タマちゃん車は安定の性能です!
月日が経つのは早いもので一ヶ月が経ちました。
この一ヶ月は忙しくも楽しい日々で、アルト達を訓練したり、タマちゃんと遊んだり、授業を真面目に受けたり、セツナ達と街に遊びに行ったり、アルト達の装備を整えたり、タマちゃんを愛でたり、授業中に色々試して先生に怒られたり、セツナ達を連れて生産系の部に遊びに行ったり、アルト達を苛めたり、タマちゃんの新必殺技を一緒に編み出したりしていました。
詳しく語ると物凄く長くなりますので、それを語りはしませんが。
そして、今日は入学して初めての探索実習です。
なんと、迷宮探索をするんですって。
賽目迷宮、王都傍と言うより王都内にあるこの国最低難易度の迷宮です。
ただ、最低難易度と言えど、迷宮内は同じ種でも外の魔獣より強力なものが出現し、数も多く、そして罠等もあります。
賽目迷宮も、学校卒業までに十五階ある迷宮の最深部まで攻略出来れば優秀な部類に入り、毎年Aクラスの半分程が攻略出来るかという難易度らしいです。
賽目迷宮はその名の通り、迷宮内が賽の目の様に同じ作りの通路と部屋が並んでいます。
部屋には魔獣が居たり、偶に宝箱があったり、そしてその内の二箇所に昇る階段と降りる階段があるらしいです。
迷宮は基本的に階層が一つ変わる毎に難易度が大きく変わり、目安として各学年Aクラスで一年一階~三階、二年四階~六階、三年七階~九階、四年十階~十二階、五年十三階~十五階になっているそうです。
一年で三階攻略出来れば、迷宮探索実習は最優秀の評価という事ですね。
まあ他にも、採取した素材や一階毎の地図の出来や倒した魔獣等評価点は一杯あるらしいですけど、探索深度が最も評価されるそうです。
「セツナ達も強くなりましたねぇ」
賽目迷宮一階、部屋に居た角兎四匹を私、セツナ、ロロ、セルジュがそれぞれ一匹ずつ倒します。
ここ最近セツナ達は部活動に張り切っていて、あんまり一緒に訓練する事も無かったんですが、皆頑張ってた様です。
セツナは元々角兎一匹位なら倒せた実力はあったんですが、角兎に何もさせる事なく一刀で切り伏せました。
ロロは相変わらず大剣を振った後に少しバランスを崩していますが、それでも素早い角兎に大剣を当てる事が出来たのは凄いです。
セルジュはまだ中級魔法は使えない様ですが、下級魔法は制御出来る様になっていました。角兎も『水砲』で押し潰しています。
「おお、妹ちゃん達は強いなぁ、楽出来て良かった」
この方は私達のパーティーの助っ人、三年のライン=スペルゲートさんです。
金髪碧眼のイケメンで、見た目王子様みたいな人ですが、物凄く気さくな方です。
やる気無さそうで、実際迷宮に入って一度も剣を抜いてもいませんが、実はこの方お兄ちゃんと首位争いをしている親友さんなんです。
迷宮は危険ですので、三年Aクラスの方が一人ずつ助っ人として加わっているわけですが、成績上位の者
が下位クラスに付いています。本来差別化の為に上位の者からAクラスに付けるべきでしょうが、それだけ迷宮が危険という事でしょう。
なので、お兄ちゃんもDクラスの他のパーティーに付いていますし、アルト達のパーティーにも三年で三位の方が付いているそうです。
「何でも出来る妹ちゃんに、素早い刀使いのセツナちゃん、力のある大剣使いのロロに、火力のある魔術師のセルジュね、良いパーティーだね」
「ありがとうございます。でも、妹ちゃんは止めてくれませんか?」
「ごめんごめん、フィリアちゃん。俺が名前で呼ぶと怒るからさ」
「……はい?」
名前で呼ぶと怒る?誰が怒るんでしょう?妹ちゃんなんて呼び方の方が失礼だと思いますけど。
「ううん、なんでもない。じゃあ先に進もうか、ここで横一列終わったし、次どうする?」
よくわかりませんけど、話も変わりましたし、まあいいでしょう。
今は賽の目の一列目を横断してきたんですが、どうしましょうね。
セツナもロロもセルジュも私に任せるとか言って考えてくれませんし。
取り敢えず一階の魔獣なら問題無いみたいですし二階を目指した方が良いんでしょうか?
ですが、階段の位置もわかりませんしね……
「……じゃあ次は縦に一列進みますか。そのままぐるぐる回って中心に行きましょう」
「あ、それだと……いや、うん、それで行こうか」
何か言い澱んでいましたが、拙いんですかね?
まあ、本気で拙かったら止めてくれるでしょうし、気にしないで置きますか。
全ての部屋が四方と繋がっては居ませんので、横縦と真っ直ぐは行けませんでしたが、なるべく外側から内側に回るように進んでみました。
と、そんな感じでぐるぐる迷宮を回りました所、現在79個目の部屋に居ます。
ちなみに一階層は9×9の賽の目になっています。
話によると降りる階段の前の部屋にその階層のボスが居るらしいんです。
で、まだボスが居る部屋には行っていません。
要するに一階層制覇という事ですね。狙った訳じゃ無いんですけどね。
ラインさんが言い淀んだのはこういう結果になるからだったんでしょうね。
「……はあ、はあ……はあ、はあ」
「……少し休憩しましょうか」
今にも倒れそうに消耗しているセルジュを見てそう提案します。
セツナもロロもセルジュ程ではありませんが疲れていたようで、床に座り込みます。
ラインさんは流石は三年トップクラス、全然疲れていません。まあ、全く魔獣と戦っていないから当然と言えばそうですけど。
私もあんまり疲れていません。あっ、でも私はちゃんと戦っていますし、探索もきちんとやっていますよ。
私が疲れていない理由は……当然、タマちゃんのおかげです!
タマちゃん車は本当便利ですよねぇ、森の中すらも楽々と走破するタマちゃん車には、起伏の無い迷宮なんてアスファルトの道路みたいなものですよ。
そんな私を恨めしそうに三人が見てきますが、これこそ使い魔持ちの特権ですよ。
出来れば貸して上げたい所ですが、タマちゃんはあんまり他の人を乗せる事が好きじゃありませんからね。訓練とかで逆に落とそうとする時は別ですけど。仕方ありません。
「さって、ここまで順調……かどうかはわからないけど、上手く探索出来たけど次はボス戦だね。作戦とかはあるのかい?」
「そうですねぇ……一階層のボスは三角巨兎でしたよね」
「ああ、三角巨兎は角兎をただ大きくした様な魔獣だけど、5m近い巨体なのに速さは角兎以上だから中々危険だよ」
「うーん……ラインさんはまた戦わないんですか?」
「ん?別にどっちでも良いよ。危なくなったら手出ししようと思ってたけど、今迄は出番が無かったからね。別に最初っから戦いに参加しても構わないよ」
私達の実力向上の為にも、ラインさんに手を出さないで貰った方が良いかと思っていたんですが、ボスは参加して貰った方が良いでしょうか?
特にセルジュは危険なんですよね、セツナは三角巨兎に付いて行ける速さを持っていますし、ロロは頑丈な身体を持ってますけど。セルジュは咄嗟に防御魔法を繰り出せませんし。
「……」
なんて事を考えていたら、三人が鋭い視線で私を睨みつけていました。
その目は、「ラインさんの加勢等必要無い、私達の努力の成果を見せてやる!」と言っていて、私は逃げの思考になっていたのを反省しました。
そうですよね、今回はラインさんが居ますが次からは自分達で攻略しなくちゃいけないんです。一階層のボス位でビビッてちゃいけませんね。
「いえ、ラインさん加勢は必要ありません。私達四人とタマちゃんで倒してみせます!」
私がそう宣言すると、三人も強く頷いてくれます。と思っていたら、がっくり肩を落として溜息を吐きます。
あれっ?
「そう?わかった、危なくなるまで手は出さないよ」
「はい、お願いします。頑張りましょうねセツナ!」
「……ああ、うん、頑張る」
何故か遠くを見ながらセツナは頷きます。
さて、私達パーティー初めてのボス戦頑張りましょう!




