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閑話「ゴーレムの大冒険」

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 主人から命令を言い渡されたある銅人形(ゴーレム)は家と家の人が通れないような隙間を歩いていた。

 まだ空が白み始めたばかりの時間も合わさり、視界はほとんど役に立たない。銅人形は元々視界に頼っていないのだが。

 銅人形はその小さな足を一生懸命えっさほいさと運び、進んでいく。

 主人の命令を遂行するために。






 細い道と言えない様な隙間に冷たい風が吹く。

 五分ほどかけてようやく十mほど進んだ銅人形は体にまとわりついた嫌な風を感じていた。正確には五感はなく、魔力の流れを感じているのだが。

 そしてその予感は的中したのか、前方からなにか巨大な物体が近づいてくる。巨大と言っても銅人形と比べて、だが。

 銅人形は歩みを止め、それが姿を現すのを待つ。

 

 数秒経ち、それは姿を現した。

 小汚い灰色の毛で身を包み、二本の前歯が特徴的な生き物だ。

 わずかにその身の向こう側にはくねくねと動く細い、毛が一本も生えていない尻尾が見えた。

 〈そいつ〉は銅人形をジッと見る。ひたすら見る。

 やがて見るだけじゃ足りないのか、近づいてきた。

 銅人形は、お? やるつもりか? とでも言うかのようにファイティングポーズをとった。

 〈そいつ〉はそんな銅人形を、なにしてるんだ、こいつ? という目で見つめていた。

 

 そして近づく一体と一匹の距離。

 銅人形は歩みを止めない〈そいつ〉を見て、やるんだな? ぜってぇ後悔すんぞ? といった目で見ていた。ぶっちゃけ銅人形へっぴり腰である。

 しかし〈そいつ〉は歩みを止めない。銅人形は腹をくくった。

 

 〈そいつ〉が更に一歩を踏み出した。

 その瞬間、銅人形は左ジャブを放つ。

 その小さな体から出るとは思えないような速度だ。

 しかし、〈そいつ〉はその拳を前歯で受け止めた。

 銅人形はまさか受け止められると思ってなかったのか硬直する。

 この一瞬の隙、銅人形が感覚的にしまったと思ったときにはもう遅い。

 〈そいつ〉は既に行動を開始していた。

 

 後ろに下がるという行動を。


 銅人形は、あれ? と首をかしげた。首はないのだが。

 〈そいつ〉をよく見てみると、前歯に日々が入っていた。

 そう、銅人形は本当に『銅』で出来ているのだ。それにこれでも魔法によって作られた人形。力は凄まじいのだ。体が小さい分大きい人形には劣るけど。

 これはいける、と思ったのか先ほどまでのへっぴり腰が嘘のように銅人形は軽やかにステップを踏み始めた。

 更にはシャドーボクシングまでしだした。はっきりいって調子に乗っている。


 しかし、この行為が〈そいつ〉には効いたのか、一目散に逃げていった。

 勝った……とでもいうように銅人形は片手を天へと突き上げる。

 埃っぽい小さな隙間での戦いは銅人形が制したのだった。







 銅人形は主人の命令を思い出し、慌てて動き始めた。勝利の余韻に浸っていたら結構時間が経っていたのだ。

 銅人形は歩く。なぜ走らないのかと言うと、体が少々歪なため、走ろうとするとバランスがとれずにこけてしまうからだ。

 やや空が明るくなり、光が戻り始めたこの隙間を銅人形は意気揚々と大手を振って歩いていく。


 そして歩くこと一時間ほど。

 突き当たりに来てしまった。

 一応右に道があるのだが、そこに行くと大通りへと出てしまうのだ。

 主人の命令では『人に見つかるな』というものがあった。なのに大通りへ出るなんて愚の骨頂。

 銅人形は頭を悩ませた。

 

「ニャ~」


 そのとき何かの生き物の鳴き声が聞こえた。

 銅人形は顔をそちらへと向ける。前面つるつるだからどっちが前だか分かりづらいが。

 銅人形が顔を向けた先には大きな毛だるまがいた。

 オレンジがかった肌色の毛で身をつつみ、鋭い爪と眼光、くねくねと動く毛に包まれた細い尻尾が特徴的な生き物だ。

 ついでによく見ればこいつは毛が深いというのか、もっふもふだ。

 

「!」


 そこで銅人形は閃いた。

 早速行動に移すため走り出す。

 向かうは、大通りへの道で寝そべっている毛だるまの生き物。

 銅人形は走って近づくと、その勢いのまま毛だるまの背中に突っ込んだ。

 『銅』に思いっきりぶつかられた毛だるまは、ふにゃっ! と大変驚いた声を出して立ち上がった。

 銅人形は振り落とされないようにがっしりと毛だるまの体に抱きつく。指があれば毛をガシッと掴むことも出来たのだが……生憎主人はまだまだ未熟で指まで作れなかったのだ。

 

 毛だるまは驚き、軽くパニックになりながら大通りへと飛び出した。

 計画通り、と銅人形はほくそ笑む。顔はないのだが。

 しかし、次の瞬間。


「!」


 毛だるまはあろうことか城とは反対方向へ進むではないか。

 銅人形は大いに慌てて毛だるまの体を叩く。

 だが、それは悪手だった。毛だるまを叩くため、片手を空けたその瞬間、毛だるまがぶるんっと体を揺らした。

 銅人形はたまらず振り落とされた。

 いいことを思いついたと思ったら、結果はより酷くなってしまった。銅人形は大いに焦った。

 とりあえずただの人形と思われるために動くことはよしておこう。

 そうして一旦銅人形は思考しようとするのだが……


ゴロゴロゴロ


 何かが転がる音が聞こえてきた。

 すかさず魔力の流れを感じて銅人形はそれが何なのか確認する。

 何かの生き物……そこから紐が伸びて……荷車……もしや、馬車?

 結論が出た銅人形は進行方向を確認する。

 あぁ…………

 結果はこちらへ向かってきている。しかもこのままだとちょうど車輪が銅人形の上を通ることになる。

 銅人形は魔力の流れで周りを確認する。

 人は?! 人はいないのか?! 

 人々は道の端に寄っており、道のほぼ真ん中に放り出された銅人形を拾おうとするやつなどいない。あのクソ毛だるま……

 最後の願いは儚く散った。


 しかし、ここで諦めるわけにもいかない。銅人形は主人に命令されたのだ。『門の近くに貼り付け』と。

 銅人形は少ない時間の中で無謀とも言える策を練った。

 この馬車は方向的に城へと向かうだろう。ならば上手いこと車輪にまとわりつけば一気に城門までいける。

 銅人形は再び腹をくくる。

 しかし、今度の覚悟は重い。

 成功すれば命令成功に大いに近づく。

 しかし、失敗すれば命令を守れない。

 人形として主人の命令を言われたとおりにこなせないことは恥なのだ。

 

 やがて車輪が目の前まで近づいてくる。

 あと五秒……四……三……二……一……!

 車輪が銅人形を潰そうかというとき銅人形はわずかに体を転がして車輪の内側へ避けると左右の車輪をつなぐ棒に飛びついた。Hの真ん中の棒にだ。

 

「お母さん! 今人形さんが動いた!」

「そんなわけないでしょ? あるとしてもえら~い人の家にある魔法人形くらいよ。こんなところにあるわけないわ」

「うぅ~、本当なのに~……」


 棒にコアラのように抱きつき、ぐるぐると回されながら安堵しているとふとそんな会話が聞こえた。

 一瞬銅人形は、主人に報告すべきか? と思ったが、親に信じてもらえなかったようだし、大丈夫だろうとそのままにしておいた。

 銅人形は改めて安堵し、ウキウキとしているような雰囲気を出した。

 これで命令達成できますよ! 主人! 待っててくださいね!

 馬車は何もないかのようにゴロゴロと進んでいった。










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「はっ!?」


 俺はすごい勢いで上半身を起こし、文字通り飛び起きた。

 足を投げ出した状態で座る俺は今見たへんてこな()を思い出し、嘆息した。

 

「俺、疲れてんのかな……?」


 額に手をやり、そう呟く。

 意識してみれば、確かに頭が少し重い気がする。

 そう認識したならばやることは一つだ。


「至福の二度寝タ~イム」


 俺はバタンとベッドに倒れこんだ。

















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