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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
1章

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第18話 烏と不自由


「ルカ、少しだけいいか」


 ルカは湯浴みをするレティシアのため部屋の外に出ると、不意に祖父であるジョルジュに声をかけられた。


「何? 俺、これから湯浴みしに行くんだけど」


 ルカは冷たく言うと、レティシアの部屋とは別の部屋へと向かう。

 ジョルジュは微かな声で「分かりました」と答え、静かにルカの後ろを付いて行く。

 2人が部屋に入ると、すぐさまルカが空間消音魔法(サイレント)を部屋全体に使った。


「それで、話は?」


 ルカはそう言いながら、ジョルジュの方を見ることもなく、浴室に向かうと上着を脱ぎ始めた。

 ダニエルが今日から滞在しているため、少しでもレティシアから離れる時間を減らさなければならない。

 そのため、ルカは手を止めてまで話を聞く気はない。


「1羽の烏が、翼を切られた状態で見つかりました」


 ジョルジュの言葉を聞き、ルカの動きが一瞬だけ止まった。

 烏とは、オプスブル家で偵察を主にしている集団の1つだ。

 翼を切られたということは、もう偵察隊の一員として働くことが不可能になったことを意味する。


「――そうか。後で報告書を影に渡しといてくれ」


「かしこまりました」


 偵察を主にしている集団とはいえ、決して戦闘に不向きな集団ではない。

 彼らは状況に応じて集団で狩りも行う。

 それにもかかわらず、翼が折られたのではなく、切られた状態。

 激しい交戦があったか、襲撃を受けたと考えられる。


「他の烏は無事なんだろうな」


「はい。何羽か傷を負いましたが、またすぐに飛び立ちました」


 先日レティシアの誘拐を企てた犯人を捜すために、飛ばした烏だ。

 その烏がやられたとなれば、犯人はそれなりに武力を保有している人物になる。


 冷たいタイルをヒタヒタと歩く音が聞こえ、頭から水を被る音が聞こえる。

 暫くすると、湯が浴槽から溢れる音が聞こえ、ポツリと呟いたルカの声が浴槽に響く。


「なんか、臭うんだよなぁ」


「臭うと、言いますと?」


「レティシアを誘拐して、何が得られると思う?」


 ルカは浴槽に寄りかかって、天井を見つめながら言った。

 誘拐を企てるには、何かしらの理由があるはずなのに、犯人の動機が分からない。


「……そうですね。考えられるのは、エディット様に圧力をかけてフリューネ家に何かをやってもらおうとしたか、身代金でしょうか?」


 後ろで手を組んで立っていたジョルジュは、少しだけ目を細めると、考えるようにして床を見ていた。

 ジョルジュもまた、犯人の動機に見当がつかず、在り来たりな答えしか言えなかった。


「その可能性も考えたけど、それなら殺してもいいという依頼は出さないだろ」


「そうですね。そうなりますと、レティシア様の力に気付いて……っという線もなくなります」


「そうなんだよ。でも、わざわざフリューネ家に手を出してまで、犯人は何かをやりたかったんだ? それが何か分からない。――それに、今回ダニエルが早く帰って来たことも気がかりだ」


 ルカはそう言うと、考えるようにして目を閉じた。


「それは(わたくし)も気になっておりました。当初の予定ですと、1日の昼過ぎに帝都を出発し、5日に到着の予定でございましたので」


「そうだ。そしてフリューネ家が襲撃を受けたのは、ダニエルが帝都を出発する前日だ。元々1日の昼過ぎに馬車を予約していたのにもかかわらず、ダニエルは28日の早朝に出発しようと、空きの馬車を探してる。普通ならレティシアの誘拐を企てたのはダニエルで、彼の愛人が協力者だと考えるが……それだと、どうも腑に落ちない。そもそも、彼らに烏の翼を切り落とす力があるのか?」


(わたくし)の知る限りではございますが、彼らにそのような力は備わっていないと考えております」


 ジョルジュはそう言うと水を弾く音が聞こえ、彼はわずかに眉を動かした。

 気配からして、ルカがため息をついたのが分かると、彼は悲し気にゆっくりと目を閉じる。

 大人の自分でも犯人の動機が分からないのに、子どもの彼はこの事件を解決しなければならない。

 そのことに、わずかに彼の胸が痛む。

 しかし、彼はすぐにそれを押し付けたのは自分だと思うと、ゆっくりと瞼を上げた。


「お前がそう言うなら、そうなんだろうなぁ……」


「何か他に気になることでも?」


「いや、ただ……仮にダニエルが黒幕なら、レティシアの誘拐を企てたにしては、あまりにも無関心だったなぁって思ってな……でも、どうも無関係だと思えない」


 ジョルジュは一瞬だけ目を見開くと、睨むように目を細めてた。

 そして彼は、悔しそうに拳を握ると、視線を上げる。


「……こちらにスパイ(モグラ)がいないか、調べておきます」


「悪いな」


「いえ、仮にモグラがいた場合、その時は(わたくし)の失態でございます。ですので、ルカ様が謝罪されるようなことではございません」


 ルカは浴槽の左右の縁に腕を乗せて、天井をぼんやりと見つめていた。

 しかし、ゆっくりと入り口付近にいるジョルジュの方を見る。

 背を向けて立っているジョルジュを見つめるルカの瞳には、悲しみの色が浮かぶ。


「もう少ししたら俺も上がる。お前はもう下がれ」


「かしこまりました」


 ジョルジュが浴室を出て行くと、浴槽の中でルカは膝を抱えた。



 一方その頃。

 部屋にいたレティシアも、部屋にある浴室の湯船に浸かっていた。

 アロマキャンドルで灯された浴室は、花の甘い香りで満たされている。

 アンナがレティシアを気遣って、準備したようだ。

 少しだけ離れた場所で、アンナはレティシアが溺れないように様子を見ている。


 浴槽の中で、レティシアはピアスを触りながら、エディットの会話を盗み聞きしていた。

 今のレティシアは、ピアスから聞こえる音と声で、エディットの状況を想像しなければならない。

 そのため、耳からの情報だけでは、限界がある。


(使い魔と契約して意識の共有をした方が、向こうの映像も見えるから楽なんだけどなぁ)


 レティシアはそう思いながら、浴室の天井を見つめた。


 過保護なエディットがいるため、未だにレティシアは敷地内から外に出たことがない。

 ルカが来てからは、彼が外のことを話してくれるため、レティシアは外の世界を想像しやすくなった。


 しかし、彼女も敷地の外に出ようと、夜中に魔法を使って敷地内を見て回ったことがある。

 けれど、敷地を護るようにして魔法がかけられていた。

 それは彼女も初めて見た、保護魔法だった。


 どんな魔法か分からなかったレティシアは、外に出るのを諦めた。

 見ただけで分からないとなれば、触って確かめるしかない。

 だけど、触ってどんなリスクがあるのか、彼女には想像できなかった。


(あれさえなければなぁ……)


 レティシアはそう思うと、ふと考えてしまう。


(これじゃ、何もできないんだよね……12度目の転生で感じた気配も、調べられないし、使い魔と契約もできない。過去の転生だと、この時点で売られていたか、捨てられていたことを考えれば、恵まれてるはずなのに……少しだけ、窮屈に感じるのは……なんでだろう)


 親が子どもを心配して、子どもの自由を制限することはある。

 だけど、いままでレティシアは、親に大切にされてこなかった。

 そのため、今よりも時間や行動の自由があった。


 レティシアからは、思わずため息がこぼれる。


(私には限られた自由しかないし、ルカは話せないことが多い。頭領のこと以外にも、何か私に隠していると、思うんだよねぇ……。彼が来て1週間が経った頃に、1度だけ寝ていたのに周りの気配がなかったことがあったし……。多分、その時に何かしら、この家で起きていたのかもしれないわね。その頃から、彼も過保護になっているから……。もしかしたら、それも彼と関係していて、話せないだけかもしれないけど……)


 レティシアが考えていると、アンナが話しかける。


「レティシアお嬢様。そろそろ、上がってはどうでしょうか? 湯冷めしてしまいますよ?」


「あがるー! ありがと」


 心配そうに聞いたアンナに、レティシアは元気よく答えた。

 そして、彼女はアンナに満面の笑みを向けた。

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