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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
4章

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第92話 紫の破片(2)


 時は過ぎ、アランが本を開いてから約2時間が経った。

 部屋の中は静寂に包まれ、唯一の音は本のページをめくる音と時折聞こえる深呼吸だけが静かに響く。

 彼らはそれぞれの本に没頭し、時の流れを忘れている。


 窓の外では、日が沈み始め、空が茜色に染まり始める。

 部屋の中は魔道具によって明かりが灯され、それがより古びた本を幻想的に見せ歴史を感じさせた。


 アランは時折、本から目を離して窓の外を見つめ、静かな空に美しさに心を奪われていた。

 ルカもまた、読むペースを落とし、深い思索にふけって時折考えるように本の文字をなぞる。


 しかし、レティシアは違った。

 彼女は本を読み進めることに集中している。

 彼女の眼差しは鋭く、まるで本の中に自分を見つけようとしているかのようだ。


 そんな彼らの静かな時間は、勢いよく開かれたドアの音で中断された。

 ラウルは土下座するような勢いで部屋に入ってくると、頭を深々と下げる。


「申し訳ありません! 破片を渡したの良いのですが、指示を出していましたら、実験の方に没頭してしまいました」


 深々と頭を下げて謝るラウルに対し、アランは少しだけ呆れた様子で返答する。


「ああ、いいよいいよ。こっちも本に噛り付いてるヤツがいるから」


 ラウルはキョトンとした様子で、アランの顔を見た。

 けれど、アランはレティシアの方を向き、顎をクイッと上げて彼女を指示す。

 不思議そう首をかしげたラウルは、レティシアの方に視線を向けると、静かに彼女の様子を見ていた。

 しかし、興味が湧いたのか、彼は薄っすら笑みを浮かべるとレティシアに近寄る。


「ララさん、魔導書を読むのは楽しいですか?」


「ええ、私の知らない魔法があるかもしれないと思うと、楽しいわよ?」


「この部屋にある本は、ご自由にお読みください。それと、この件が落ち着いた頃、ララさんを魔塔本部にあります、書庫にご案内します」


 魔塔本部と聞いたレティシアは、読んでいた本から勢いよくラウルに視線を移した。

 彼は優しく微笑んでいて、彼女は咄嗟に本に視線を戻すと、パタンと勢いよく本を閉じてしまう。


「あ、ぇ、えっと……ありがとうございます」


 戸惑いながらも、レティシアはお礼を言うと本棚に本を戻した。

 彼女の心臓は大きく脈を打ち、ソファーに戻る足取りは次第に早くなっていく。

 まるで逃げるかのように歩く彼女のことを、目で追っていたラウルは彼女が座るとクスっと笑う。

 そして、彼も軽やかな足取りでソファーに向かうと、腰を下ろす。


「私のせいで、話を中断させてしまいすみません。続きを話していきましょう」


 ラウルが言うと、アランとルカもソファーに座った。

 しかし、2人の表情は先程までとは違い、まるでラウルを警戒しているようにも感じられる。


「後、こちらが分かっていることは、紫の破片を食べた魔物が、他の魔物に捕食された場合、捕食した魔物が操られることは分かっています。ですが、どういった原理で操られているかは不明です。そして、1度でも体内に取り込まれた破片は、衝撃や魔法に弱く、魔物が人の攻撃によって死ぬとそのまま消えてしまうことが分かっています」


 ラウルの話を聞いていたルカは、自身が持っている情報と頭の中で照らし合わせた。

 その結果、彼が提供できる情報がないと分かると、少しだけ視線を下げて話す。


「俺たちが分かっていることと一致するな……悪いが、俺たちもそこまでしか知らない。力に慣れなくて悪い……」


「そうですか……仕方がありませんね。先程の破片を詳しく調べてみます」


「そうしてくれると、俺たちも助かる」


(破片に関しては、今のところ行き止まりね……でも、それだけが知りたくて来たわけじゃないわ)


 レティシアはそう思うと、スーッと息を吐き出した。

 そして、ラウルに対し、厳しい眼差しを向ける。


「ねぇ、話は変わるんだけど、魔導師のバッジの持ち主って、今はどうなっているわけ? そもそも、バッジが落ちていなければ、魔塔が疑われることもなかったよね?」


 レティシアが指摘すると、ラウルの表情は沈んでいく。

 彼は左胸に着けているバッジを見つめ、悲しげな表情を浮かべる。


「そうですね……、魔導師のバッジは、魔導師にとって、とても大切な物です。魔導師たちは、このバッジを着けていることに誇りさえあります……ですが……噴水広場で見つかったバッジを拝見し、私たちの方で持ち主は特定しましたが、魔の森で彼を発見しました」


(亡くなっていたのね……それなら、他のバッジの所有者もすでに亡くなっていると、考えてもいいかもしれないわね……生きている線も捨てられないけど、可能性としては低いわ)


「そう……。その様子からして、生きていなかったのね。ラウルは、魔導師で行方不明になっている人や、連絡が取れない人、それとバッジを無くした人がいないか、1度確認した方がいいわよ?」


「分かりました。早急に確認してみます」


「後、これは確認なんだけど、バッジの持ち主を発見した時、彼はローブを身に(まと)っていたのかしら?」


「一応ローブの方も確認しましたが、彼自身のローブを身に(まと)っていましたよ? それがどうかしましたか?」


「いいえ、確認しただけよ」


(魔塔も、一筋縄ではいかないってことかしら? それとも、汚れが少なかった物だけを使った? どちらにしても、ステラの報告にあったことを、ラウルに伝えるのは、まだ早いわね)


 アランは、レティシアの様子を見て、これ以上の情報を提供しないんだと考えた。

 そのため、彼は大きく背伸びをすると、おもむろに話し出す。


「さてと、そろそろ時間だ。これ以上は、ここに長居はできない。おれたちは帰るよ」


 アランの一言により、どこか張り詰めていた空気が和らいでいく。


「私が途中で離席してしまったので、時間を無駄にしてしまいましたね……本当にすみません」


「いいよ、いいよ。こっちも勝手に本を読んでたし」


「では、何か分かりましたら、ご連絡いたします」


「ああ、悪いけど頼むな」


「あ、ララさん、気になる本がありましたら、借りていっても大丈夫ですよ」


「ありがとうございます!」


 本を借りてもいいと言われたレティシアは、子どもように目を輝かせた。

 彼女は嬉しそうに本棚へと向かうと、本の背をなぞりながら本を選んでいく。


 レティシアが本を選んでいる間、ルカはラウルと直接連絡が取れるように通信魔道具の話をしていた。

 しかし、アランだけは、レティシアの行動に呆れながら魔方陣へと向かう。

 けれど、3人に背を向けたアランの表情は、とても硬かった。



(この本もいいけど、こっちも読んでみたいわね……でも、これも読んでみたいのよね)


 レティシアが悩んでいた本は、2冊とも魔核や精霊核に関する物だった。

 すでに選んで抱えている4冊は、付与術に関して書かれている本だ。

 真剣な面持ちで、悩んでいたレティシアだったが、なかなか決めることができないようにも見えた。

 しかし、彼女は頷くと、2冊の本を手に取り、計6冊を肩から掛けているバッグにしまう。

 そして、アランの元へ足早に向かうも、彼女の足取りは軽かった。


「待たせてごめんね」


「ん-? あー、気にしなくていいよ、ルカもまだだし」


「そっか、ありがとう。――ねぇ、アラン……できればでいいんだけど、私たちがここに来たことが分からないように、宿屋に帰りたいの……いいかな?」


「ああ、いいよ。おれも同じことを考えててさ、でも、ルカとララに迷惑を掛けると思って、言うか悩んでたけど、ララから言ってくれて助かったよ」


「アランも同じことを考えていたのね」


「まぁねぇ、まぁ、後は宿屋に帰ってからゆっくりと話そう」


「ええ、そうね」


 レティシアはラウルに思うことがあり、完全に信用していない様子だった。

 しかし、それはアランも同じだったようだ。

 2人はルカと話すラウルを見ると、観察するような視線を彼に向ける。

 けれど、その視線に気付いたのか、ラウルは振り向くと2人に対して手を左右に振った。

 そして、ラウルとルカは話しながら、アランとレティシアの元に歩み寄ってくる。


 話を終えたルカは、ラウルにお礼を言うと転移魔方陣(ムーブコネックテ)に乗った。

 すると、来た時と同じように足元が光、辺りが眩しいくなると3人を包み込んだ。


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