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第六話「奴隷商」

 空が茜色に染まる。この世界でも夕方は夕方なんだな。

 そんなことを思いながら俺は部屋の真ん中に立つ。玄関から拝借してきたサンダルを履いて、尻ポケットに石ころを入れて。

 もう夜逃げする準備は万端だ。てかそもそも荷物はなかったわけだし。

 俺はそうして部屋の窓から外へ飛び出した。












 現在俺は村の中を抜き足差し足忍び足で歩いている。

 ワルンと話してからというもの、俺は窓から外の情報を得るのに必死だった。

 まずは逃走ルートの確認。そして軍隊の居場所の確認。見張りがいるかどうかの確認。とにかくたくさんの確認をしようとしていた。

 そして、そしてとうとう部屋から飛び出した俺。このままここにいたら寝た瞬間にグルグル巻きにされて売られる。そう察しての行動だ。

 だから俺は必死で逃げようとしている。手に入れた情報を元に。

 しかし、俺の足取りはかなり心許ない。フラフラとどこへ向かっているのか分からない。

 それもそのはず。なんせ俺は逃走ルートの確認も、軍隊の居場所の確認も、見張りがいるかどうかの確認も出来なかったのだから!

 

 うん、それはしょうがないんだよ。俺のワルンの家の窓から見た景色で得られた情報は、村がない、という情報だけだ。

 正確には俺の部屋の窓から見える範囲に村がないというわけだ。窓から身を乗り出しても見えるのは一面に広がる草原のみ。てかこんなのが見えたら飢餓とかありえないだろ。どうみても土地は肥えてそうじゃねぇか。

 なんだかワルンの浅はかさにため息が出るよ。

 と、それは置いといて。

 そのせいで俺は夕方までなんの行動も起こせなかったわけだ。とりあえず窓から身を乗り出してちょうどよく落ちてた石ころを二つとってポケットに入れておいたが。もちろん力を込めた状態でだ。

 

 そんな感じでなんのあてもなくフラフラと見張りとかを警戒しながら歩き回っているしだいだ。

 ちなみにここが村というのは本当だった。そこまで多くの家はないが、ところどころに畑とセットで家がある。

 つい先ほどは大きめの長屋のような建物があり、おそらくそこが軍隊の詰め所のようなところだろう。入り口に見張りがいたし、その見張りも兵士っぽい感じだったから間違いない。

 そこはとにかくスルーして、草原とは反対方向に歩いている。草原には何も見えなかった。つまり、草原とは反対方向に森があるというわけだ。

 俺は黙々と歩き進める。







 家を窓から飛び出して十分ほどして、木々が遠くに見えた。

 今までは家とかに隠れてたので見えなかったが、遠くの家の向こう側に木の先端が見えた。

 よし、目標が出来た。さっさと進むか。

 ワルンが俺の不在にいつ気付くのか分からない。なのでできるだけ早く森に入りたいのだが…………いかんせん、まだ夕方。多少の人通りはまだある。

 あ~あ、これなら夜にすればよかった…………ってあれ以上あそこにいたらなんか危険な気がしたからでてきたんだっけか。

 って、ええい! いつまでもくよくよすんな、俺! 今は逃げることだけに集中だ!

 頭の中でごちゃごちゃといろんなことを考えていた俺は、軽く頭を振って雑念を振り捨てた。

 今は逃げることに集中。

 それだけを考えた。










 余計なことを考えなくなったからか、森にはすぐについた。

 森の近くに見張り台らしきものがあって見つからないかと心配だったが運よく交代の時間が来て、その一瞬をついて森へと駆け抜けた。

 俺は森の中をしばらく疾走した。そう簡単には見つからないように。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」


 息も絶え絶えに走り続ける。

 

「はぁ、っ!」


 と、そのとき、突然目の前に馬が現れた。

 急ブレーキして止まり、急に現れた馬を訝しげに見ていると、


「こんばんわ」

「?!」


 馬の向こう側から声がした。男性とも女性ともとれない中性的な声。

 そちらへ目を向ければ、馬車の御者台に乗る一人の人間の姿が。

 俺は警戒して息を整えながらポケットへ手を伸ばす。


「そう警戒しないでください。私はあなたを捕まえるつもりはありません。と言ったところで信じてくれるはずがありませんからね」

「その通りだな。で、俺になんか用? 彼氏と彼女によくある会話みたいに、用がないと声かけちゃダメなの? とかいっても無駄だからな」


 そいつの言葉に俺も返す。

 よくある恋人の電話でのやり取りを言ってみたが当然伝わらない。

 フードを目深に被り、ゆったりとしたローブを身に纏うそいつは喋る。


「それがなんなのかよく分からないけど多分違います。私はあなたに用があって先回りしていました」

「…………つまりはここで俺と話して時間稼ぎか。さっきお前は俺を捕まえないといったな。確かに俺を足止めして後ろから違うやつが来ればお前は捕まえないもんな」

「いえ、私は単独での行動です。ついでに言えばあなたの後ろからは誰も来ていないように感じます」

「…………正直全く信用ならないんだが」

 

 フードの言葉に、疑っているぞ? という意思を込めた言葉を返すと、敵ではありません、と言った風の言葉が返ってくる。声に出して言ったが、本当に全く信用できないんだが……

 と、俺がフードを疑いながら逃げ道を探しているとまたもフードは喋りだした。


「私は変わり者でしてね。商人のくせに利益よりも興味をとるんですよ」

「…………それがどうした?」


 俺はその言葉にピクッと反応して問うた。

 フードはその反応を待っていたと言わんばかりに続ける。


「すなわち、私はあの村の方よりもあなたに興味がわいたのです。あなたのその目。

 素敵ですねぇ(・・・・・・)

「っ!?」


 フードの呟いた最後の一言がやけに耳に響いた。妙に背中がむずがゆいというか……

 そんな俺の反応にフードは、ふふっ、と含みのある笑い声をあげて続けた。


「とにかく私はあなたにとても興味がわいた。だから逃がす。それだけです。今こうして会っているのはただ私が一度会って話したかったからです」

「……お前変わり者だな」

「よく言われます」


 俺の言葉にフードはあっけらんと言い返す。自分でも言ってたし嫌味にならないか。

 にしても、これは本当か? 本当に俺を逃がしてくれるのか? 本当だとしてこいつのメリットは? 嘘だと思うが本当に俺への興味ってだけでか?

 様々な疑問が頭をよぎる。

 そんな俺にフードは満足気に頷くと人差し指を立てた。


「まあ、無条件で通すわけにはいきませんよ」

「……もし断ったら?」

「それでしたら…………死んでもらいましょうかね?」


 フードの言葉に俺が断ったときのことを聞くと、フードは簡単に殺すと言った。それはさながら近所に遊びに行くとでも言うかのように軽々と。

 こいつは殺る。殺ると決めたら本当に実行に移す。


「はぁ、分かった。出来ることなら俺も条件を飲もう」


 俺は、ため息をついて観念した。なんとなくだが俺はこいつに勝てる気が全くしないのだ。見た感じヒョロヒョロで普通の喧嘩だったら勝てそうなやつなのに。

 俺はどんだけ警戒してもこいつには敵わないと判断。途端に緊張が解ける。

 ま、そこまで命を大切にしてるわけじゃないしな。タダでくれてやるわけにはいかないとは思っているが。

 その様子を見てフードは興味深そうに体を乗り出している。


「潔いといいますか。やはりあなたは私の思ったとおりの方だ」

「あんま人にイメージを固められるってのはいい気分じゃないな。で、条件は? 優しく頼むぜ」

「はい! あなたがここを無事に通れるために私から出す一つの条件は、

 『私の商品である奴隷を二人譲受け取ってくれること』です」

「…………はい?」


 人にイメージを決め付けられて、その通りだったと言われるのは気分が悪い。

 そう思いながらも本題に入るため条件を聞き出した。

 しかし、その条件を聞いたとき俺は固まった。

 それもそうだ。フードの出した条件とは、自分の売り物をタダで相手に譲ること、なのだ。しかも、相手が圧倒的不利な状態であるのにも関わらず。

 わけが分からず混乱しているとフードは早口にまくし立てた。


「そうですか、仕方ありません。ならばあなたにはここで消えてもらうしか…………」

「ちょい待て! 別に俺はその条件を拒否するなんて言ってねぇぞ? 今ちょっと吟味中だ! 静かに待っとけ!」

「分かりました」


 フードの言葉に俺は被せるように叫んだ。ちょっと固まってただけなのに殺されてたまるか! 

 分かりました、と返事をもらえた俺はしばし考える。

 何故俺に自分の商品である奴隷をタダで譲るのか。あいつ俺に興味があると言った。つまりは奴隷に俺の監視をさせるのか? もしかしたら通信機のようなものを使ってやり取りするのかも。いや、もしくは発信機などで常に俺の位置が分かるようにするのかもしれない!

 てかこんなの出所の知らない俺に使っても本当にどうしようもないだろ。そもそもこいつはなんでこんなにも俺のことを気にしてるんだ? 全くわけが分からない。

 そんな俺の疑問が顔に出ていたのか、フードは喋る。


「私があなたに自分の商品である奴隷を預けるのは、これまた興味ですよ。私の持つ奴隷をあなたはどのようにして扱うのか。それに興味があります。もちろん、金銭などは一切頂きません。私が好奇心で譲るものですから。むしろ逆にあなたに食料などの問題を与えることになりますのでこちらが払いたいくらいです。ちなみに追跡系の魔法などはつけていないので大丈夫です。まあ、私はあなたとならすぐに会えそうな気がしますがね」


 …………こいつ、やっぱりおかしい。

 なんだろうか、こう一般人とは違う、頭がイカれてるというか、壊れてるというか。

 まあ、しかし、なんだ。どの道俺に選択肢はないんだ。生きて楽しそうならそっちに進む。それに俺のこの世界での目標も達成してみたいしな。

 俺は頷きをもってフードの言葉を首肯する。

 

「おお、受け取ってくれますか! よかったよかった、出来るなら私も興味の対象を殺したくはないですからね」

「俺も無闇に命を散らすことはしたくないんでね。で、俺はどうすればいいんだ?」

「その前に少しだけ説明をば。コホン、奴隷は契約者の命令ならなんでも聞きます。そして契約者には危害を加えれません。直接的でも間接的でも。なお、第三者に契約者にとって不利益になる情報を流すことも出来ません。続いて、奴隷はどのように扱ってもらってもかまいません。魔物と戦うときの肉の盾として使ってもよし、身の回りの世話を全てやらせるのもよし、夜の相手をさせるのもよし。先ほど言ったとおり私はあなたの奴隷の使い方に興味があります。どのように使っていただいても構いません。そして最後にですが、契約には互いの血を少量飲みあわなければいけません。少量の血を飲みあい、両者の合意が得られれば、その契約は魂に刻まれます。契約の解除は出来ませんのであしからず。以上です」

「お、おう……」


 突然の事務的対応に俺は戸惑った。が、一応内容は把握できた。

 一つ目は、奴隷は契約者に不利益になることが出来ず、命令にも逆らえない。

 二つ目は、奴隷はどのように扱ってもいいってことか。人権がないってことね。

 三つ目は、契約には互いの合意の下少量の血を飲み合うことが必要とされる。

 こんな感じだな。特に聞くところはないな。

 俺は一通り確認するとフードへと声をかける。


「よし、オーケだ。契約しよう。それで通してもらえるんだよな?」

「ええ、もちろんですとも。今回どころか、これから私、および私の関係者はあなたに危害を加えません。ちなみに関係者とは奴隷商仲間のことじゃありませんが。信じられないのなら契約しますか?」

「いや、いい。そもそもお前の関係者だからって気を抜いて接しようとは思わない。で、一応聞くが、俺が契約をしたすぐそばで奴隷を殺しても通してはくれるんだよな?」

「ええ、もちろんです。言ったでしょう? 私はあなたの奴隷の使い方を見てみたい、と。それもまた一つの使い方ですよ」


 俺の言葉に悉く肯定の意思を示すフード。よく分からんが、奇妙なやつだ。

 とりあえず俺の不利益になることはないと信じて動くしかないな。動かなかったら殺されるし。

 俺はまた、はぁ、というため息と共に己の弱さを嘆いた。

 













 なんか俺の作品って度々奴隷商がそれっぽい感じで出てくるよねww

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