支配された村
北を目指し始めて一週間が経った。御者の荷馬車から降ろしてもらい、俺達は森の中を歩いていた。
硬龍ガンドラントが生息する山岳地帯までは、あと三日ほどかかる。
最近野宿ばかりしている。悪くはないがそろそろ旅の物資もなくなってきたし、何よりベッドが恋しい。
「そろそろ村とか見えないかなぁ〜なぁリーフ?」
「ザインガル様のおっしゃる通りでごさいます」
ここ数日リーフに意見を求めてもこれしか返ってこない。正直イエスマン過ぎて話が広がらない。
無言で歩くのも間がもたないため、会話の広がらないキャッチボールをしていると村のようなものが見えてきた。
「村だ!!村が見えたぞ。リーフ」
「ザインガル様のおっしゃる通りでございます」
「・・・・・・なんか適当に返してない」
「ザインガル様のおっしゃる通りでございます」
村に近づくと家や畑がある小さな村だったがある違和感があった。老人が多く、若者はちらほらいるが数えるだけでも三人ほどしかいない。
「あのぉ・・・・・・すいません。この村って宿ってありますか?」
近くにいた白髪頭の杖をついた老人に話しかけると老人は目を見開いて俺を見つめた。
「あんた・・・・・・剣を持っておるがひょっとして・・・腕に自信のある方かのぉ?」
「えぇまぁ傭兵をしながら旅をしているもので」
俺の言葉を聴いて老人は嬉しそうに俺の両手を掴んだ。
「おぉ・・・ついにこの村に救いの手が来なさった」
「救いの手?」
「詳しい話はワシの家で話します。ささこちらです」
老人に連れられて俺とリーフは老人の家に招かれた。家の中は木製でできた家具が並んでおり、使われていない暖炉には蜘蛛の巣が張っていた。
老人に案内され俺と老人は椅子に座るがリーフは椅子に座ろうとしなかった。
「突然のことで申し訳ないのじゃが助けていただきたい」
「助けるって何から?」
「二ヶ月前、この村はオークに襲われたのじゃ。オーク達は村を支配し一週間に一回生贄を差し出すことで我々を生かすと言ってきおった」
「なるほど・・・そのオークを倒して欲しいわけか」
「その通りですじゃ。ちょうどオークに生贄を差し出す日は明日。明日の生贄はワシの妹なのですじゃ」
「明日か・・・・・・ん?おじいさん今なんて言った?」
「明日の生贄はワシの妹なのですじゃ」
「・・・・・・ん?妹?妹さんは何歳なの?それかあれか?親が違くて物凄い歳の離れた妹がいるかとかか?」
「いいえ正真正銘のワシの妹ですじゃ。年は三歳ほど離れていますが」
「おじいさん何歳なの?ひょっとして老けてるだけで結構若い?」
「今年で七十八になりました」
「・・・・・・そうか、そうか。うん。明日オーク達を倒す作戦を考えるか」
「今日はワシの家に泊まっていってくだされ」
「ありがとう。ところでこの村に若い子が少なくないか」
「今は出稼ぎの時期なのでほとんどの若者が村から出ております。そんな時期を狙ってワシら老いぼれを狙うとは・・・・・・許せんモンスター共です!!」
「うん・・・・・・そうだな。モンスターの価値観はわからん」
一日村に滞在し、次の日の夜だった。村に巨大な影が近づいて来た。オークが三体ほど村にやって来た。
「イケニエヲモライニキタゾ。ニンゲンドモ」
オークが来ると目の前に煌びやかな衣装を来た女性がオーク達の前に出てきた。
蜘蛛の糸のように細く白い髪と、農作業や村仕事で日々使ってきたであろう、ボロボロの手。皺のだらけの肌はまるで人生の苦労を表しているようだった。
そう見なりを整え、化粧をしたおばあちゃんである。
オーク達はおばあちゃんを持っていた木の檻に入れるとそれを背負い村を後にした。
俺とリーフ、そして村の若者の男性を一人連れてオーク達の後をつけることにした。オーク達の拠点がわかれば攫われた人たちを助けられるかもしれない。
「うーんモンスターの好みはわからん。そう思わないかリーフ?」
「ザインガル様のおっしゃる通りでございます」
なんとなくだがリーフの今の言葉は適当とかじゃなく心からの同意だと思う。相変わらず表情筋は死んでいるが。
オーク達をつけて森を進んでいると森の中に灯りが見えてきた。
灯りのある場所ではオーク達が酒盛りをしていた。俺は剣を抜きオーク達を後ろから叩き斬った。
オーク達の反応は鈍く瞬く間に三体を斬り伏せた。あばあちゃんを檻から出すと村の若者に預けた。
「君達は村に帰りなさい。後は俺たちがやるから」
「頼みます」
若者がおばあちゃんを連れて森の奥に消えていくのを見届けると俺とリーフは酒盛りしているオークの拠点に静かに近づいた。
オーク達の酒盛りをして盛り上がっており、その近くには木でできた檻に老人たちが入っていた。
檻の中には食べ物が乱雑に置いてあった。恐らくオーク達にとって老人達は人間でいうペットのような感覚なのだろう。
「数が多いな。リーフから五十メートル離れずに戦うにはきついし、老人達を人質に取られたら戦えないぞ」
オークの数は七体。先ほど倒したオークの強さを見れば大したことはないが不意打ちを仕掛けても気付かれてしまう。
逃げれたらそれこそ終わりだ。リーフからは離れられないしいつ村に来るかわからない恐怖を村人達に残すことになる。
「ザインガル様・・・・・・ご相談があります」
俺の横にいたリーフが自分から話しかけてきた。
「なんだ?リーフ」
「私がこのオーク達を一網打尽に致します」
リーフはそう言うと懐からナイフを取り出した。鋭利なナイフは手入れがいきとどいており、灯りを反射していた。
「お前じゃ無理だリーフ。お前の実力はわからないしこの数じゃ一匹でも逃したら後々厄介なる」
「・・・・・・確かにザインガル様のおっしゃる通りでございます。しかし私にはできます」
表情は死んでいたがリーフの目には確かな確信があるように自信に満ちていた。その目を俺は信じることにした。
「・・・・・・わかったやってみろ。何かあれば俺がフォローするから」
「かしこまりました」
俺たちからオークの位置はギリギリ五十メートル以内に収まっている。オーク達がこれ以上動かなければ俺達が死ぬことはない。
リーフは深呼吸をすると立ち上がった。
そして一瞬のことだった。灯りの火が消え、辺りが暗闇に包まれた。白い線が暗闇に写ると周りは静寂に包まれていた。
俺が暗闇に目が慣れる頃には七体のオークは首から血を流し地面に倒れていた。
そしてそのオークの死体に座る血に汚れたリーフがいた。
突然のことに俺は草むらからゆっくりと立ち上がり、リーフに近づいた。
「リーフ・・・・・・お前はいったい何者なんだ?」
俺の質問にリーフは表情一つ変える様子はない。ただ赤く美しい瞳で俺を見つめていた。
「・・・・・・私の母は暗殺者でした。私は暗殺者の娘にございます」




