01 メガネとバナナ
※この作品の三話と九話に残酷な描写が含まれています
苦手な方、15歳未満の方は回れ右ですよ。
※この作品はR15ですがエロはありませんのでご注意ください。
※異世界ものですが舞台が拷問部屋なのでファンタジー要素は皆無です。
ここは薄暗い地下室。広い部屋に出入り出来る扉は一つ、扉の傍には小汚い机と椅子が置かれているだけだ。
部屋の左右には十人程度入れる牢屋が合計四つ、中の壁には鎖が多数ぶら下がっている。
牢部屋の奥には扉の無い軽く区切られただけの拷問部屋と繋がっていて、その奥には鋼鉄製のドアが二つ並んでいる、入った事が無いので解らないが特別な個室なのだろう。
そんな拷問部屋の片隅に鎖でぶら下げられる様に繋がられた俺がいる。
俺の名前はレイ・ローランサン、ある国で騎士団長をしていたが二か月前の戦争で捕まり、それからは毎日の様に拷問を受けている。
それでも生きているのは俺の持つ情報が重要とされているからだ。
当然のように『言えば悪い様にしない』とか色々と言ってはくるが、言う訳が無い。言ったが最後殺されるに決まっているのだから、言わない方が確実に生きていられるのだ。
だいぶ痛めつけられはしたが欠損部位が無いのは幸運と言っていいのだろうか?
そんなある日、いつもの拷問係が部屋に現れなかった。……翌朝になってもだ。
食事抜きって何この温い拷問とか、放置プレイなんて新手の拷問かよとか、思っていると部屋の扉が開いて入ってきたのはいつもの拷問係では無く女性だった。
ぱっと見は十代中盤といった感じで、長く茶色い髪は後ろで二本の三つ編みにしていて、まだ幼さの残る顔には大きめの丸いメガネが掛けられており、白衣を私服の上から羽織るように着ていた。……背がわりと低いな。
真逆こいつが拷問係とか無いよな? そこで一瞬目が合った。
「おまえ、ちっちゃいとか思ったろ?」
あ、何か可愛らしい声、て思ってたら近付いて来てキンタマ蹴られた。
前言撤回、可愛くねぇ!
そこで尋問が始まるのかと思ったら地下から出て行った。一体何だったんだ?
困惑する事一時間弱、大きな袋を抱えた少女が数人の兵士を連れて戻ってくる。
少女は兵士たちに指示して机と椅子を運び出すと、新しい机や椅子、棚やタンスなどを運び入れてその中に何やら入れていく。
挙句には簡易キッチンや天蓋付きベッドまで運び込む。
……殺風景な部屋がその一角だけ非常識なほどファンシーな感じになったなぁ。
作業が終わって兵士達が帰ると、抱えていた袋から洋服類を取り出してタンスに仕舞いこみ、振り返って俺を見た。
その目からは敵意も悪意も感じられない、強いて言えば『邪魔臭い感』か……
「あたしが新しい拷問係、あなたの事は聞いてるわ。聴きたい事がある時は話しかけるからそれ以外の時は静かにしてて」
それだけ言うと椅子に座って本を読み始めた。
――何だそりゃ? 拷問係と言っといて何も無しかよ、頭可笑しいんじゃね?
「俺が言うのもおかしいが尋問しないのか? それと昨日から何も食って無いんだが飢え死にさせる気か?」
少女は大きな溜息をつくと『おまえは言葉の解らんサルか何かなのか』と言わんばかりの哀れむ様でいて何処か失望した目をこちらに向けた。
拷問部屋の隅から遠目でも解る程にがっかりした顔をして立ち上がると、机の引き出しからバナナを一本取り出してこちらに歩いてくる。
何故引き出しからバナナとツッコミたいが、それよりも何やらドス黒いオーラが見えるのが気の所為だと思いたい。
「二~三日食わなくったって死にはしないんだよ、読書の時間をじゃますんな。
大体、話す気のないヤツに尋問するだけ時間の無駄だろうが!
ところで知ってるか? 人間ってのは胃で消化して腸で栄養を吸収するんだよ。
……後ろの口で試してみっか? なぁ?」
ちょ! まっ!
俺と繋がった鎖を引いて半回転させるとズボンを下ろしてバナナを押し当てる。
「待て、せめて皮を剥いてくれ!」
自分でも何を言ってるんだと思うがこの状況でまともな判断が出来る訳が無い。俺の頼みに一瞬静止した。
出来れば思い止まって普通に食べさせて欲しいが、無理ですか?
「なるほど……。でも却下」
この瞬間、俺は大切な何かを失った。
――そんな最悪な一日が終わり、俺の新しい拷問生活が始まったのだ。