12 日々こつこつと
――戦闘訓練二日目
「今日もスライムで訓練していきましょう!」
「昨日は初討伐で満足して帰っちゃったからな、今日はみっちりお願いします!」
「ふふん、このテレシアにお任せを!」
テレシアは胸をポンと叩いて少しだけどや顔を見せてくれる。
実際、彼女の指導は毎度的確でわかりやすいため、そのどや顔にカナタはとやかく突っ込みを入れることができないでいた。
「はっきり言ってしまえば、勇者様には少々筋力が足りません! なので、スライムを倒しながら筋力をつけるという方向で行きましょう」
「つくのか? トレーニングとかしなくても」
「もちろん、うちに帰ってから自主トレーニングはやってもらいたいです! しかし、今からコツコツ鍛えていては間に合わない……と神父様もおっしゃっていたので、戦いに特化していただこうかと」
「神父様もそう言ってたのかよ……俺の知らない間に話が進んでいたのね……」
カナタはほんの少し寂しそうな顔をしてみせるとテレシアは慌ててフォローを入れる。
こういうところにテレシアの優しさを感じるカナタであった。
「私も今まではずっと戦闘訓練ばかりでした。いつか勇者様が現れた時に同行する、それが私の役目でもあったので」
「そんな役目があったのか……?」
「はい、実はそうなんですよ。神父様に言われたんです。『お前の力はシスターのままじゃもったいない! 聖剣に選ばれた勇者がいたら助けてやれ! お前ならできる、今日からバトルシスターだ!』と……」
あまりにも彼女にぴったりなバトルシスターという単語にカナタは思わず感心してしまう。
「神父様の言葉のセンスやべえな」
「ちょっと変わった人なんですよねえ。でも、ああ見えて甘いものが大好きで辛いものが全く食べられない子供っぽいところは私、可愛いと思っているんです!」
「それは可愛いな……」
こちらもこちらで、神父のいないところで話が進んでいる。そして、神父の可愛らしい秘密も暴露される。
周りにスライムがぷよぷよと歩き回っている草原、ある意味では戦場の真ん中でカナタとテレシアはほっこりとした気分になりつつ笑いあっている。スライムたちはそれを全く気にする様子はない。
「姉さまとクーチェの取り合いになったときもあって、その時はですね……」
「ま、待って! このままじゃ俺たち草原でピクニックしに来ただけになっちまう!」
「あっ……」
今日も昨日に引き続き良いピクニック日和というような天候ではあるがピクニックをするためにこのスライムのいる草原に来たわけではない。
正直、ローザと神父のクーチェの取り合いとやらは気になるところではあったがカナタは何とか戦闘訓練のことを思い出したようだった。草原に来てから今の今まで、彼は聖剣を背中につけたままで手で一度も触れていない。
「お話が楽しくて思わず……クロエちゃん以外にこんな風に誰かに二人のことを話す機会ってないのでつい……」
「まあ気持ちはわかる。だが、俺も勇者としてお前を守りながら戦う、そういう戦闘スタイルになりたいんだよ!」
その言葉にテレシアは嬉しそうに目を見開いていた。
「私の背中を任せることができるのは、姉様か神父様だけだと思っていました。これからは勇者様にも任せていきたいです」
「ああ、もちろんだ! すぐにでも任せて欲しい!」
「さすがに任せるにはあまりにも頼りないので、いっぱい特訓しましょう!」
「まあそうだよな…俺でもこんなやつに背中を預けるとか絶対嫌だもんな」
「これからですよ! さ、あそこにいる大きめのスライムを叩きにいきましょう!」
少し遠くの方に他のものより大きめのスライムがゆっくりと草原を漂っていた。
他のものが足首くらいの高さがあるがこのスライムは弁慶の泣き所くらいだろうか。とにかく一目で大きいことがわかる。
「なあ、大きいやつとか強いんじゃねえの?」
「はい、大きいほど生命力に溢れています。つまり、コアの破壊を丁寧に行わなければ倒すことはできません」
「それよりだったらあの小さめの方狙った方が良くない? まだ俺初心者勇者だよ?」
「大きいスライムは生命力はありますがスピードが他の子たちに比べて遅いんですよ。戦いを挑んで反撃を喰らいやすいのは素早い小さめのスライムなんです」
「なるほど」
「もう一つ目的がありまして、正確に確実にコアを壊せるようになるということは今後の戦闘において重要です!」
「まあ確かに。一発で仕留められたらそれが1番いいよな」
そう言いながらカナタは背中の聖剣を取り出す。草原に来て数時間たった今日初めての聖剣の出番である。
両手で持ち、昨日と同じように回転切りをしてみる。
すると、昨日よりもスムーズに回転し、コアの位置も確認しながら聖剣を扱えた感覚がカナタの全身に駆け巡る。
昨日倒したものよりも少し大きなスライム、斬りつける時の抵抗はもちろん大きくなるはずなのだ。
しかし、昨日よりもスムーズであったことにカナタは1人驚いていた。
「なんだこれ、俺もう強くなったのか……?」
「ふっふっふ、感じましたか? 体を誰かに支えられる感覚を!」
「え? 支え?」
「私とは違う感覚だったのかもしれませんね…でもそれは勇者様が一度戦ったことがある相手だからというのもありますが、単純にクロエちゃんのおかげです」
「もしかしてこのスーツか!」
「その通りです! 防御だけじゃなくて着る私たちの体の動きをサポートしてくれる機能もつけてくれるんですよー! さすがですよね!」
「ああ、やっぱり装備って大事だな…」
「ですが勇者様の学習能力というか適応力が普通の人よりも優れているのかもしれません…装備が自分に馴染むまで結構時間がかかってしまう人もいるので勇者様はダントツに早いですよ!」
カナタは聖剣を振り回しながらいろいろなポーズをとる。どのポーズも案外しっくりくるようで、新しい装備と適合していることがよくわかった。
といってもポーズを取るだけでは装備のおかげなのか自分の体が案外柔らかかったのかわからない部分もあった。
「まー、この調子でスライム倒しまくってレベルアップスキルアップだな!」
「はい、勇者様!」
本日倒したスライムの数 5匹




