12話:救う手段
遅くなりました。
短めです。最後までお読みいただけると嬉しいです。
人間の記憶とは都合良く出来ていると思います。
クーオル……当時はクーと呼んでいたっけ。クーが死んだ時にはそれはもう一生分の涙を流したというくらいに泣きました。
なのに今に至るまですっかり存在を忘れていたものだから、記憶って恐ろしいです。
クーごめんね。本当にごめんね。
未だに言い争いを続けるクーへ心の中で謝った。
『残酷物語』では恐らく設定にはあっても名前すら出てこなかったでしょう。クーオルという名前に心当たりがないです。死んだ弟とかそんな感じ……? 今プレイ出来るようならし直したいです。
さて通常ならこのクーの死は無視してもバッドエンドルートにはならないと思いますが、だからといって無視してもいいのか。否。ゲーム上にないからといって無視していいわけがないです。というより始めの内からシルヴィアはバッドエンドだったのですね。
とりあえずクーを救う道を考えよう。
そのためには二人を止めなきゃ!
えーっと……えっと。えーーーーーあああああもうこれでいいや!
「ここは神聖な『騎士の広間』ですよ? それなのにこのようにいつまでも口論を。はしたないと思いませんか?」
口論が止んだ。
二人を見ると、ティナさんはこっちを向く瞳が恐怖で揺れていて、クーは口を手でふさいでいた。
「よろしい。ところで、ティナ」
「は、はい!」
「ごめんちょっと耳貸して」
「……はい分かりました」
「クーはちょっと待っててね」
「うん……」
愛玩系の小動物がそうしているみたいにクーは俯いた。
さっきから持っている頭から三角の耳を生やして、顔は丸い白い人形に顔を半分近く埋めるものだから元ある可愛さに拍車をかけていた。
可愛い。
可愛い!
可愛い!!
三段階に分けて、挙句の果てには感嘆符が二個も付くくらいにクーは可愛かった。
お姉ちゃん鼻血でそうです。
……落ち着け私。ティナさんが待ってるのよ。
ティナさんは腰を屈め耳をこちらに傾けて待機している。
私はその耳にこう言った。
「クーは病気だから自室で療養中なのよね?」
何も言わずに首を縦に振った。そうだと見ていいだろう。
「クー。悪いことは言わないわ。部屋に戻りなさい」
「…………! お姉ちゃんまでひどい!」
「あなたの為でもあるのよクー。部屋には後で遊びにいってあげるからさ。ね、お姉ちゃんの言う事聞いて?」
「わかった……」
人形を残念そうに下げ、とぼとぼと去っていく。
憂い漂うその背中はとても儚げで今にも消えてしまいそうなほど細々とした気配を放っていた。
クーが去り、私はティナに、
「クーの余命は分かるの?」
「そうですね……。言ったほうがよろしいですね。クーオル様は残り一年の命……です……っ!」
やはり一年だ。クーは一年後に死んでしまう。
回避の方法とかあったらやってるでしょうし……。
「どうにかして救う手立てはないの!?」
「今国にある治療薬ではどうにもなりません。国から十キロ先にある『ゲヘナの祠』にある薬草が手に入ればいいんですけど……」
「けど?」
「魔物がいるのです。とても強大な力を持った。騎士団が束になってかかっても勝てるかどうか」
「……そうなのね」
「『ゲヘナの祠』に行こうなどという馬鹿げた真似は止めてくださいよ! 私はクーオル様の前にシルヴィア様の亡骸は見たくはありません」
「安心してティナ、私はそこまで馬鹿じゃないわ」
震えるティナさんの手を取ってそこへ自分の手を重ねた。
手先の冷えた彼女の手を私の体温で温めていく。
「ふふ冷たいのね。ティナの手は」
「申し訳ありません」
「謝ることじゃないわ。ティナ、王国内の蔵書は目を通しましたか?」
「……薬草系は調べました。ですが、まだ魔法に関しては」
訊かんとしていることに察しがついたのか、ティナはいつも表情に戻って答えた。
それをくみ取り、遮る。
「調べてないのですね?」
「はい……」
「魔法の種類は攻撃・防御・幻術の大きく分けて三つありますよね。以前読んだ文献によると、稀に治療系の魔法が使える者がいると書かれていますが、そのような者がいるか調べたほうがいいかもしれませんわね」
「仰る通りでございます。私がそれは調べておきますね」
ふと窓のほうへティナさんが目を向ける。数秒後、顔が焦ったようになり、
「シルヴィア様は明日の支度を急いで下さい。明日は辺境伯とのお見合いですよ!」
辺境伯とは国境付近を治めている地方長官のことである。他の国と接しているため、領土も大きく、権力も強い。
前はなかった。私の行動が変わったことによって、この世界で起こることも少しずつ変わっていっているのかもしれない。
会ったことはないが、基本的な行儀作法に注意してお淑やかにしていれば恐らく何も問題ない。
とりあえず辺境伯とのお見合いは軽く済ませてティナさんを手伝いたい。
――そう思っていたはずなのに。
「俺はこんなちんちくりんの餓鬼なんて興味ない。目障りだ帰ってくれ」
不快の二文字が良く似合う表情をした強面の男――辺境伯は吐き捨てるようにそう言った。
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