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15:彼女を英雄にしよう アニー ⑤

いろいろあってアニー書きました。

いろいろストレス与えてすみませんでした。

そろそろ本編終わらせます。


「アニー、どうかしたのですか?」


 昔のことを思い出していたらエリシアに心配されてしまった。ダメだね、つい昔のことを思い返すと何か落ち着かなくなる。心配そうにこちらを見てくるエリシアは昔と変わらない優しいエリシアのままだった。


 あたしが歪めたのにそんな風に心配されてしまうと胸が痛む気がする。もっとも痛んだところで今更だけれど。


「ううん、平気―。えっとそれじゃあ初めから話すねー」


 何でもないと首を振ってあたしはエリシアに話し始めた。正直な本音を言えば今から話すことは物凄く勇気が必要だった。それでもエリシアがあたしに向き合って真相が知りたいと言ってきたのだ。仲間だった者としてせめてこれくらいはちゃんと向き合いたかった。


「そうだね、あれはエリシアと初めて出会った日かな……それが全ての始まりと言えるかなぁ」









 初めてエリシアを見た時は何と言うか能天気そうな馬鹿がいると思った。あたしと同じ初心者冒険者のレイラやシェリアに比べたら、大したことなさそうですぐに死ぬだろうなとしか思わなかった。それでも最初から喧嘩を売る理由もないから挨拶だけは無難にしておこうかな。


「おっはよー!今日はよろしくねー」


 この頃には少しでもあたしという人間の印象を与えておきたかったのと、人を誘導する程の賢さがあるように見えなくするためにわざとバカっぽい話し方をするようになっていた。とは言えそのせいで絡まれても困るので武器もごっついメイスにしておいた。幸いメイスを扱う才能もあったから取り扱いには苦労しなかった。おかげでそれなりに身を守る手段も出来たし、威嚇にもなって助かったかな。


 メイスはいい武器だよね。路地裏とかで襲ってくる男とかがいたらこれで殴ればいいしね。もちろん殺してはいないよ、ただお話ししただけ。


 あたしが冒険者になったのだって名を上げるためだった。だからレイラがアカデミー出身でシェリアが歴戦の傭兵だと聞いたときはぜひ仲間にしたいと思ったんだ。エリシアは最初は能天気なバカとしか思っていなかったからゴブリンと戦う姿を見るまではそこまで気にはしていなかったんだ。


 名を上げて有名になれば裕福な結婚相手を見つける可能性も上がるかもしれないと思っていたからね。貧しさに殺されるのは嫌だったし、愛してもらえないのも嫌だったから。


 だからラルフがエリシアを見初めた時にチャンスだと思ったんだ。ラルフは貴族だって一発で分かったし、上手く取り入れればいい縁談も紹介してもらえるかもしれないって。そんなわけないって考えれば分かることなのにね。


 エリシアが結婚していると聞いていたけどそこは気にしていなかったんだ。エリシアは冒険者になるのが夢だったって言っていたけれど、あたしはエリシアもそうやって働かなければ生きていけないくらい生活が苦しいのだと思ったからね。エリシアのことは一緒に過ごすうちにだんだん好きになっていたし、貧しさに殺されるようなことになって欲しくはなかったからね。だからあたしはラルフに協力することにしたんだ。


「アニーにはそう思われていたのですね……」


「あの頃はねー。今はエリシアが純粋に冒険者に憧れていたって理解しているけれどね。まぁ今更だけど」


 ただ、いくらラルフが見初めてもただの平民じゃどうしようもなかったんだ。だからエリシアにクロノスフィアをという話になった時はあたしにはクロノスフィアが希望の灯に見えたよ。


 エリシアに足りなかったのは才能に見合った剣だったからね。これでエリシアを英雄に出来るってあたしは思ったんだ。覚えてる? 最初エリシアは貰うことを渋ったでしょう?


 だからエリシアが貰いやすいようにアレイシア様に助言したんだ。ジェイクさんの作った剣を悪く言ったからエリシアは貰う気になれないって。あたしの才能を活かして貴族とは言えアレイシア様に謝罪させたのはそのためだよ。あとはエリシアが受け取れるようにあたしが口を出したんだ。今ある剣を捨てるわけじゃないから貰っても悪いことじゃないって。人間逃げ口があるとそれを言い訳にするからね。


 クロノスフィアを手に入れたそれからのエリシアの活躍は本当に凄かった。


 ジェイクさんの剣を使えるようにするっていう名目でナイフにさせたのも、ジェイクさんがいつも側にいることを意識させないためだったよ。そうすることであたしはエリシアから少しずつ、心の中のジェイクさんが占める割合を変えていくことにしたんだ。


 もちろんあたしはエリシアに信頼されるためにジェイクさんのことは悪く言わなかったし、エリシアの夢も否定はしなかった。あの頃はエリシアの為でもあるって思っていたけれど、今思えば全部自分のためだったね。


「しかし、それだけのことでジェイクへの思いが薄れたのならそれは私の愛情がその程度だったということなのでしょう」


 エリシアが悲しそうに言うけれどそれは大分甘いよ。


「エリシアは今は貴族なんだからもう少し才能に関して理解した方がいいよー。才能っていうのはね、ただの村人が一年ちょいで英雄に成れるくらいの力があるんだよ。心なんて目に見えないものだけれど、そこを上手く揺らして操るのが詐欺師とかカルト宗教の教祖とかだよ。あたしもそれの同類なんだよ」


 明確にジェイクさんへの思いを削らせたわけではないのだ。あたしがやったのは同じくらい冒険が楽しいと思わせることだったのだから。少しずつ冒険に役に立つか立たないかでエリシアの思考を誘導していったんだ。


 だから剣を打ち直したばかりの頃はそれなりに思うところはあったのかもしれないけれど、後からはそうじゃなくなったはずだよ。だってあのジェイクさんの剣は冒険の役には立たないからね。


 それにもっといい剣が欲しいと思うのは普通の感情だよ。そこにあんな最上級の物が現れれば心が揺らぐのは普通の反応だからね。






 ラルフと手を組んだのはフレイムリザードの時だね。そのころからエリシアにはお酒の飲み方や絡んでくる冒険者のかわし方を教えていったでしょ?


 あれはあたしに教えてくれたちょっとガラの良くない冒険者の教えを基本にしたんだ。その効果もあってエリシアはお酒を覚えたでしょう?


 お酒は判断を鈍らせるし、習慣化すれば少しずつだけど心の中のジェイクさんを減らせるかもしれなかったからね。お酒に逃げるようになったら困るから気を付けてはいたけれどね。


 そうやって少しずつ少しずつ影響を与えることを優先したんだ。大分あたしの言うことを聞いてくれるようになったと思ったころにあたしはエリシアにマジックアイテムを教えたんだ。


「……どうしてですか?」


「理由は簡単。平民が簡単に手を出せる金額じゃないし、冒険者だって持てるのはそれなりに稼げる人間だけだから。金銭感覚を狂わせることと、マジックアイテムというとても便利な道具に触れさせて楽を覚えさせるためだよ。人間楽を知ると戻れないからね」


 その間もあたしは疑われないようにジェイクさんを褒めてエリシアの自尊心を刺激するのも忘れなかった。そうしておけばエリシアの中で実物よりも凄い人間としてのジェイクさんが出来るからね。そうなれば当然現実とのギャップが生まれるから上手く噛み合わなくなっていくしね。


 そう、あたしはまずジェイクさんとのすれ違いを作ろうとしたんだ。価値観や金銭感覚、それにジェイクさんへの理想化などね。


「……たしかに私はジェイクにいつの間にか理想を抱いていたと思います。何でも許してくれる人だと勝手に思い込んでいたのかもしれません」


「もっとも一番の誤算だったのはそのジェイクさんなんだけどね」


「……どういうことですか?」


「まさかエリシアのわがままに対応してエリシアの不満が爆発しないように上手くコントロールしてくるなんて思わなかったからねー。あたしはタリスマンをラルフが贈った段階でジェイクさんがキレてエリシアを追い出すと思っていたからねー。実際はそうはならなくてあたしの作戦は修正せざるを得なかったんだけれど」


 本当に予想外だった。あたしはあの頃はジェイクさんを甘く見ていたからね。エリシアが怒られるか追い出されて傷ついた心の隙間にあたしが入って行って、あたしに依存させるつもりだったのに。


 そのためにラルフに用意までさせて、エリシアの理想のジェイクさんを引き合いに出してまでエリシアを説得したっていうのに。マジックアイテムに興味があるのは分かっていたから理由さえあれば受け取らせることは難しくなかった。自分勝手なルールだけれど、家で着けないなんて言う基準さえ心の中に作らせればそれが言い訳になるしね。


 その渾身の策をかわされたときはあたしは驚いたし、そのとき初めてジェイクさんという人間に興味を持ったんだ。






 その頃にはラルフが勝手に何かしているのは知ってはいたけれど、あたしには止める理由も方法も無かった。ラルフはやりたいことは我慢できない性格だっていうのは分かったし、止めることであたしとの取引に支障が出る可能性があったからね。


 そういえばエリシアが盗賊と戦った際にマジックアイテムの効果を実感していたことは知っていたよ。あれくらいは簡単に分かるからね。だからそちらは順調だったんだ。これでエリシアは便利なマジックアイテムを逃げ口さえあれば断らないって。


 そこまで誘導するのは大変だったけれど、同じパーティーにいたから可能だったんだよ。レイラやシェリアが側にいるときは控えていたけれどね。


 うん、分かってはいたんだよ。バレれば止められるものだということくらいは。だからこの頃はまだ気を使いながらやっていたかな?


 エリシアを冒険者にしていく計画は順調だったんだけれど、ここでジェイクさんっていう予想外の存在にあたしは作戦の変更を余儀なくされたんだ。


 それにね……ほら、皆で恋バナしたことあったじゃん。あの時シェリアがジェイクさんの村にいる誰かを好きになっていることにも気が付いていたし、邪魔したくなかったんだ。


 勘違いしないで欲しいのは“女神の剣”の皆のことあたしは大事な仲間だと思っているんだよ。だからあたしはシェリアの恋路の邪魔にならないようにエリシアへの干渉を減らしたんだ。あたしが手伝って後押ししようかとも思っていたんだよ。


 でも……そう思っていた矢先にあいつが現れたんだ。


 あたしがそこまで話し終えた時、エリシアが何かに気が付いたのかマジックアイテムを取り出した。震えているけれど何だろう?


「どうやら今日はここまでのようですね。私は戻らなければいけません。また後日来ますのでその時話していただけますか?」


「忙しんだね……」


「ラルフが起こしたトラブルの後片付けがあるのです。おかげでスフィールド公爵家はそれなりのダメージを受けそうです」


「そっか……ねぇ、レイラはどうなっているの?」


 どうしてもあたしが治せなかった大事な仲間。結婚したばかりのころは寄付も増やしながら治せる人を探していいたけれど、それもこんな扱いをされるようになってからは途絶えてしまっていた。


「……レイラは治りましたよ」


「……え?」


「“命を繋ぐ者”という二つ名を持つ聖癒師の手によって回復したそうです。他にもペトリリザードの被害者たちは順調に治っているそうです」


「……良かっ……た……本当に……良かったよ……」


 あたしは嬉しさのあまり涙が溢れ出るのを止められなかった。あれは相当難しい呪いを解呪しないと治せないのだ。“命を繋ぐ者”ってどんな人なんだろうか? 聖癒師なんて治癒師の最高峰だ。そんなすごい人が治してくれたなんて……でもどうしてもっと早く治してくれなかったのだろうか。レイラの時間は八年もズレてしまったのだ。


「詳しい報告を置いていきます。アニーも目を通しておいてください。それではまた一月後に来ます」


 エリシアはそう言って出ていった。残されたあたしは置いて行かれた資料を貪るように読んでいく。


 “命を繋ぐ者”が誰かは神殿が情報統制しているから分からないけれど、ここ最近現れたらしい。神殿も混乱しているようで詳細な情報はまだなようだ。


 それでもこの人が出てきてくれたおかげでレイラが治ったのだから感謝しかない。


 あたしは感謝の言葉を伝えたかった。

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