第67話 魔の森と経験の団結
街に出た次の日、レティシアは回復薬の需要の比率に対し、供給が追いついてないと思い、早朝に薬草を探しに向かった。
森に入ると比較的に安全だと言われる場所にもかかわらず、空気が重たく感じる。
それでも、彼女は薬草を探して回ったが、すでに採り尽くされており、薬草を手に入れることはできなかった。
神歴1496年7月2日。
空は晴れ渡り、雲1つない青空が広がる。
カチャカチャと、防具が緊張という名の音楽を奏で。
心地よい風が、森の前に並ぶ討伐隊を優しく見守る。
彼らは、肩まである赤髪を1つに結んだアランを凝視していた。
少年の髪が、ほんのり波を打って燃える炎のように、風に揺れる。
ブルーグリーンの瞳は、彼らに勇気と自信を与え、それが希望に変わる。
「これから魔物の討伐に向かう! 通常の魔物よりも魔の森の魔物は強い! そのため、弱い魔物であっても、油断せずに気を引き締めていけ!」
アランの声は少年のように、透き通って耳に届く。
しかし、彼の言葉には、強い決意と覚悟の重みを感じることができる。
そして、言葉の力強さに、自信と仲間に対する信頼が含まれていた。
そのため、並んでいた討伐隊は拳を握ると、彼の気持ちに答える。
「「「ハッ!」」」
街に出た次の日、レティシアは回復薬の需要の比率に対し、供給が追いついてないと思い、早朝に薬草を探しに向かった。
森に入ると比較的に安全だと言われる場所にもかかわらず、空気が重たく感じる。
それでも、彼女は薬草を探して回ったが、すでに採り尽くされており、薬草を手に入れることはできなかった。
神歴1496年7月2日。
空は晴れ渡り、雲1つない青空が広がる。
カチャカチャと、防具が緊張という名の音楽を奏で。
心地よい風が、森の前に並ぶ討伐隊を優しく見守る。
彼らは、肩まである赤髪を1つに結んだアランを凝視していた。
少年の髪が、ほんのり波を打って燃える炎のように、風に揺れる。
ブルーグリーンの瞳は、彼らに勇気と自信を与え、それが希望に変わる。
「これから魔物の討伐に向かう! 通常の魔物よりも魔の森の魔物は強い! そのため、弱い魔物であっても、油断せずに気を引き締めていけ!」
アランの声は少年のように、透き通って耳に届く。
しかし、彼の言葉には、強い決意と覚悟の重みを感じることができる。
そして、言葉の力強さに、自信と仲間に対する信頼が含まれていた。
そのため、並んでいた討伐隊は拳を握ると、彼の気持ちに答える。
「「「ハッ!」」」
アランが指揮を執りながら、森の中へと進む。
彼の後には防具の音が響き、足音は勇ましいリズムを刻む。
レティシアは、軍服のような雰囲気を醸し出す黒いドレスを着ていた。
ダブルブレストのボタンがドレスの前面を飾り、襟元は黒いフリルが優雅に見せる。
ひざ丈まであるスカート部分は、ふんわりと広がっている。
これは、エルガドラ王国に出発する前に、ニルヴィスが作った洋服だ。
彼女は程よい緊張感に包まれ、自然に口角が上がる。
しかし、このままではいけないと思い、1度だけ自分のほほを叩いて気を引き締めた。
(討伐隊の人数は私たちを合わせても19名……少ない気もするけど、他にも討伐隊が組まれているのを考えれば、妥当な人数かもしれないわね……私が考えていた部隊編制とは、明らかに違うけど……)
魔の森に入って奥に進むにつれ、魔物の数は増えていった。
出発して30分を過ぎた辺りから、アランの討伐隊を魔物が襲ってくるようになる。
そのため、アランの護衛で来たレティシアたちも、戦闘に参加せざるを得なくなった。
レティシアはルカにもらって短剣を使い、魔物を次々と倒していく。
(まだそんなに深い所じゃないのに、もう魔物の数が多いわ……でも襲ってくる魔物も、まだ入り口に近いから、一角ウサギやウルフ、ワイルドボアといった動物系が目立つわね)
レティシアは魔物を倒しながら思うと、攻撃の手を緩めずに次の標的に刃を向けた。
アランは目の端にレティシアが映ると、彼女の動きに驚いた。
獣人ではない、か弱い人族の子どもだと思っていたことも大きい。
そのことで、彼は近くで戦闘していたルカに声をかけた。
「なぁルカ、あの小さなお姫様さ、思ったより結構やるじゃん」
「ああ、俺も驚いてる」
剣の稽古を付けてたとはいえ、ルカも実際にレティシアの戦闘スタイルを見るの初めてだ。
2人はレティシアが倒した魔物を見ると、一撃で急所を突いて仕留めている。
レティシアの体はまだ幼いが、それを補うように過去の知識と過去の経験がある。
そのため、初めて討伐に参加したと思えない動きをしていた。
しかし、アランの討伐隊の誰もが驚いたのは、他のところにあった。
それは、レティシアが倒した魔物を、何食わぬ顔で解体しだしたことだ。
初めて討伐に参加した者や、初めて魔物の解体作業をした者は、必ずと言って良いほど目を背けたくなる光景。
それを、わずか8歳の子どもが、いやな顔もせず、平然とやっているのだから驚くのも無理はない。
(魔物から採れる魔核は、大きさに関わらず、売れるから採っておいても損はないわ。それに魔物を倒したのなら、倒した者が責任を持って素材を採らないとね)
レティシアは魔物から採れる素材を丁寧に採りながら思うと、街で買った麻袋の中に入れていく。
アランは静かにその光景を見ていたが、ふと気になってテオドールの方に視線を移した。
テオドールが目を瞑って顔を背けると、思わず軽く息を吐き出してしまう。
この光景は幼いテオドールには、あまりにも酷い物だとアランも理解している。
それでも、この先も幼い彼がここにいたいのなら、これは乗り越えなければいけない壁だと考えた。
そのため、アランはテオドールに近付くと、重たい口を開き、突き放すように彼に告げる。
「厳しいことを言うけどさ、今の光景を不快に感じるなら、君はルカに付いて来るべきじゃなかったんだよ。ララは女の子だけど、しっかり自分がやるべきことを理解して、倒した魔物にも敬意を持って対応してる」
「……」
テオドールが何も答えないでいると、アランは頭をかいて深く息を吐き出した。
「君は何しにここまでルカに付いて来たのか、もう1度よく考えた方がいいと思うよ?」
アランは冷たく言い切ると、テオドールの肩をたたいた。
そして、レティシアに「ララ、そろそろ移動するぞ」と声をかけ、再び森の奥へとゆっくりと歩みを進める。
アランは鞄に素材を入れる音を聞くと、レティシアが慌てているのを想像して小さく笑みが零れた。
その後すぐに、彼を追い掛ける足音が聞こえると、彼は森を進む速度を上げる。
さらに森の奥に進むと、不気味さは増し、日の光が木々によって遮られ始める。
先日アランの報告にもあったように、魔物も強さが増す。
魔物の種類もゴブリンやオーク、コボルのように2足歩行ができる魔物が増え始めた。
それでも、レティシア、ルカ、アルノエ、アランの4人からは、魔物に対する恐怖や仕留める時の迷いを感じない。
彼らは確実に、魔物の数を減らしていった。
夕方頃に当初予定していた野営ポイントに、アランたちの討伐隊はたどり着いた。
辺りが暗くなる前に、アランと隊員たちと一緒にレティシアたちも野営の準備に取り掛かる。
隊員たちが野営に慣れていたのもあるが、レティシアの想像以上にアランの指示が的確だった。
そのため、準備に掛かる時間も、そんなに掛かることもなかった。
野営の準備が整うと、今日の料理当番が今夜の夕飯を作り始める。
移動中レティシアは、料理に使えそうな薬草を採取していた。
彼女はショルダーバッグから薬草を取り出すと、それを料理当番に渡した。
しかし、レティシアは料理している姿を見て、ただ待つのも時間の無駄だと感じた。
そこで彼女はルカのところまで行くと、食事ができるまで近辺を探索してくることを伝える。
その結果、彼女はアルノエと一緒に探索に出掛けた。
野営の場所から少し離れると、低木の近くや木の根元付近にお目当ての薬草を、レティシアは見つけることができた。
(やっぱり森の奥に入って行けば、回復薬に使う薬草はあるけど……それでも少ないわね……それにこの森)
レティシアは辺りを見渡すと、さらに心の中で思う。
(……精霊たちが全く姿を現さないわ……何か精霊たちがいやがる物があるのか……もしくは居るのか……)
レティシアは薬草を採取しながら、使用していなかった麻袋に薬草を仕舞う。
薬草を探すために、辺りを隈なく目を皿のように見ていると、彼女はキラッと光るものが目に留まる。
彼女はそれを拾うと、目線の高さまで上げてマジマジと見つめた。
(何かの破片? でもすごく変な感じがする)
紫色の破片は何かが欠けたものように見え、レティシアは何かに付いた物が欠けたのだと思った。
しかし、破片からは言葉にするには、たとえようがない気配がする。
薬草を採りながら周囲を探すと、さらに同じような破片をレティシアは2欠片も見つけた。
その後も、黙々と薬草の採取を続けていた彼女は、不穏な空気を森の奥から感じてその方向を見つめる。
これ以上2人で行動するのは危険だと判断し、レティシアはアルノエと一緒に野営の場所まで戻った。




