表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/224

第98話 運命の狭間で(3)


(肝臓は完全に毒にやられているわね……それに、これは……)


 レティシアはリビオ王の全身に魔力を流し終えると、彼から手を離した。

 それが合図だったかのように、ルカとステラもレティシアに魔力を流すのを辞めた。

 しかし、アランだけが震える手で、彼女に魔力を流し続けている。


「アラン、悪いけど、もういいわよ」


「悪い、こういうことやるの初めてで……」


 レティシアは軽く首を振り、「気にしていないわ」と柔らかい声で答えた。

 彼女の手がリビオ王の右上腹部にゆっくりと降りていき、その指先からは冷たく澄んだ水属性の魔力が滲み出し始めた。

 そして、水属性の魔力を使い、丁寧に毒抜きをしていく。

 聖女の力が使えれば、こんなに苦労することもなかった。

 だけど、レティシアは聖女ではない。

 そのため、地道に処置していくしかないのだ。


「悪いけど、この部屋にたらいはないかしら?」


 レティシアが尋ねると、ディーンがベッドの下からたらいを出した。


「こちらに……これでよろしいでしょうか?」


「ええ、いいわ、ありがとう」


 レティシアは、先程毒抜きに使った水をその中に捨てると、またリビオ王の体の上に手を置いた。

 魔力を流し、完全に毒が抜けたことを確かめた彼女は、今度は右胸に手を乗せた。

 レティシアが魔力を流し始めると、額に最初の一滴の汗が浮かんだ。

 そいて、集中が深まるにつれて、汗は徐々に増え、表情も緊張に満ちたものへと変わっていく。

 その変化は、彼女の魔力の流れと同じく、静かでありながらも確実に進行していた。

 けれど、流れた汗を肩で拭きながらも、彼女は手を止めることはなかった。

 だが、それでも彼女の顔には、疲労の色が見え始める。


 ルカとステラは、目を凝らしてレティシアの手元を見ていた。

 そのため、魔力の流れから、彼女が何をしているのか分かっている。

 しかし、魔力が見られない他の3人には、彼女が何をしているのか、分からなかった。


 暫くすると、リビオ王の顔色は徐々に戻り、呼吸も落ち着き始めた。

 その時、レティシアはやっとリビオ王の右胸から手を退かすと、彼の表情を見て安堵したように微笑んだ。

 彼女はそのまま「生命の水(アクア・ヴィッチ)」と唱えると、疲労からその場に座り込んでしまう。

 生命の水(アクア・ヴィッチ)は、光属性と水属性を合わせた回復魔法だ。

 その性能は高く、重傷を負って生死の境を彷徨う者にすら使われる。

 ただし、消費する魔力量が多く、何度も安易に使えない欠点も持ち合わせている。


「大丈夫か?」


「ええ、もう大丈夫だと思うわ」


 ルカはレティシアの体調を心配して尋ねたが、彼女は代わりにリビオ王の容体について答えた。

 その予期せぬ返答に、ルカは呆れたようにため息をつき、それを見たステラも、同じくため息を漏らした。

 レティシアを見つめるルカの瞳は、どこか寂し気に映る。

 それは、どこまで彼女が自分を犠牲にすれば、自分を大切にしてくれるのかと考えてしまった結果なのだろう。

 しかし、今の彼女に何を言っても、彼女がそれを正当化させることを彼は分かっている。

 

「少しだけでもいいから、寝て休め。後は俺が説明しておく」


「それなら、リビオ王が目を覚ましたら、起こしてちょうだい」


「分かった。ゆっくり休んでくれ」


 ルカの言葉を聞いたレティシアは、そのまま後ろに倒れるように意識を手放した。

 だけど、彼女が床に倒れる前に、予想していたかのようにルカはレティシアを支えた。


 その場で寝てしまったレティシアを、ルカは優しく抱き抱えてソファーの方に運ぶ。

 彼の足取りは静かで、彼女を見つめるルカの瞳には、深い憂いが宿っている。

 彼女をソファーに寝かせた彼は、彼女を優しくなでていたが、その表情はどこか悲しげにも見えた。

 今回、レティシアにばかり負担が掛かったことと、彼女が彼を頼らなかったことが、彼にそんな顔をさせたのかもしれない。


 ステラはレティシアが眠るソファーに飛び乗ると、まるで彼女を守るように腰を下ろしてルカの方を見た。


『座らないの? ルカのことだから、レティシアに膝枕くらいすると思っていたけど』


「いや、今はこれでいい。ここも安全だとは言えない。それなら、すぐに動けた方がいい」


『……そう。ルカは、いろいろと気にし過ぎなのよ』


 ステラがレティシアのおなかの近くで丸くなると、ルカは鼻で笑い空間消音魔法(サイレント)を使った。

 意識を手放す前に、レティシアは魔法を解いている。

 それは、残っていた彼女の魔力量も関係があったからだ。


 城に来た経緯を話しながら、アランはディーンを連れてルカたちの方へとやってくる。

 彼はあらかた話し終えると、ディーンに対し座るよう促した。

 そして、ディーンは空いている場所に座ると、真剣な面持ちで口を開く。


「ルカ様、お久しぶりでございます。このたびは、リビオ王陛下を助けていただき、ありがとうございます」


 ルカはレティシアに視線を落とすと、彼女の頭を優しくなでた。

 触れた髪の柔らかさと細さが、まだ彼女が幼いんだと訴える。

 けれど、大人のように振る舞う彼女を、彼は幼いと思っていない。

 そのため、周りが彼女のことを幼いと判断し、功績を認めないことは見過ごせない。


「俺は何もしてないですよ……礼を言うなら、レティシアに言ってくれると助かります」


 丁寧に答えたルカの声からは、何も感情が読みとれない。

 しかし、彼がレティシアに向ける視線の奥に、ディーに対する苛立ちが潜んでいた。


「そうですか、それで、もう陛下の容体は大丈夫なのでしょうか?」


 ディーンがルカに尋ねると、ステラは明らかに不機嫌な様子で顔を顰めた(しかめた)

 命の危険を冒し、それでもレティシアはリビオ王を助けた。

 それにもかかわらず、ディーンの様子から、まるで彼がレティシアの言っていたことを、信じていないようにステラは感じたのだ。

 そのため、ステラはディーンを睨むと、体を起こした。


()()()()()()、大丈夫だって言ったから大丈夫よ』


 ピリピリとするような怒りが、ステラの声には含まれていた。

 そのことで、ディーンは一瞬だけステラに怯んだものの、彼はまたルカに話しかける。


「大丈夫なことは、分かりました。それで、一体陛下の体に何があったのでしょうか?」


「先程レティシアが抽出した物を調べれば、何か分かりますよ。俺も、あれがなんだったのか、分からないので。ただ……その後にレティシアがしていたのは、明らかに()()です。リビオ王は()()に、呪いを掛けられていました」


「まさか、そんな……」


 信じられないっといった様子で、ディーンは口元押さえると言葉を失くした。


『間違いないわよ? ステラもこの目で、ハッキリと見たからね』


「レティシアが起きれば、俺とステラが分からないことも、彼女に聞けば答えてくれると思います。その時、彼女に気になることは聞いてみてください」


「……分かりました。――では、後は陛下が目を覚ましてからお聞きします」


「そうしてくれると、俺も助かります」


 ディーンはルカに頭を下げると、寝ているレティシアに一瞬目を向け、リビオ王の元に戻って行く。


「なぁ、ルカ」


 目を伏せたアランは、ルカに話しかけたが、彼の声はいつもよりも暗く沈んでいた。


「なんだ?」


「さっきレティシア、怒ってたよな……」


 そう言ったアランの視線は、彼の足元を映し出す。

 答えが分かっていても、聞かずにはいられなかった。

 様々な不安が、彼の足元には広がっている。


「ああ、あれは完全に怒ってたな。でも、アランにも理由があるんだろ? その理由を、レティシアにも話してやれ」


「分かった……でも、ごめん……大切な時に迷って……」


「それも俺にじゃなくて、レティシアに言うんだな」


「……そうだな」


 ルカは、レティシアが怒った理由も、アランが悩んだ理由も理解している。

 立場が違えば、ルカもアランのように悩み、レティシアのように投げ出したかもしれない。

 しかし、仕事だと割り切っていた場合、彼はどうしていたのか考えてしまう。

 そのため、彼女を見つめる彼の表情には、少しの迷いや不安が見られた。


 ディーンがルカに尋ねると、ステラは明らかに不機嫌な様子で顔を(しか)めた。

 命の危険を冒し、それでもレティシアはリビオ王を助けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ