〈第17話〉能天気な感想だけが、せみ時雨に混じって、部屋の中に響いていた
「な、なかなかにさぶいな・・・」
熊谷が演劇部の部室、今は寸劇委員室になっている部屋の棚から、ほこりをかぶった八ミリビデオを見つけ出したのは、夏休みも終盤に入った八月の下旬だった。
外からセミの鳴き声が聞こえる。
映像の中で、おじさんの若かりしころとおぼしき中学生が「なんでやん」と何度も声を張り上げている。
よく分からないが、たぶん観客は笑っていない。
清花が息を飲む気配が伝わってくる。
僕は夏が始まる前に、いつもの原っぱで見た夢を思い出し、腹の底からくる震えを感じた。そういえば小さいころ、九州から年希のじいちゃんちに帰省した際に、父ちゃんに連れられて陽月祭を観に行ったことがあったかもしれない。
いや、確かに、あった。
てっきり僕が初めて陽月祭の寸劇を見たのは、年希に引っ越してきてからの小学生時代だと思っていた。だけど、父ちゃんに肩車してもらって舞台をながめた記憶が今、まざまざとよみがえってきた。
最初は楽しい気分でいたのだけど、舞台の上にいた大きなお兄ちゃんやお姉ちゃんたちの様子がだんだんおかしくなり、なんだかとてつもなく恐ろしいことが起きたように感じて怖くなったのだ。
それがもしかすると、熊谷のおじさんが寸劇を担当した年だったのかもしれない。いや、たぶんそうだったのだろう。
今から考えると、寸劇がウケなくて、スベっただけということなんだろうけれど。いや、でもそれが自分の身に起こったとしたら、やはりとてつもなく恐ろしいことに違いない。
僕はもう、映像の中のおじさんが何をしゃべっているか全く聞いていなかった。
背中に幾筋もの冷たい汗が流れ落ちてくる。
もしかして僕が人前でしゃべるのが苦手なのって、このときの記憶が深層心理に染みついているからなのではないだろうか。
映像を見おわって、熊谷も清花も、そしてもちろん僕も黙っていた。
「おじさん、ち、中学生のときから頑張っていたんだね。と、とても堂々としているし。さすがプロになる人は違うなあ」
ブロッコリー先輩の能天気な感想だけが、せみ時雨に混じって、部屋の中に響いていた。




