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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
5章

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第121話 立場と見える景色


 ルカと話した長い夜が明け、学院に向かったレティシアは重い足取りで馬車を降りた。

 すると、まるで待っていたかのように、笑顔でライラが駆け寄る。


「お姉さまぁ! おはようございますぅ」


 結局、朝方まで仕事をしていたレティシアは、ライラの登場で気分がさらに沈み、それが表情に出てしまう。

 けれど、あいさつだけでもしなければと思い、彼女は口を開く。

 しかし……


「お姉さまぁ! なんでぇ元気ないんですかぁ?」


 レティシアが話し出す前に、ライラはそう話した。

 ライラはレティシアが眉を(ひそ)めているのにもかかかわらず、気に留める様子もなく彼女に話しかけ続ける。


「お姉さまぁ、ララの話聞いてますぅ?」


 ライラがそう言うと、レティシアは彼女の方を向いて答えようとする。


「ええ、きい」

「そうだ! お姉さまぁ、いい加減一緒の馬車で登校しましょうよぉ~」


 しかし、すぐさまライラが、レティシアの話に新たな話を被せた。


「……だか」

「もぉ、お姉さまぁ、一緒に住みましょうよぉ」


 再び、レティシアが話そうとすると、ライラが話を被せてくる。

 それが何度も続くとレティシアは彼女との会話を諦め、勝手に1人で話し続けるライラを放置した。

 ライラの話はいつもと同じように、レティシアと一緒に住みたいことを言っている。

 だが、それは遠回しに帝都の別宅に住みたいと言っているだけだ。

 本気でレティシアと住みたいと思うのだったら、レティシアを自分たちの住んでいる家に呼べばいいだけの事。

 前に1度だけレティシアは、ライラたちが住んでいる家なら一緒に住んでもいいと言った。

 ところが、その話はライラによってはぐらかされている。



 教室にいたカトリーナは、レティシアが教室に入ってきたことに気が付いた。

 しかし、レティシアのすぐ隣にライラがいることを気にしつつも、グッと拳を握ってレティシアの机まで来ると彼女たちに声をかける。


「レティシア様、ライラ様、おはようございます」


「カトリーナ、おはよう」


 レティシアはカトリーナに向かって微笑んだが、ライラはふんっと鼻を鳴らした。

 それから、ライラはレティシアの腕にしがみつくいて、上目遣いをしながら小さな声で話し出す。


「お姉さまぁ、こういうことはあまり言いたくないんですけどぉ、あまり身分の低い人と関わらない方がいいですよぉ? 昨日だってぇ、平民と話してましたよねぇ?」


(こういう態度って、異性にしか効果がないって知らないのかしら?)


「ええ、それがどうかしたの? あなたに迷惑を掛けたつもりはないのだけど?」


 レティシアはライラに冷ややかな視線を向けたが、彼女は拗ねたように頬を膨らませる。

 その様子を見ていたカトリーナの顔が引きっていたのを、この時レティシアは見逃さなかった。


「じゅうぶん、ララには迷惑ですよぉ。侯爵家なんですからぁ、しっかりしてくださいぃ。お姉さまぁがそんなんだとぉ、貧乏人に集られますよぉ?」


 カトリーナの実家であるフェラーラ家は子爵だが、代々商売をして貴族爵位を獲得して子爵になった家だ。

 貴族になった頃は、成金貴族と言われるほどお金があったため、今も決して貧乏人と言われるほど貧乏ではない。

 だけど、そのことを知らないライラは、見下すような視線をカトリーナに向けて嘲笑う。

 しかし、カトリーナは言い返すこともできず、悔しそうに下唇を噛んで下を向く。


「そんな言い方は失礼よ?」


 レティシアはライラの言葉を不愉快に思いながらも、できるだけ感情を押えて言った。

 だが、それでもライラの目には涙がたまっていく。


「ひどぉぃ、ララはお姉さまぁのことを思って言ってるのにぃ……」

「ララ、どうしたんだい?」


 レティシアが口を開こうとした時、心配そうに尋ねるルシェルの声が聞こえた。

 ライラはすぐにレティシアの腕を離し、ルシェルに駆け寄ると、今度は彼の腕に胸を押し当てるようにしがみ付く。

 そして、レティシアにしていたように上目遣いでルシェルのことを見ると、甘えたような声を出す。


「ルシェルでんかぁ……聞いてくださいぃ。お姉さまぁのことを考えて、ララは侯爵家なんだから、しっかりしてくださいって言ったらぁ、失礼ってぇ言われたんですぅ」


「そうだったのか、かわいそうに」


 ルシェルは涙目で腕にしがみついているライラの頭をなでながら、レティシアの方を見ると悲しそうな顔をした。


「ねぇ、レティシア。少しはララに優しくできないかな? 馬車で一緒に登校するのもいや、一緒に住むのもいや。それなのに学院ではララに対して冷たいのは、どうかと思うよ?」


 ルシェルがそう言うと、近くにいた女子生徒たちが集まってコソコソと話し出す。


「どうしたの?」

「なんかね、フリューネ家の姉が妹をいじめているみたいよ?」

「えぇ! 何それ、ひどくない?」

「なんか、家から追い出したらしいわよ?」

「それはやり過ぎでしょ……」

「お母様から聞いてた話と全然違うわ」

「朝なんて、ずっと無視していましたよ」


 彼女たちの話が聞こえたレティシアは、思わず鼻で笑いそうになった。


(事実とは違っても、勝手なことを言うのね。そうなるとルシェルは正義の味方なのかしら?)


「レティシア、これを機にララと一緒に住まない? 一緒に生活すれば、ララと仲良くなれる機会だってあるはずだよ」


 まるで守るように掴まれている反対の手を、ライラの肩に置いたルシェルは悲しそうな表情をしながら言った。

 けれど、レティシアは疲れたように深いため息をつく。


「……殿下、先日殿下はアルフレッド殿下から、事情もよく知らないのに、口を出さない方がいいと言われたのを、もうお忘れでしょうか?」


「忘れてないよ? でも、家族は一緒に住むのがいいと僕は思うからさ。どうかな?」


 レティシアは頭に手を当て、呆れたように首を左右に振る。

 確かにルシェルには異母兄弟がいるが、それは皇帝の息子だからだ。

 そのため、彼が言うことも一概に間違いではないが、それが正しい結果に繋がるわけでもない。

 しかし、一般的には、帝国であっても一夫多妻は皇帝しか認められていない。

 それにもかかわらず、彼が立場も場所も考慮せず、そのような発言をすること自体、間違いなのである。


(ダメだ……彼と話すと、言葉が通じてないみたいに感じて、頭が痛くなるわ)


「お断りさせていただきます」


 レティシアが冷たい声で言うと、ルシェルは首をかしげて困ったような顔をして言う。


「んー。なんでそんなに頑ななの? もしかして、オプスブル家から何か言われてる?」


 ルシェルが先日と同じようにオプスブル家の名前を口にすると、レティシアは彼に対してまるで汚いものを見るような視線を向けた。

 それはルシェル自体への不快感であり、彼がオプスブル家とフリューネ家の間の事情について軽々しく口を挟む行為に対する反感だ。

 なぜ彼がオプスブル家の名を出すのか、それはレティシアには分からない。

 しかし、彼にどんな事情があろうとも、フリューネ家の事情を知らない彼には関係ないことだと彼女は思っている。


 少しだけ遅れてきたアルフレッドは、机の上にカバンを置いてルシェルとレティシアを交互に見ると、呆れたようにため息をついて口を開く。


「兄さん、また首を突っ込んだのかよ……。ライラ嬢、教室に戻りな。もう少ししたら授業が始まるよ?」


「あぁ〜ん、あと少しだけでもいいからぁ、ルシェル殿下と一緒に居たかったですぅ」


 ライラがルシェルの腕にさらに胸を押し付けるように言うと、ルシェルは優しい目をして、またライラの頭を優しくなでながら声をかける。


「ララ、お昼は一緒に食べよう? 迎えに行くよ」


「はぁい! それじゃ、ララは教室で殿下のことをまってるぅ」


 先程までの涙はどこに消えた?

 と言いたくなるほど、満面の笑みを浮かべたライラは、ルシェルから素早く離れて自分の教室へと戻って行く。


「カトリーナ、先程はごめんなさい。あなたに不愉快な思いをさせてしまったわ」


 レティシアはそう言ってカトリーナに頭を下げようとしたが、カトリーナは慌ててレティシアを止める。


「レ、レティシア様が悪いわけではないので、気にしないでください。……そ、それでは、ワタシも席の方に戻りますね」


 まるで逃げるようにカトリーナがその場を離れると、レティシアは席に座ってカトリーナの背中を見た。


(これじゃ、今後は避けられそうね)



 昼食の時間になると、カトリーナはレティシアの所まで行くと彼女に声をかける。


「レティシア様、食堂に向かわれますか?」


「い、行くわよ?」


 朝のこともあってカトリーナに避けられると思っていたレティシアは、何事もなかったかのように話しかけられて、驚きのあまり言葉が詰まった。

 すると、カトリーナは小さく笑い、優しい眼差しをレティシアに向ける。


「それでしたら、本日は中庭に行きませんか? 今日は天気が良かったので、お昼を作って来たのでレティシア様にも食べてもらいたいのです。あ、もちろんいやでしたら、食べなくても大丈夫ですが……」


「……いやじゃないわ、ありがとう。それじゃお言葉に甘えさせてもらうわ」


 教室から出て歩いていると、レティシアはすれ違いざまに自分がコソコソと非難されていることに気がつく。

 きっとカトリーナも気がついているはずなのに、彼女は少しも気にする様子もなく、レティシアに話しかけては笑顔を見せている。


 中庭に出るとすでにリズとエミリが木陰に座っており、彼女たちはレティシアとカトリーナに大きく腕を振った。

 芝生の上に布を敷き、まるでピクニック感覚のような昼食になり、レティシアもカトリーナが作ってきたサンドイッチを食べながら、学生らしい時間を過ごす。


「いやぁ、ライラ様の演技はすごかったよ。あれをレティシア様とカトリーナにも見せたかったなぁ」


「ほ、本当ですよ。自分は驚きすぎて逆にライラ様が怖くなりました」


 どうやら授業と授業の合間にある休憩時間に、カトリーナが彼女たちに今朝のことを話したようだ。

 そのため、リズとエミリの2人は、教室に戻ったライラの行動をレティシアに話した。


 話の流れから、ライラは教室に戻ったあと、何事もなかったかのように過ごしていた。

 しかし、一限目が終わると朝の出来事を聞きに来る人がいたようだ。

 その時のライラは、涙を流しながら朝の出来事を話したという。

 ただし、その話には「自分が愛人の子どもだから嫌われても仕方がない」とも言っており、まるでレティシアのことを庇うようだったそうだ。


 本当のことを知らない人から見れば、ライラは虐げられながらも、姉をかばう健気な少女に見えたのだろう。

 その結果、中庭が見える渡り廊下を通る生徒から、時折レティシアのことを非難する声が聞こえている。


 リズは、レティシアが渡り廊下を通る生徒を見ていることに気付いた。

 レティシアと同じ方を向くと、彼女は話している生徒に冷ややかな視線を向けながら口を開ける。


「あぁいう連中は、気にしたら負けだから気にしない方がいいですよ」


「分かっているわ。ただ相手の顔くらい確認しようと思って見ただけよ」


 レティシアがそう言ってリズに笑いかけると、リズは彼女が本気で気にしていないのだと分かった。

 リズは「それなら良かった」と言って、目を細めてレティシアに笑いかける。



 その後も4人は時間が許す限り、帝都で最新の流行について熱心に語り合った。

 彼女たちは最新のファッショントレンドから、街角で見つけた美味しそうなお菓子の話まで、様々な話題で盛り上がる。

 そこには身分も容姿も関係なく、楽しそうに語らい笑う少女たちの姿があった。

 木の葉の隙間から光が時折差し込み、彼女たちの周りは、学院から程遠い場所まで出掛けたような雰囲気が漂う。

 穏やかな時間が過ぎている彼女たちの周りは、まるで彼女たちだけが、学院から切り離れされた場所にいるかのようだ。


 そして、3月下旬から4月中旬まで続く長期休みの計画について話し始めた時、彼女たちは一緒に出掛けようという結論に達した。

 それぞれが自分の希望を出し合い、最終的には全員が楽しめる場所へ出掛けることに決定した。

 その計画を立てる過程もまた、彼女たちの絆を深める一部となった。


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