトの英才教育が想像できた。


 「ちゃんと片付けますので、安心してください」

 

 するとローティスは「ここに来たのはユランに聞きたいことがあってな」と私の前に立ちはだかる。挙式の口づけについて言及されるだろうか。服についた埃を叩いて立ち上がる。姿勢を正し、不快にさせない微笑みを浮かべた。


「私に答えられることであれば良いのですが、聞きたいこととはなんでしょうか?」


「馬車でユベルトと何を話していた」


 私はその一瞬、彼の質問に固まってしまった。


 目線を泳がせてしまったのか。はたまた右手に力が入ってしまったのか。どちらにせよ私の動揺をローティスは見逃さなかった。

 

 バシンッ。


 頬が熱い。遅れてジンジンと痛みが走る。正面を向くとローティスは哀しい表情で手を振り上げていた。

 

 「ユベルトの首に傷があった。首だけじゃなくて右手もだ。刃物を突きつけられた傷だった」


 「——っ」


 「ユベルトは日頃から防御魔法を展開して、刃物や拳銃から身体を守っている。彼は王族の使用人でありシークレットサービスの役目も担っているからな。それなのに首に傷がつくということは防御魔法を解いた証拠だ。基本的に彼が防御魔法を解くことはない。そんなことをさせることができるのは俺かお前しかいない」


 それを聞いて心臓がキュッとした。やはりユベルトはあの時、私に命を捧げていたのだ。私が感情的になって刃物を動かしていたら本当に首が飛んでいた。その覚悟を持ってまで私に真相を話すこと拒んだ。

 

「刃物を突き付けられようがユベルトはきっとお前を怒らない。首を刎ねられようがユベルトは決してお前を憎まない。だけどあいつは俺の大切な家族だ。あいつが怒らない分、俺がお前を怒ってやる」


 彼は冷たく言い放ち、私に背を向けて歩いていく。「せっかくの挙式の日に、こんなことをさせないでくれ」そう言い残して。


 私には彼の言動が全く理解できなかった。頬を叩き、私の行いを叱咤した。


た(・)っ(・)た(・)そ(・)れ(・)だ(・)け(・)?(・)


 「怒る怒らないだけで済む話ではないでしょう!!」


 書庫を反響する私の怒号。彼は驚きもせずにゆっくり振り向いた。


「たとえ王妃であっても、あなたの大事な使用人を殺そうとした。無抵抗の使用人の喉にナイフを突きつけて、怪我も負わせた。それを「怒る」のみで許すというのですか!」


「脅すつもりだったのだろう。お前に殺意が無かったことは知っている。ユベルトの応急処置もお前がしたのだろう」


「それでも私が手を引けばユベルトは死んでいたのです!!」


 ここまで言ってもローティスの表情は変わらなかった。逆ギレをする私のことを憎たらしく睨みつけることもしなかった。まるで私の心を悟ったように許しを与えてくる。

 

 「ローティス様。いいえ、ローティス。あなたも私の両親が亡くなった真実を知っているのではないのですか?」


 「……」


 「命を懸けてまで私に伝えられないこととは一体何ですか。私はこれから何を知ることになるのですか。不安で堪らないのです。見え透いた嫌悪を向けられたのなら、それ相応の振る舞いだってできます。なのに」


 私は愛されたいわけじゃない。守られたいわけじゃない。私はただ真実を知りたいだけ。だから私は悪意をばら撒いている。それなの私の悪意を包みこんで受け入れる彼らに、どうしようもない恐怖すら感じていた。


「ローティス、あの挙式での言葉は何だったのですか。私は魔法の国(ラオリト)を恨んでいる。長年積もった恨みがそう簡単に晴れるわけない。それを知っているにもかかわらず、どうしてローティスは私を王妃に選んだのですか。どうして私を受け入れるのですか。あなた達は私の何を知っているのですか?」


 私の記憶に彼らは存在していない。ただ、記憶の空白期間に彼らが関与しているのであれば、どうして隠すのか。

 返答を待っていると、彼は目線を落としながら口を開いた。


「俺がさっきこう言ったのを覚えているか。『国が分離した当初、魔法の国(ラオリト)と魔術の国(サブナク)を隔てる壁を破壊し、お互いに食料を分け合ったり酒を飲んだり交流を続けていた大人達もいた』と」


「ええ。今ではそんなことをする人は誰も居なくなったのでしょう」


「それを仲介していたのは君の両親だ。そして「魔法の国(ラオリト)で魔術の国(サブナク)の人間が殺された」ことが原因で交流が途絶えた。それが公になっていないのは、その事実を魔法の国(ラオリト)の王族によって揉み消したからだ」


「どうして……」

 

 ローティスは一呼吸置いて、こう告げた。

 

「君の両親は魔法の国(ラオリト)で殺された。その殺した人物が私だと言ったらどうする」

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