物語3終わり後
3・18から数日後のお話です。
サイン会用書き下ろしss。
労わってやるとは言ったが、労わるというのは相手の心身を和らげ休ませることである。けしてこんな人混みの中を歩かせることではない。
しかしどうしてやることもできない。
今日がいいと言うのだから、本人の意思に従ったまでだ。
花神祭の余韻が残っている王都の町。
私は中央通りをロックマンと二人、肩を並べて歩いていた。
王子のパーティーから一週間も経っていない。
あの日、食事の誘いに労ってやるなどと言って承諾したけど、こんなにすぐ行くことになろうとは思っていなかった。
横抱きで帰られて(ユーリの上でもそのままだった)おいおいこれはどうしたもんかと恥ずかしさからアワアワしていたら、この日に行くのはどうかと何の緊張感もなく提案されたのである。
私はその時冷静さを取り戻した。
こんなことで動揺しているなぞ女が廃る。大人の女になったろうじゃない!
……といった経緯で、休日があるのかないのか、毎日仕事が楽しいです! という人間でないのは薄々感じているので、そんな男がこの日がいいと言うんだから今日しか時間が取れないのだろう。
毎年花だらけのこの時期は人も動物も思考が楽観的になるのか、変なことがよく起こる。
たとえばそう、私と手を繋ぐこの男アルウェス・ロックマンとか……。
手ぇ繋いでる!
さっきまで私右手に野菜漬けで左手に五連飴持って両手塞がってたのに、いつの間にか手ぇ繋いでる!
私の野菜漬け…あ、ロックマンが持ってる!
こいつ私の食料横取りしやがったな。
お腹が空いているなら素直にくださいって言えばいいのに、全く仕方のない坊っちゃんめ。
ここは私がそれとなくガッツリ系の屋台まで誘導してあげるか。本当はバクバク食べたいくせに痩せ我慢しているに違いない。
あーお腹空いたなー、あれ~お肉が食べたいな~、私はお腹をポンポン叩いた。
誰が見てもお腹を空かせた成人女性だと分かる具合に。
しかしロックマンは、え? と驚いた顔をする。
刺肉、果物、摘み菓子、麦飯、乾燥マープ、他いろいろ貪り食っていた私の腹を疑っている様子だ。
この女まさかまだ食べる気なのかと思われているんだろう。
まぁそう仕向けてるから違わないんだけど、そう思われたら思われたで何だか捨て身の作戦を決行したような乙女の大事な部分を犠牲にしたような気分になる。
「お腹いっぱいだから大丈夫だよ。よく食べてて楽しいし」
と思っていたら意図が伝わってしまっていたらしく、心配するなとばかりに微笑まれた。
私は五連飴をモグシャアッと噛み砕いてバリバリ食べる。
いけすかないっ、いけすかない奴だよ!
こういうのは一緒に食べるもんでしょ!
なーに見てるだけでお腹いっぱいだよみたいなことを……なん……私が食べすぎて食欲失せさせてるのかもしかして。
野菜漬けを取り上げて私の手を握りだしたのも、もうこれ以上食べんなってことだったのか。
「ごめん、そっちの腹を満たすほど食べすぎた。もう食べないからすぐにお腹空くわよ大丈夫」
「それは勘違いだから大丈夫」
街中の噴水広場まで来た。ゾゾさんに体力馬鹿と言われている私だが、踵の高い靴を履いているとやはり疲れる。昔みたいに靴擦れすることはなくなったけど、慣れはしない。
すると、ここでひと休みしようかとロックマンが噴水の縁に座って横をペチペチ叩いて誘ってくる。ああ、ありが……これ労られてない? ていうか、夕方から別の予定があるっていうからこっちは早く食事処見つけて奢らなきゃって焦ってるのに「まだぶらぶらしてようよ」とか呑気なことをぬかすもんだから、ついつい買い食いをしてしまった。ロックマンもまぁまぁ食べていたし、今さら食事って感じでもない。食べ歩きするつもりなんてなかったのにとんだ誤算だ。
……ちきしょう今に見てろよ次は最高級の持て成しでギャフンと言わせてやるんだからな。
考え事が口に出ていたのか、隣の男に最高級?と聞かれた。
あまり聞き取れていなかったのか、何か良いものでも買いたいのかと見当違いなことを言われる。
素知らぬふりをする。
「ぎゃふん」
聞こえてんじゃねーか腹立つぅぅうう!




