2、探索者の街 カデラル
「つきました?」
「つきましたよ。まだ手前のトンネルですが」
トンネルの外装は石造りで長い年月が経っているのか苔むしている。トンネル上部に名前が彫られているが、苔や草や蔦で隠れて見えない。
「そうそう。入ったらあなた達の名前はイザとセドです。本名から一部取った方が分かりやすいでしょうし」
「名乗るのは偽名にしておけ。あそこは偽名の人も多い」
「国外追放された人とかも居ますからね」
「ええぇ」
国外追放はなかなかに重罪であろうことだ。アイザックも一度しか見たことがない。偽名は、アイザックとセドリックから取っているのだろう。安直と言えなくもないが、分かりやすさで言えばかなり分かりやすい。
デーヴィッドは服についていたフードを被る。
「入りますか」
「あ、はい!」
いつの間にかブライアンは足元を照らす光用の光が付いたランプを持ってトンネルの前に立っている。
置いてけぼりになる事を防ぐために駆け足で追いかける。近くにいくとひんやりとした空気が足元に当たる。
「そうだった。俺のことはライと呼べ」
「えっ」
アイザックが驚きで声を上げる。
先ほどブライアンと名乗っていたはずなのに、呼び名に訂正をしてくるということは好感度は低かったのかと地味にショックを受けた。
「それから、一度シャワーでも浴びて来たらどうだ?」
「えっ、臭いですか?」
「全くないですよ。清潔感がありますし」
おそらく一度頭を冷やせという事を言いたいのだろう。だが、言い方というのもある。
「ブライアン、口下手なのは程々にしてください。誤解されますよ」
デーヴィッドの言葉にブライアンはプイッとそっぽを向いた。
「知らん」
「ええー」
心底興味ないとデーヴィットの希望を突っぱねる。
「要は貴方達を心配してるんですよ。言い方があれですが」
「分かりにくいですね」
「ね。不器用なんですよ、彼」
「おい」
ものすごく不機嫌な顔をして振り返ってくる。そんなブライアンを置き去りに首を横に振る。
「だから誤解されないよう訳したりしてるんですよね」
「余計だっていつも言っているだろ」
「そんなこと言って。また面倒ごとに巻き込まれるのはごめんですよ」
一度ぐらいは巻き込まれているのだろう。
「ほら、見えてきた」
「ここが、」
赤土からできた粘土レンガ製の建物が多い。それでも二階建ての建物は少ない。
「そう。ここがカデラル。探索者の街です」
入り口から見ている限り王都の3分の2ほどの大きさがある。大体、研究施設島と同じぐらいだ。
「思っていたより大きい」
「ここは火山の噴火後の中でも最大級の大きさですからね。小さめの島ぐらいには結構大きいですよ」
「なるほど」
アイザックとセドリックの知っている小さめの島はリョウが住んでいる島ぐらいだ。
「門番さんとかって居ないんですか?」
「居ないですね」
「安全なんですか?」
元の場所では基本問題を持ち込んでくる相手の監視役として門番がいたので、ここまで出入り自由で出入り審査なしというのが安全なのかと気にしている。
「見回り隊が居るし、そんな大事を起こしたら住人に追い出されますからね」
「火器を片手に追いかけっこ、稀に見るな」
「あんまり見たくないんですけど」
火器を片手に追いかける人を想像してみるが、松明を持って追いかける人ぐらいしか思いつかない。
「まあ、おかしな事をしない限りは敵対されないので、気をつけてくださいね」
「なんか、怖い気配を感じるんですけど」
「怖くないですよ。ただ、ご近所付き合いはした方がいいですね」
「気をつけます……」
近所付き合いはあまりしてこなかった二人である。あまり自信はないがやるしか無いのである。
「今はお店がどこにあるか覚えたらいいかと」
「なるほど」
最初の補助だけしてあとは自分の力でやれという事だろう。
「ライ、どうかしましたか?」
「いや、住民票代わりの物いるよなって」
「あー、要りますね」
少し考え込む。
「それは探索者カードで良いのでは」
「そうだな」
「たんさくしゃカード?」
おうむ返しのように聞き返す。
「探索者カードって何ですか?」
「探索者は人探しや護衛などの探すことに特化した人の事を言う総称だ。他には専門的に研究する研究者、発掘作業を好んでする発掘者とかがいる」
「カードは名前、いつ習得したか、どんなことができるか、得意武器などが示された身分証明書のような物です。言うなれば、世渡りの人に発行しているカードの別バージョンです」
「なるほど」
この人がどんな人なのか簡単に書かれたカード、と言われれは分かりやすかった。
「基本武器屋と食事屋と生活用品を売っている所を覚えていれば良いと思いますよ。他は、自分で見つけてもらいましょう」
「分かりました。どのあたりに美味しいご飯屋さんってあるんですか?」
腹が減っては戦はできぬ、ということわざが遠くの国にある。
「大通り沿いが結構あるけど目立ちやすい分人も多いね」
「んー、秘密基地みたいで口が堅い所ってどこかにありますか?」
「隠れ家、とかどうだ?」
「その隠れ家的なお店を聞いているのですが」
ブライアンは話が噛み合わず明らかにしょんぼりした。
「どうしたんですか?」
「本当にそう言う名前のお店があるんだよ」
「あるんですか!?」
「あるんだよ」
しょんぼりしたブライアンはデーヴィッドのフォローでやる気を取り戻した。
「とりあえず、証明書取りに行くか」
「ですね」
そんな代理保護者の会話を気にすることなくアイザックとセドリックは道沿いの店に目を輝かせる。
「おい! 移動するからな! 立ち止まるなよ!」
「逸れたら迷子になるぞ! とのこと」
「訳すなよ。全く」
もはや強く否定することに疲れたブライアンは、デーヴィッドの訳に否定することを諦めてきた。




