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エピローグ

 それからしばらく経って、私はまたお城の広間に来ていた。


 その後、一度も死んでいない。

 私も一応気をつけているし、クレイグは過保護なぐらいに私の周囲に危険がないか気を配ってくれている。

 だから、もう死に戻りするかどうかわからない。

 でも結局、何故死に戻りしたのかもわからないままだった。


 あれから、落下したシャンデリアを調べたらしいが、金具の経年劣化の見過ごしと判明した。

 王家は謝罪と城内の全ての点検を約束し、招待された貴族たちも、誰も怪我をしなかったことからよしとして、それでこの件はおしまいということになった。


 そして、マルセルは酔っ払っていたとあれこれ言い訳をしたが、多くの貴族の前であそこまで愚かな行動をしてしまっては、さすがにフォーテスキュー侯爵も庇うことはできず、廃嫡して領地の中でも僻地に隔離し、厳しく見張らせることにしたらしい。ちなみにシャロンも一緒である。バラバラにしたら何をしでかすかわからないから、フォーテスキュー侯爵が渋々ながら引き取ってくれたのだ。

 彼らはもう都会で遊ぶことも、新しい服を作ることもできず、人より豚の方が多い土地で過ごすしかなくなった。でもドMな時のマルセルは豚みたいな声を上げていたし、案外豚とも仲良くなれるかもしれない。


 私の父もフォーテスキュー侯爵から多額の慰謝料をもらったらしい。そのまま丸っと私がもらうことになったが、使うたびに豚のようなマルセルを思い出しそうになって気持ち悪いので、見ないで貯金しておくことにする。


 そして、婚約者がいなくなった私にクレイグが正式に婚約の申し込みをしてくれた。


 正直なところ、うちの父はともかく、第三王子が伯爵令嬢と結婚なんて一筋縄ではいかないのではないかと思っていた。けれど、クレイグの両親である王と王妃はあっさり許してくれたそうだ。


「僕が同盟国の王女に婿入りをする予定で留学していたのは知っているだろう。僕はそのつもりだったけれど、互いに恋愛感情がわかなくてね。結局、王女に好きな相手ができてしまって、婚約の話はなくなったんだ」


 なんと、私と似たり寄ったりの経緯だったらしい。


「僕に辛い思いをさせたと両親は思っていて、好きな相手がいたら今度こそ身分関係なく結婚していいと言われていたんだ。けれど、その相手が君のような勇気ある淑女と知って喜んでいたよ」

「ま、まあ、ともかく、無事に結婚の許しがもらえてよかったです」

「大丈夫。もし許しを得られなかったら、許してもらえるまで掛け合うつもりだったし、方法も幾つか考えていたから」


 クレイグはキラキラ眩しい笑みを浮かべてそう言ったのだった。

 許してもらう方法とは一体……気になったけれど深く追求しないでおいた。


 私がマルセルたちを救ったことは美談として語られてしまっている。

 そのおかげもあって、身分違いと反対されないのはよかったんだけど。


「でも、本当によかったんですか? 私なんかで」

「アマリリス、君は自分の魅力をもっと自覚した方がいい。でも、もし君が僕との婚約を嫌だと思っても、絶対に放してあげないけどね」


 クレイグはどこか壮絶な笑みを浮かべる。顔がとんでもなく整っているせいで、思わずゾクリとしてしまう。

 けれど。


「嫌になんかなりません。絶対に!」


 私はそう言い切って笑った。


 そのタイミングで大時計がポーンと音を立てる。賑やかなメロディを奏でるのは新年になった瞬間だけらしい。


「それにしても、どうして死に戻ったんでしょうね」


 私はずっと疑問に思っていたことをクレイグに尋ねた。


「うーん、そうだな。子供向けのお伽話になるんだけれど、この大時計には時の精霊が宿っていて、『王族の大切な人の命に危機があった時、時を戻して救う』という逸話があるんだよ。だから死ぬ君だけでなく、僕も一緒に時が戻っていたんじゃないかな」

「へえ。でも、私が死んだ時、まだクレイグ様の大切な人じゃなかったはずですよね?」

「もしかしたら、未来で大切になる人も含まれていたのかも。それなら、僕たちが婚約するのは運命だったのかもしれないね」


 クレイグは私をぎゅっと抱きしめた。


 運命だから、というのは安っぽい気もするけれど、まあ、それでもいいか。


 私は大時計に感謝しながらクレイグの腕の中で静かに目を閉じ、甘い口付けを受けたのだった。



 おしまい

ここまでお読みくださいましてありがとうございました。

評価を入れていただけると今後の励みになりますので、よろしくお願いします。

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