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11話:九歳の私

 外出していたら投稿遅くなりました。申し訳ありません。


 九歳の頃に戻っていた。

 記憶もある。完全な状態で私は戻れたのだ。

 戻ったということはもうやり直しが始まっており、幸福結末(ハッピーエンド)のための闘いの火蓋は切っておとされている。やり直してはじめにやらなければいけないことはロペスとの再会だ。会わなきゃ。焦る気持ちが、私の身体を動かす。寝着のまま行こうとしたら、後ろ腕を掴まれた。

 おそるおそる振り向けば、おそろしいほど冷たい笑みをしたティナさんが。


「どこに行かれようというのです? シルヴィア様」

「え、ロペスに会いに行くだけよ」

「ロペス?」


 ティナさんがきょとんとした顔になる。


「誰ですの。ロペスって」

「キャビネットの王国のロペス・キャビネットよ」

「どうしてあわれたいのでしょうか? まだあそこの国の者とは顔を合わせていない(はず)


 驚くのも無理はない。一度も会ったことない人に自分から会わせろというのだ。

 この世界でそれは異端であった。だけど、それでもいい。とにかく主要な人物には早めに会いたい。


「この前従者たちが話していたのを聞いたのよ。キャビネット王国にはロペスって人がいるって。で、それに宝石のように美しいお方だって!」


 適当に嘘をついておく。

 まぁロペス(十八歳)が美形なのは間違ってないので、おそらく幼少期の彼も大丈夫だろう。

 咳払い。


「確かにロペスはキャビネット王国にいらっしゃいます。だからどうしたというのです。今からの稽古を休む理由にはなりませんよ」

「け、稽古ですって!?」

「本当にどこかで頭でも打たれましたか? 今日は『騎士の広間』での作法の稽古ですよ」


 稽古か。すっかり失念していた。

 もし無理にでも休んでいたら、後できつい処罰が下る。

 私はティナさんに謝った。




 稽古は一時間ほどで終わった。

 疲れた。本当に疲れた。

 ちなみに『騎士の広間』というのは、マーガレット王国にある大広間のことで、宴会とかに使われたりする。


 床に敷物がひろげられ、その上には草花が撒き散らされていた。

 敷物に香水をまいたか、食卓の下で香を焚きしめたのか、辺りには芳しい匂い。

 ただ、くどすぎるような気もしたので、息をするのが少し辛い。

 壁を横に見ていくと、城主と家臣たちの盾がかけられ、数々の彩色された紋章が広間に華を添えていた。

 天井には鉄の輪のシャンデリアが吊されており、輪の上辺には釘が上向きに等間隔ではめられていて、ここに蝋燭をさし込むことが出来るようになっている。


 部屋の一番奥の壁には、この国の神話に出てくるステガンテが描かれている。ステナンテは前世の言葉を借りると船だった。名前の意味は『疾走者』で風に逆らっても進むことが出来、航海する時には常に幸運をもたらすと言われている。転じて、この国に永遠の幸福が訪れるように、とティナさんから教わった。

 食事前の作法はすでに知っていたことなので問題なく出来たけど。

 しかし教わる前に出来ていると、不自然がられるので、知ってはいても教えられるのだけはしっかりと聞いていた。


 一.食事を取る時にはまずこのステガンテに向かって手を合わせなければいけない。

 二.一が済んだら神の力が宿っているとされるアーリア川から汲んだ水を一杯飲む。

 三.二が済んだらもう一度ステガンテに向かって手を合わせる。


 簡単にまとめるとこうだ。下手すれば十分ぐらいで終わるような内容だったのに、ティナさんの教え方が細かったせいで、一時間もかかってしまった。


「ねぇロペスのところに行ってもいい?」


 その言葉にティナさんは眉根を寄せた。


「お言葉ですがロペス様とお会いする許可はいただけないと存じます」

「なぜですの!?」

「お忘れですか? ハウス様の命は絶対なのですよ。逆らえば、王国を追い出されるか適当なところに嫁にやられるか修道院に送られますよ」

「ええ安心してそれは忘れていませんわ。ただ私は一種の政略結婚としてどうかと思ったのです? たしかこのマーガレット王国とキャビネット王国は、仲が悪いのよね?」

「国全体というより騎士団がですけどね……」

「その和平のための相手としてロペス様を私から提案するのは悪くないのでは? じゃあ、どうして許可はもらえないと考えるのですか?」

「そこまで深くお考えなさっているとは露知らず! 大変出過ぎた物言いお許しくださいっ!」


 狂騒の態であわてて床に額を打ち付ける。

 叩頭(こうとう)平伏(へいふく)。ティナさんの完敗である。いや勝負していたつもりじゃないんだけどね。


「そういうことだから言ってきてもいいよね?」


 ティナさんは何も言わなかった。ポニーテールを揺らし、笑顔を見せるだけ。

 それを応援の意だと私は受け取った。

 喜々とした気持ちで、扉を開けようとすると、先に扉が開いた。

 眼前に立っていたのは、私の首くらいの背丈の小さな男の子。

 所々くるりとウェーブがかった焦げ茶色の髪。瞳は、毒々しいまでに鮮やかな黄金色をしていた。油断していると、この瞳の不可思議な魅力に呑まれてしまいそうになる。

 しかし記憶を探ってみても、誰か皆目見当がつかなかった。

 

 私が瞠目(どうもく)して、少年を見ていると、彼は満面な笑顔を見せ、


「お姉ちゃん!」


 と飛びついてきた。

 軽くて、倒れはしなかった。怪我はない。

 問題はそこじゃない。

 思考停止せざるを得なかった。


 お姉ちゃんと呼ばれた意味が全くわからず、茫然としていると後ろからティナさんの声がした。


「クーオル様! また自室から抜け出したのですか!?」

「だってひとりつまんないもん!」

「侍女たちがいるではないですか!」

「いやだ。クーはお姉ちゃんと遊びたいの!」

「お姉ちゃんと?」


 やっと反応できた。

 クーオルと呼ばれた少年は、瞳を潤ませ、「だめ?」と懇願してくる。

 ずるい。これはあまりにもずるすぎる。

 で、この子は誰!?


「もっと王子としての自覚を持ってください! 次のマーガレット王国を治めるのは、クーオル様なのですよ!」

「やだーー。あとけっこんだって他の人としないもん! お姉ちゃんとするもん!」

「何を仰るかと思えば……。いいですか。マーガレット王国では兄弟結婚を認めていません」

「じゃあみとめさせる!」


 その後の言い争いは全く耳に入ってこなかった。

 この少年が私と兄弟? いやそれよりも『残酷物語』にシルヴィアの兄弟は出てきた?

 あ、そうか……思い出した。




 ――クーオルはこの一年後急病で死んでたんだ。

 新キャラ登場しました。

 シスコンです。

 今日も更新します。

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