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15話:逃げない

 投稿するものを間違えました。申し訳ありません。

 テスト期間で更新に間が空きました。

「だからね。シルヴィア! ぼくと結婚してください!」


 求婚だ。レイボルトの求婚がきた。

 以前のように進めば十歳のはずだったのだが、私がハーン家の近くまで来てしまったせいか、予定より早かった。レイボルトの態度からしてもう私はレイボルトと一度顔を合わせているということになる。


 私の後悔を一つ無くす時がもうやってくるとは。「大好き」と言われて面食らったというかどう反応すればいいか返答に困惑していたが、求婚は別問題である。


 心が決まった。

 逃げた答えではなく、ちゃんとこの問題に向き合って私はレイボルトをふる。


 風がざわつく。

 立ち上がって服の皺も直して彼の私への恋慕に燃える瞳を見据えた。

 彼は耳まで真っ赤になっているが視線は逸らそうとしない。

 私とレイボルトの間に陽光が射し込む。さながら舞台でサスペンションに当てられているみたいで……誰にも邪魔のされない二人だけの空間がそこにはあった。

 胸に手をあてて、私は言う。


「私もレイボルトのことは好きだよ」

「じゃ、じゃあ……」


 縋るような眼差し。紫色の瞳がきらきらと光っていた。

 一度瞼を閉じて、レイボルトの愛を噛み締める。

 胸を突き抜ける喜び。全身全霊で受け止めよう。受け止めた上で答えを。


「でもね……ずっと恋い慕い続けている人がいるの。この人しかいないっていうぐらいに。私はその人しか見えていないし、私に恋してる――いや私を愛してるレイボルトにとってはその人のことがどうしようもないくらいに憎いと思うかもしれない。レイボルトの気持ちは分かってる。分かった上で私のことは諦めて」


 ワガママなふり方だと思う。そんなのは自分でも分かってる。でも自分の気持ちに嘘はつきたくない、逃げたくない。納得できなくてもいい、理解されなくてもいい。だけど今までしてきたふり方よりも、今までで一番、彼の気持ちと向き合ったつもりでいる。自分の気持ちを正直に伝えれているのではないだろうか。


 レイボルトはズボンを力いっぱいに握り締めて、皺くちゃになるのなんて気に留めない。

 宝石みたいな目に卑怯なほど涙をため、震えた声まで出す。


「そ、っか。一瞬きたいしちゃった自分がいけなかったね。悔しいけど、悲しいけど、ぼくはシルヴィアがその人と幸せになれるよう応援しているよ。頑張ってね。それと……自分の気持ちを言ってくれて嬉しかったよ」


 眩しい。レイボルトの流す涙が光と反射する。

 私が失恋させた彼の美貌が台無しになった顔をせめてでも美しくみせようとしていた。




◇◇◇




 クーを助ける前に一つ後悔を消せた。やり切ったという達成感と共に倦怠感が押し寄せてきた。納得したかは別として、ずっと心のどこかで刺さり続けていた針が抜けたようで、少し心が軽くなったような気がする。

 書庫室に戻ると、そこにはキリクはおらず、ティナさんだけがいた。

 訊けば魔物を倒すため討伐隊を組むのだそう。


「ねぇティナ。勝手に物事が進んでいるようだけど、この件はお父様にお伝えするべきではないでしょうか」

「シルヴィア様の仰る通りですね。この件を内密にしていればどんな処罰が下されるのか……」

「呼んだかな?」

「こ、これはハウス様!! ご無沙汰しております。私のような下女が大変出過ぎた物言いを」


 声の主を確認したティナさんの顔は青ざめ、床に頭がつきそうなぐらい腰を曲げた。

 私も頭を下げる。お父さんは呵々(かか)と笑って、


「そう畏まらなくてもよい。最近なにかとゴソゴソしていたようじゃったが、なるほどそういうことか」

「そ、そのようなわけにはいきません! ハウス様に事前にご相談することなく大変申し訳ありませんでした。私もシルヴィア様もクーリア様をお助けしたい一心で」

「其方の気持ちはよく分かった。それ以上何も言わなくてもいいぞ」

「はっ! 勿体無きお言葉!」

「ところでシルヴィア。ティナを巻き込んだのはお前か?」


 威圧感が半端ない。もうお前が主犯なのは知ってるぞと言われてるみたいだ。

 上げかけた頭をもう一度下げる。


「私がティナを巻き込みました」

「愚か者!」


 叱責の声が飛ぶ。身体中が震える。

 反射的に目を瞑る。

 しかし頬がぶたれることはなかった。

 代わりに頬を撫で、優しい声音でこう言う。


「お前には次期王女としての努めがあるだろう? それをないがしろにしてなかったら構わん。だがワシに伝えなかったのは謝りなさい」

「ごめんなさい……」


 何歳になっても父親の存在というものは大きい。偉大さを添えられた固い手からしかと伝わってきた。

 ピリッ。

 電撃が走るような痛み。

 突然のことだったので、離れてしまった。いまも若干痛みが残っている。お父さんは不思議そうにこっちを見ていた。

 

「どうしたシルヴィア」

「いえいきなり痛みが……。なんでしょうね」

「可笑しなこともあるもんだ」




◇◇◇




 その夜、私は可笑しな夢を見た。

 お父さんが残虐非道な王になっているという、なんとも馬鹿げた夢。

 他国と仲良くなって挙句の果てにはそれを乗っ取り、お父さんが覇権を握る。元いた王は謎の死で済ませる。

 謎の死? ……いやまさかね。

 だってこれは夢なんだから。

 物語も折り返し地点に入りました。もうしばしお付き合い下さいませ。

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