13話:辺境伯キリク
今回は短めです。
明日も更新します。もう少し早い時間に更新したいです。
※ランキングに載っていたようです。
……。
…………。
………………え?
あれ? お見合いに来たんだよね?
目の前では、栗色の髪に、燃えるように紅い瞳の男が憎々し気な顔をしている。
名は確か――キリク。剣豪として有名である。齢は知らされていないので不明だが、逞しい体躯からして、私より確実に上であることはわかる。
先程の言葉を反芻した。
『俺はこんなちんちくりんの餓鬼なんて興味ない。目障りだ帰ってくれ』
上だから偉そうな態度になるのも無理はないけど、あまりに不躾な態度すぎる。
私は目を瞬かせた。
立派な緋色のドレスに(昨日急ぎ決めたものだけど)、髪型だって手を抜いていない。これでも子供らしく見えないようにしてきたつもりだ。なのに何が不快だというのか。あ、昨日急ぎ決めたドレスのこと? 見抜けるこの御方はどれだけの観察眼なのか……。
キリクは怒っているせいか頬が仄かに朱に染まっていた。
「何をしている! 目障りだから帰ってくれといっているんだ!」
吊り目の眼光を強めて、キリクは私は威嚇する。つい身体が怯んだ。
何もそんなに言わなくたって……。
しかし口には出来ない。
王女としてここで相手の印象をこれ以上悪くするわけにはいかない。それにはさっさとご希望通りに去るのがベストだけど、なんだかよく分からないプライドがそれを良しとしなかった。
「お言葉ですが私は貴方様とお見合いするためにこちらへ参上致しました。理由もなくここを立ち去るわけにはいけません」
「だからどうしたというのだ! 理由? そんなもんはさっきから言ってるだろう。俺は自分と同い年の奴がいるからといってわざわざ来てやったのに。なんだこれは!」
最後の言葉は私に向けたものではなく連れの従者に向けたものである。
従者は慌てた様子で頭を下げた。
まずい。と思った。
私が咄嗟に間に入る。
「一つお聞きしたいのですが」
「なんだ?」
今にもはちきれんばかりの形相である。
負けるもんか。
「御年はいくつですか?」
「……十五だ」
一瞬眉根を寄せたがすんなりと答えた。
あちゃー。
一番面倒な時期ですね。
「とにかく俺は不快だ! とっとと立ち去れ!」
「そうするわけにはいきません」
「ほう?」
キリクの眼差しに少し期待の色が浮かぶ。
「間違った情報を伝えたのは当国の不手際です。誠に申し訳ありません。――ですが。だからといってここで引くわけにはいきません」
「ふむ」
「マーガレット王国の王女として、私も言われっぱなしは悔しいのです」
つかつかとキリクの前に出て、私の頭二つ分はあろうかという顔を見上げた。
ぶつかり合う視線。
正直今すぐ殺されるというぐらい獰猛なものであったが、私は耐えた。耐え続けた。
すると、キリクの頬が緩み、私の両肩にそっと手を添えられる。
え、何?
キリクが私の顔の高さに合わせて、腰を下げた。
「怖かっただろ? 本気にさせちゃってごめんね。今の全部試していたんだ」
頭を軽く撫でられる。
異性に身体を触れられたのが久しぶりだったので、全身が熱くなる。
「ほら俺って目元がきついだろ。だからよく怖がられるんだ。特に年下の人にね。今回のお見合いの相手が年下って知らされた時にちょっと試してみようと思ったんだよ」
「……」
「本当に大丈夫だった?」
まだ頭の上には撫でられた感触が残っている。
私は急に態度が変わった相手に驚いてはいたが、なんとか返答する。
「大丈夫です」
「そうかなら良かった」
目は怖いが、良い人そうで安心した。
◇◇◇
キリクとのお見合いが終わり、書庫室へと向かった。
先客はやはりティナさん。
普段はかけていない眼鏡をかけて、文献に目を通している。紙に指を沿わせて、読んでいる。なるべく音を立てないようにして入ってきたつもりだったが、ティナさんは眼鏡をくいっと挙げて、「シルヴィア様でしたか」と言った。
「お疲れティナ。なにか進展はあった?」
「ありませんわ。……ところでティナさんの後ろにいらっしゃるのは?」
「後ろ?」
ティナが言うので後ろを振り向くと、そこにはキリクがいた。
先程別れたはずなのにどうして。
「なんだか面白そうな話をしてるじゃないか。どれ俺にも聞かせてくれよ」
答えにノーはないと言わんばかりにキリクは、意地悪く唇を三日月の形にした。
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