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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
5章

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第116話 血縁と信頼


 週が明けた神歴1504年3月18日。

 レティシアはパーティーでの出来事もあり、重たい足取りで教室の扉を開けた。

 教室は一瞬にして騒然とし、週末に行われたパーティーの話が聞こえてくる。

 すでに自分の席に着いているルシェルの姿があり、他クラスにもかかわらずライラの姿もあった。

 しかし、特に気に留める様子はレティシアから見られず、人々は彼女を観察るような視線を向けている。

 レティシアは席について本を広げると、先程までルシェルと話していたライラが彼女に話しかける。


「お姉さまぁ、ひどいですぅ。ルシェル殿下の誕生日パーティーに行くなら、なんでぇララも同じ馬車に乗せてくれなかったのですかぁ? ひどくないですかぁ? ララが愛人の子だからですかぁ?」


 目を潤ませて話すライラにうんざりしつつも、レティシアはできるだけ平然を装った。

 そして、それは態度として現れ、無表情のまま読んでいた本から視線を上げてしまう。


「……逆に聞くけど、なぜあなたを我が家の馬車に乗せなければならないのですか?」


「だってぇ、それわぁ、同じ家族だからですよぉ? ルシェル殿下、ララは間違ったこと、言ってますかぁ?」


 ライラは頬に人差し指を当て、口を尖らせながら首をかしげた。

 人によっては、彼女の仕草を好む人もいるかもしれない。

 しかし、レティシアは嫌悪感しか抱けず、冷静に反論しようと口を開いた。

 その瞬間、ライラに話を振られていたルシェルが、まるで純粋な少年のように答える。


「そうだね。家族なら馬車に乗せてもいいと思うんだ。この際、レティシアもララと登校したらどうかな?」


(何も知らないのに、口を挟まないでほしいわ)


「お断りします。そもそも、一緒に住んでませんので」


「それなら、一緒に住めばいいんだよ、難しい話じゃないでしょ?」


 ルシェルはニコニコしながら言うと、ライラの顔は一気に明るくなる。


「そうですよぉ、お姉さまぁ一緒に住みましょぉ!」


 レティシアは朝から災難だと思い、軽く息を吐き出して告げる。


「確かに血が半分繋がった家族ではありますが、フリューネにはフリューネ家の事情もありますので、それもお断りします」


「ん-。そうは言っても、フリューネの別宅にはオプスブル家の嫡男も住んでるんだよね? 彼が良くて、ライラがダメな理由って何かな?」


 薄気味悪い笑みを浮かべながら言ったルシェルに対し、レティシアは凍り付くような視線を彼に向けた。

 それは、これまでルシェルに見せたことがない視線であり、思わず彼は一歩だけ後退りしてしまう。


「ルカはお母様からも信用され、私も信頼を寄せている人です。血が繋がっているからと言って、信頼関係があるとは限りません。それに、私が生まれてから、数回しか顔を合わせたことがない父と、今さら一緒に住めるとは到底思えません」

「あのさぁ、話してる時に悪いんだけど、ライラ嬢はそろそろ自分の教室に戻った方がいいよ。――それと兄さん、事情も良く知らないのに、口を出さない方がいいよ」


 アルフレッドは頬杖をつきながら、レティシアの言葉を遮った。

 彼は静かに彼らのやり取りを見ていたが、これ以上は黙っていられなかったのだ。

 しかし、彼に向けられたレティシアの鋭い視線は、彼の背中をゾクッとさせるものであった。


「お姉さま! この話は、また今度しましょう! フィリップやお父さまもお母さまも、お姉さまに会いたがってましたので!」


 ライラはそれだけ言うと、小走りで教室を出て行き、レティシアは疲れた様子で、本に視線を戻した。

 正直、ヴァルトアール帝国の皇族に対し、レティシアは良い印象をもっていない。

 それは、幼い頃にロッシュディのことがあったからでもあるが、皇族に対する不信感を覚えたからでもある。

 それなのに、パーティーの時のルシェルの行動や、先程の彼の発言を考えると、さらに印象が悪くなった。

 もしも、ライアンが彼らと同じ皇族でなければ、レティシアはとっくに皇族に見切りを付けていたことだろう。


(これから、毎日これが繰り返されるかもしれないって考えると、本格的に憂鬱になるわ……。ライアンに相談した方がいいのかしら……)


 レティシアは軽く額に触れると、重たいため息をついた。

 彼女の気持ちとは違い、朝の光が教室の窓から差し込み、教室内を明るく照らしているようだ。

 ざわつく教室内は、先程のレティシアたちのやり取りに対し、話しているようにも見える。

 次第に、彼らの話題は週末のパーティーに移り、余韻に浸るかのように、教室は賑やかな声で満たされている。

 しかし、その賑わいの中にも、静かに自分の世界に没頭する生徒たちの姿があった。

 本を開き、授業の準備をする者や、窓の外を見つめ、遠くを思い描く者。

 人々は慌てたように席に着き始めると、授業の始まりを知らせる鐘が鳴った。


 教室の扉が開き、長い黒髪を三つ編みにした男性が入ってくる。

 教壇に立ったラウルは、ローズピンクの瞳で生徒たちを見渡す。

 何かあった時のために、ライアンがラウルをこの学院に送り込んだのだ。


「ええ、5月に行われる対抗戦に備えて、今期からは本格的に実戦で使える戦闘魔法について学びます。これまでの授業では体力作りを中心に行ってきましたが、今後は魔法を使った実戦形式の訓練が増えていきます。多くの生徒は家庭で魔法の基本を学んでいると思いますが、一部の生徒を除き、実戦で使ったことがないと考えています。そのため、治癒魔法が使える先生も控えていますが、できるだけ怪我をしないように注意してください。それでは、まずは各自が得意とする魔法の属性を確認しましょう」


 ラウルは鞄から丸い水晶を取り出し、教壇の上に置いた。


「幼い頃に皆さんはやっていると思いますが、この時期に変わる人もいます。そのため、改めて確かめます。この水晶に触れて流しますと、赤、青、緑、茶に色が変わります。時々、白や黒に変わることもありますが、基本は最初に言った4色です」


 教壇に置かれた水晶にラウルが触れると、水晶は透明から茶色に変わる。


「魔力を流しますと、このように色が変化します。ちなみに、私は地属性の魔法が得意です。そのため、水晶は茶色に変わりました。この水晶の色が赤に変われば火属性が得意属性になり、緑は風属性で青は水属性です。もちろん、光属性であれば白く光りますが、黒が出れば闇属性です。では、名前を呼ばれた者は前に来てください」


(なるほどね。得意な属性で色分けして、それぞれ担当の先生が教える感じなのね。――確かにその方が効率は良いわ)


 ヴァルトアール帝国に住む貴族の義務に、学院に通わなければならない理由に戦闘訓練が含まれている。

 他国と戦争になれば、帝国民を守るために貴族が戦争に参加する。

 しかし、戦い方を知らなければ、数えきれない命を無駄に散らすことになる。

 そのため、そうならないように学院に通う者の義務として、3年間は学ぶことになっている。


 他の生徒たちが次々に呼ばれ、色別に振り分けがされていく。

 皇族であるアルフレッドとルシェルは白く光り、次にレティシアが呼ばれた。

 彼女が前に出ると、生徒たちの視線は水晶に集まり始める。

 対抗戦もあることを考えれば、首席の彼女がどこに振り分けられるのか気になるのだ。


(ここでもやるのね……面倒だわ)


 目の前に置かれた水晶に視線を向け、レティシアは水晶に手をかざすと青く光った。

 この判定結果は、幼い頃にレティシアが受けた時と同じ結果だ。

 青く光ったのを見た彼女は、さも当然のように振り分けられた場所に向かう。

 その時、他の色に振り分けられた生徒たちからは、残念がる声が上がる。


「さて、これで全員ですね。白に光った2人には申し訳ないのですが、人数が少なかった色に入ってもらえますか?」


 ラウルの言葉を聞いたレティシアは、咄嗟に彼の方を振り返った。

 しかし、彼女の視線に気付いた彼は、キョトンとした顔で首をかしげた。

 色別に振り分けられていたため、あえて人数の少ないとこを彼女は選んでいる。

 それは、彼女の戦闘スタイルと、少人数の方がまとめやすいと考えた結果だった。

 そのため、他の色と同じにされることがあると、彼女は微塵も考えてなかったのだ。

 結局、単純に思い違いをしてたことに気付き、静かに彼女は肩を落とした。


「よろしくね」「よろしくな」


 嬉しそうにあいさつしたルシェルに対し、アルフレッドはレティシアを一瞥すると、面倒くさそうにぶっきらぼうに言った。


(……面倒だと思いたいのはこっちよ)


 レティシアはそう思ってラウルの方を見ると、彼はハッとした様子で辺りを見渡した。

 そして、手元にあった用紙に視線を向け、困ったように頭をかきながら慌てたように言う。


「えっと……上位3名が同じ班になってしまいましたが、戦闘訓練と対抗戦はBクラスと合同で行いますし、青は人が少ないので問題ないでしょう」


 確かに青は人数が少ない。

 他の班は7人いるのに対し、青の班は皇族の2人を入れても4人しかいない。

 レティシアは諦めたように、同じ属性に組み分けられた薄紫の髪をした少女に目を向けた。


(カトリーナー・フェラーラ、彼女は確か、子爵家のご令嬢だったわね。成績はAクラスの中で真ん中より下だし、あまりパッとした印象がないのよね……肩まである薄紫の髪を、いつも三つ編みにして俯いてるし……)


 レティシアの視線に気付いたカトリーナは、薄紫の瞳でレティシアを見ると彼女に頭をさげた。


「よ、よろしくお願いします! ワタシ! 足手まといにならないように、精一杯頑張ります!」


「私も頑張るわ、気軽にレティシアと呼んでちょうだいカトリーナ」


「は、はい!」


 レティシアはカトリーナに笑いかけると、彼女は顔を赤くして俯いた。

 どこか委縮している彼女を、レティシアは困ったように見ていた。


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