最終話「壊す者」
今宵は満月。
天気は曇天でありながら月を避けるように雲は進んでいく。
まるで月が地上を観察するのを邪魔してはいけないとでも言うように。
俺、門兵をやっているリチャードは最近の事件で厳しくなった門の通行を管理している。
通行が厳しくなった原因。連日の謎の爆破事件。
それに関しての手がかり証拠証人は何もいない。
生き残りに聞いても爆弾らしきものはなかったのこと。
しかも爆破したのはギルドと城へと続く門だ。城の門に関しては大臣まで爆破に巻き込まれてお亡くなりになられてる。
関連性なんて見つからない。
そして動機も分からない。
城だけなら帝家に恨みがある者などの仕業かもしれないが、そうなるとギルドも爆破した原因が分からない。
関連性があれば対処のしようもあるというものの…………
そうこの事件の一番怖いところは、なんの予告も予兆もなくいつどこで爆破するのか分からないことだ。
まだ二つだけだが、これで終わるとは到底思えない。
こちらは犯人の手がかり一つ掴めていないのに。
無作為に死をばら撒く殺人者め。正義の名の下に絶対無残に殺してやる。
そのためにまずは商人の荷物検査を終わらせてしまおう。そこに隠れているとも分からないからな。
そうやって一つの荷車を調べようとしたリチャードは突然、光に包まれその生涯の幕を閉じた。
「うっひょ~、やっぱ夜の花火はいいもんだねぇ。きたねぇけど」
城壁の上まで上りつめた俺は商人に渡した銅銭を爆破させてそちらへと意識を集中させた。この隙に俺たちは脱出しようという魂胆だ。
それにしても爆発って結構光るもんなんだな。すっげぇ綺麗だった。すぐにきたねぇ花火に変わっちまったけど。
それにしても明るいな。
俺は今日はやけに明るいと感じて空を見上げる。
そこには雲の隙間からこちらを覗く大きな満月があった。
他には星一つ見えない。それはここが異世界だからとかそういうわけじゃなくてただ単に今日が曇りだからだ。
う~ん、なんだかいいことが起きそうな夜だな。
俺は嗤うと城壁を降りようと端へと手をかける。
もうこれで帝国を見るのは最後になるな。
ま、大して思い出とかないし、目に焼き付けなくてもいいか。
「さぁて、そんじゃ、お前らは町のいろんなところに行ってこい」
俺は城壁の淵に手をかけて降りる体勢に入ったところで懐から小さな人形を五つ取り出す。
全て月明かりを受けて白銀に輝いて見える。
そうこの五体の人形は全て爆弾化したゴーレムだ。
この数日間なにもしなかったわけじゃない。毎日一個ずつ銀をゴーレムに変えていたのだ。
商人に銅の爆弾を渡したせいで少し延びちゃったが、それはまあいい。
とにかく、銀爆弾の威力は保障できる。だから置き土産とばかりにゴーレムたちを散り散りに配置させておくのだ。
「おらよっと!」
俺は一体ずつ握ると街中へと放り込んだ。銀だし丈夫だから大丈夫だろう、と思ってのことだ。
それを残りの四体全部終えると、ようやく城壁を降りていく。
城壁は確かに掴むところがないが、俺の作った銀の鍵爪があれば全然余裕だ。一点集中で刺せばちゃんと刺さる。
ちょっとうるさいが、爆発での喧騒の方がうるさいし、まあ大丈夫だろう。
ちなみに行きは音を無視してきた。ばれなかったのは幸運だな。
俺はガンガンと音を立てながら降りていく。
草原を走る俺の頬を風が叩く。風圧のせいで目を開けていられない。
足元は月明かりのおかげでよく見えるが、この風はどうにもならない。
向かい風ってこんなにつらかったっけ……?
俺は現在城壁を無事に降り、草原を走っている。
実は今俺らが纏っている隠蔽魔法【闇と化す魂】は魔力の消費が半端ないそうだ。
つまり、あと少しで俺らは門兵に見つかってしまうってことだよ!
草原には遮蔽物が何一つない。しかも運の悪いことに今日は月明かりでかなり視界が良好だ。誰だ、今夜は満月でいいことあるかもなんて言った馬鹿は!
ともあれ、今は走らねばなるまい。
俺はくそぅ、と思いながらも全力で走り続ける。
一分くらいでばててきた。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ」
「兄貴、そんなんだと俺の魔力がもたねぇぞ」
「わか、って、る、っての」
やばい、もう体力がほとんど残っていない。
普段から動かずにいたからだ……何故か太りはしなかったけど。
それより、俺って本当にダメだな。ペース配分とか考えとけよ。なんだよとりあえず全力ダッシュって。脳筋か?
顔を必死に前に向ければかなりとおくに森が……
「あぁ、まだ遠い……」
「もう半分まで来たから頑張れ」
イルが何故か励ましの言葉をかけてくる。
なんで急にそんなこと言うのか分からない。てか考える余裕がない。
とにかく今は重い体に鞭打って走るのみ!
俺は死にそうになりながらも走り続けた。
「二度も、死んで、たまる、か」
なんとかイルの魔力が尽きる前に森へたどり着いた俺ら。
イルはもともと獣人ということもあり身体能力が高いのか、魔力切れ寸前になっても平然と俺と並走していた。もう悔しいなんて思わない。
まあ、イルの妹はお察しの通り。超余裕のよっちゃんですよ。
なんか俺一人だけ両手両膝地面につけてゼーハーゼーハー言って…………虚しい。
ともあれ、なんとか無事に森まで逃げれたようだな。
全く、一時はどうなるかと思ったよ。
俺は城壁へと視線を向ける。
城壁はなにやら騒いでおり、ここまで喧騒が届く。
なんだろうな、お祭りでもやってんのかな?
それを起こした張本人が何を言う、と自分で言ってみる。
なんだか上手く思考がまとまらない。酸素! 酸素をくれぇ!
「兄貴、大丈夫か?」
おいイル小さく、そのまま死ねば良いのに、って聞こえたぞ。これってあれか? 罵倒は罰に含まれないのか?
まあ、今は許してやろう。俺も疲れているんだ。
うん、そうだ疲れてるんだ。寝よう。
「おい、イル。俺は寝るからしっかりと見張りと護衛やっとけよ」
「…………分かった」
俺の意識は疲れていることもあってかすぐに落ちた。
翌朝。瞼の向こうからの光が強まってきたので起きることにする。
上半身を起こしてみれば凝り固まった体の節々が嫌な音を上げる。
それにしても…………あまりにも無用心だったな、俺。いくら森だといってもまだ入り口も入り口のところで寝るなんて。
門兵が調査とか来てたら即アウトだったぞ。
まあ、結果オーライってことでいいか。反省終わり!
ところで…………と周りを見渡す。
「っと、イルお前寝てないのか?」
「……護衛しろって言われたからな」
ああ、確かにそんなこといったなぁ。
ちなみに妹の方はちゃんと寝ている。
「じゃあ妹の代わりに寝ていいぞ」
「……ああ」
イルはそう返事をすると、チア起きて、と妹の方を揺すり始めた。
妹は寝ぼけ眼をこすりながら起きて、イルに何かを言われるとコクンと頷いた。
そしてそこに妹の代わりと言ったとおりにイルが寝始めた。
ふむ、ちゃんということは聞くんだな。反抗的な態度は改まったと見ていいのかな?
ま、いいや。最悪妹を脅しの道具に使えばいい。妹の体に爆弾を埋め込んだー、とかいって。
その脅す道具はぼーっと俺のことを見てくる。
なんの感情も示さない瞳で、俺を吸い込まんばかりに見てくる。見てくる……
「ハッ!」
俺は軽く催眠状態っぽくなっていた状態から覚醒した。
なんだこの子は、危険だぞ。
とりあえず妹の目は見ない、と心のメモ帳に刻んだ。
さぁて! 最後のパーティタイムだ!
一晩経ち、ゴーレムも移動を完了している。
今回は、円状に広がっている帝都の五箇所に等間隔でいるように指示してきました~。
なお、銀製の爆弾のみの使用となっております。
さあ! どんな綺麗な花火を見せてくれるのでしょうか!
軽く変なテンションになりながら俺は木の上で町を眺めていた。膝の上には妹の方を乗せて。イルは寝ている。
さて、今回は今までとは全く違う規模の爆発になるだろう。昨夜のあれであんな騒いでいたんだ。どんな阿鼻叫喚の地獄絵図を見せてくれるのかな? 非常に楽しみだ。
俺は足をプラプラとさせて映画を待つ子供のようにウキウキとした気分で時を計っている。
今は太陽が昇って結構時間が経った頃。多分八時くらいだ。
この時間はまだだ。八時半ほどに仕事場は一旦休憩を入れている。爆破のタイミングはそこだ。
みんなが気を抜いてリラックスしているときに急な大爆発。
崩れる建物。下敷きになる家族、友人。跡形も残らなかった親友。それを見て嘆き悲しむ人々。怒り狂う人々。呆然とする人々。
どれを想像しても楽しい。楽しすぎる。
俺の口角は自然と釣りあがっていく。
多分俺は今嗤っているのだろう。
まあ、当たり前だな。俺は今非常に愉快なのだ。愉快なら嗤う。当たり前のことだ。
悲しければ泣くし、嬉しければ喜ぶ。人というものはそういうものだ。
だから俺は嗤う。
爆破で見れるであろう様々な人の反応を想像しては嗤う。
嗤う。嗤う。嗤う。
ケタケタ、イヒヒ、ケラケラ、カラカラ。
………………そういえば俺は何故こんなことをしようと思ったのだろう。
なんで国を吹き飛ばそうなんて思ったのだろう。
俺は別にこの国に恨みなんてこれっぽっちも持っていない。なのになんでだ?
よく分からない。
…………やばいな。俺は俺が分からない。
何をどうしてどうしたいのか、どうなったら良いのか、どう変われば良いのか、どんなことが起きて欲しいのか。
あぁ、分からない。分からない。俺は俺が分からない。
………………そうだ、分からないなら全部壊しちゃえばいいんだ。
そうだそれだこわせばいいんだなにもかもぜんぶちりものこらずすべてをのこらずこっぱみじんにかけらものこらずなにものこらずすべてをすべてをすべてを…………
「爆破」
俺がそう唱えた瞬間大地が揺れる。
五つの爆発音が重なり、空気を震わせる。
爆発の衝撃波が木々をなぎ払う。
爆破によって崩れる建物の音がする。
しかしなんでだろう。悲鳴が上がらない。
すっごい楽しみにしてた悲鳴が上がらない。
すごく残念だ。本当に残念だ。
ていうか、ここからじゃ中まで見えないけど多分城壁の中は全部吹き飛んじゃってるのかな? それなら悲鳴が上がらないのも納得。
悲鳴を上げる物がないもんね。
そうだね、そうかならしょうがない。
と、ここで俺は俺の上で足をプラプラさせている妹の方に気がついた。
上から顔を覗き込んでみれば………………嗤っていた。
幼女がこんな表情をするのかというほど口角を吊り上げ、歯をむき出しにして、嗤っていた。
「妹の方、よかったなぁ、嗤えて。感情を一つ取り戻したんじゃないか?」
妹の方は真っ直ぐ物言わぬ都となった帝都を見つめていた。
さて、帝都は壊滅っぽいな。
とにかく俺は全てを壊すべく次の町へ行かないと。
そうだ、全てを壊さないと。全てを。すべてを。スべテを。スベテヲ。
俺は木を降りるとふらふらとどこへともなく歩いていった。
「さいっこうにいいですね!」
深い霧の中恍惚の表情で叫ぶ影が一つ。
それはずっと影から主人公たちを見ていた。
「あなた、本当に最高ですよ。根回ししたかいがありました」
そう言った影は影なのに哂った気がした。
「そうです、そのまますべてを、この世のすべてを壊し続け、やがて…………」
影は霧の中へと消えていった。
精神的に危ないんで終わりますwwww
正直に言えばなんか最後の方投げやりでしたし、あんまやる気が……ねぇ。
でもとりあえず完結はさせたいんでこんな感じにしました。
気に入っていただけたら幸いです(ないだろうけどww)
では、次回作(今連載中のやつも頑張りますけど)でお会いしましょう!




