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嘘と『ほのか』と『左フック』と

「王子様に抱えられてお姫様の登場だ」

病室に入った俺達を見て、志村さんは第一声でそう言った。

「茶かさないでください」

一応返答しておくがはたから見たらその通りだろう。蜜柑の抱え方がお姫様抱っこなのは事実なんだし。

ニヤニヤとしている志村さんを視界からわざと外しながら蜜柑が安定して座れるように背もたれがある椅子を志村さんのベッドの近くに動かし、座らせる。俺と離れるときにちょっと名残惜しそうな顔をしたは気のせいだろう。

「さてと、役者も揃ったし…蜜柑、ポーカーでいいよな?」

「勿論ですよ」

いつも通りの笑顔で蜜柑が言う。

突然だが人間には誰しも特技がある。スポーツが得意だったり、5桁の暗算が出来たりetc…

蜜柑の場合それが『トランプ』なのだ。

「今日こそ負けねぇぞ」

「そうですか」

絶対の自信をもった顔で志村さんを見る蜜柑。まるで肉食獣が獲物を前にして舌なめずりしてるように見えるがいつものことなので気にしない。そしてゲームは始まった。


過程を話すのも面倒なので結果だけ言おう。


今回も蜜柑の一人勝ちだった。しかし手がスリーカード以下にならないってどういうことだよ。


「次は負けねぇからな!」

捨て台詞と共に検査に向かった志村さんを見送り蜜柑を部屋に帰すために抱こうとするが

「私…用済みですか?」

と目に涙を浮かべ、上目使いで言われてしまった。

…言葉だけ聞けば俺が悪役だな。

「いや…そうじゃなくて…」

「私とはただの遊びだったんですね…」

うん。事実だけどニュアンスが絶対違うな。言い回しが悪すぎる。そこでさっき蜜柑が読書していたのを思い出す。

「蜜柑…さっき読んでた本、どんな内容だったんだ?」

「ドロドロの三角関係の末に起きた監禁事件です」

…だからか。

「死ぬまでに一回は言ってみたいですよね」

「…それはないな」

「え〜?どうしてですか?」

蜜柑が抗議の声を上げるが俺の考えは変わらない。

「…じゃあ泣いちゃいますよ?」

…マズイ!ここで泣かれたら間違いなくヤツが飛んでくるだろう。

「ふぇ…」

「待てっ!俺が悪かった!だから…」

「嫌です」

ニッコリと笑いながら俺の懇願を断るとすぐに泣き顔になり

「ふぇ〜〜〜〜〜ん!!」

ワザとらしく大声で泣いた。

大急ぎで口を塞ぐが既に遅かった。直後、どこかの病室のドアが乱暴に開けられた音と廊下を走っている音が聞こえ、十秒もしない病室のドアが開けられた。

「どうしたの、蜜柑!?」

そこにいたのは短く揃えられた金髪をもった少女―進藤ほのかだった。ほのかがここにいる理由は患者は誰もしらない。ほのか自身も語らないし、それぞれが他人に聞かないのは暗黙の了解になってるから誰にも分からないのである。

少し彼女について説明しよう。今の流れを見てわかるように彼女は心底蜜柑を『愛』している(友情ではなく性的にだ)。普段は誰にでも好かれる性格をしてるが、優先順位は蜜柑が一番である。

さらにここで現状を確認してみよう。

まず一番初めにほのかの目に入ったのは『涙目の蜜柑の口を押さえ付けてる少年』である。

先ほどまでのことを知らない人間が見たら間違いなく少年()が悪役だろう。

「…誤解だ、と言っても無駄なんだろうな」

「当然よ。たとえ誤解だとしても蜜柑に何かしている時点でアンタは有罪なのよ」


その後、顎に左フックを一発をもらい薄れゆく意識の中、最後に見たのは恍惚とした表情でベッドに場所を移し蜜柑に覆い被さるほのかと本気で泣きそうな顔になっている蜜柑の姿だった。

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