第十七話「ゴーレム」
組合謎の倒壊事件から数日が経った昼下がり。
俺は変わらず宿でゴロゴロとしていた。
あれから謎の倒壊事件の犯人と倒壊させた方法を憲兵らしきやつらが探しているが、俺のところに来る気配は全くない。せっかく夜逃げの準備とかしてたのにな。
そして現在俺の手には銀銭が握られており、それを見てはニヤニヤが止まらなくなっている。
イルとその妹は露店で何か適当なものを買わせに行かせている。
「あれからのレベルアップ…………半端ないな。やっぱり質より数を稼いで正解だったか」
俺はレベルアップにより、大幅な魔力の増加と持ち爆弾の増加がなされた。
魔力は銅なら三つまで注げるように、持ち爆弾は六つまで増えた。法則はわからん。
ちなみにあらたに銀に挑戦したら気絶した。銀は銅三つまで平気だった俺の魔力を根こそぎ持っていくほどのものだということが分かった。これは威力も期待できるな。もちろんちゃんと保管してある。
現在の俺の持ち爆弾は銅銭が五つ、銀銭一つだ。
ちなみに金銭もやってみようとしたら弾かれた。持ち爆弾は余裕があったし、おそらく魔力が足りないのだと思われる。
さて、俺はこの数日で国はあの事件の犯人が分からないと推測した。俺の予想では、魔力の残骸が~、みたいなのが出てくるかと警戒してたんだが、それもないみたいだし。
だから今度は城をぶっ飛ばそうぜ! と思ったけど、やっぱりというか、警備が厳重になっていて行けそうにない……先に城ぶっ飛ばしといた方がよかったかな? でもあの時だったら火力が足りなかっただろうし。
っと、思考の堂々巡りは止めておこう。無駄だ。それに『たられば』の話はあくまで『たられば』だからな。
つまり、これからどうするかってのが問題なんだけど…………なんもすることないよね~。城の警備は厳重だし、またどっかで爆破させたらもっと厳重になるだろうし。
俺はベッドでゴロゴロしながら、う~んう~ん、と考え続けた。
しばらくゴロゴロとして疲れてきた頃、俺は動きをピタッと止めた。
そしてボーっと虚空を見つめたまま呟いた。
「ゴーレムでも作るか」
俺の魔力属性が土で、特に適正のあるゴーレム作成。まだやってなかったな、と思い出しやることにした。
とりあえずどっかの裏庭とかでやろうか、それとも帝都の外……はさすがに無理か。爆破事件での犯人をみすみす逃がすわけがないしな。
とりあえず宿のおばちゃんに聞いてみるかな。
よし、そうと決まれば早速行動開始だ。
俺はのっそりと起き上がり、これまたのそのそと歩き出した。
辺りは薄暗く、建物に囲まれているこの場所。俺の泊まっている宿の裏庭だ。
ゴーレム作りをやろうと決めた俺が場所を求め宿のおばちゃんに聞いたところここを紹介してくれた。しかもタダらしい。いよっ! 太っ腹! (物理)
さて、そんなことはどうでもいいとして、まずはゴーレム作りで聞いたことの復習だな。
なんでも、ゴーレムを作るのに詠唱はいらないらしい。
何故かと言うと、そもそも詠唱とは術者の中のイメージを確固たるものにするために言うらしい。詠唱をすれば多少イメージが曖昧でも魔法は発動されるというわけだ。
そこで、何故ゴーレム作りに詠唱がいらないのかというと、別に人の形をイメージするのなんか簡単だろ?ということだ。
先ほど言ったように魔法とはイメージだ。イメージしてそれを魔力を使うことによって現実に干渉させる不可思議な技術。
とまあ、長々と思い出したが、最後の一文だけ俺の妄想が溢れてしまった。反省せねば。
ようするに、土属性の魔力を使って自分の作りたい形のゴーレムを想像すればいいわけだ。やろうと思えば国民的RPGのド○ゴンクエ○トのあのレンガのやつみたいなのも作れるのだ。どうやって動くのかは分からないが。特に関節とか。最悪動かないなんてことも…………
っと、また脱線しそうだった。ゴーレム作りだったな。
とりあえず詳しいことはわかんないから俺の中のイメージでやるしかないな。ふふふ、ようやく俺の妄想が役に立つときがきたか。
まずはしゃがんで、両手を地面につける。やや湿っぽくて冷たい感触が掌に伝わる。案外ふわふわでジャリジャリした感触はないな。
そしてその感触を体全体で感じて、自分と大地を一体化させるイメージを持つ。ここらへんの妄想は大得意だ! 常日頃から無駄な妄想垂れ流しにしてたわけじゃないぜ!
目を瞑ると、肌寒いくらいの温度がより一層肌身にしみる。遠くからはガヤガヤと喧騒が聞こえ俺が出てきた宿からはかすかに料理のいい匂いが漂ってくる。
視覚という周りを知覚するのに大健闘している感覚がなくなったことにより他の感覚が鋭敏になってんだな。ほら、砂の一粒一粒までも分かるようだ。あくまで比喩だが。
十分感覚をつかんだら魔力を地面に流して行く。俺の想像では、地面に魔力を流して土を操り、人型に作っていく、という感じだ。
だからなかなかの大きさを作ったとしたら、そのゴーレムを中心に小さなクレーターが出来ていることだろう。地面の土を使って作っているのだから。ちなみにあくまで想像だ。もしかしたら召喚魔法みたいに魔法陣がぶわっと出てきてそこからゴーレムがゴゴゴって出てくるかもしれない。ま、それはやってからのお楽しみってことで。
魔力が感覚的にかなり広がったところで、魔力が含まれた土をうねうねと動かして行く。もちろんまだ目は瞑ったままだ。
俺の前方約二mあたりに人型を作り出そうとする。想像ではマネキンだ。ただ顔はのっぺらぼうで。
まずは足を作りしっかりと地面に固定する。てか地面と一体化させてる。作ってる途中でバランスが悪く、倒れて壊れるとか嫌だもん。
そして徐々に脛、膝、腿、腰と作っていく。俺は自分の想像の中で上手く行っていることに満足気に頷く。
肩まで出来、腕を作るのが苦労したがなんとか出来たと思う。ちなみに作る時の感覚は作った足とかの上を土を這い上がらせて形作っていく感じだな。あれだ、人間ピラミッドの縦一列バージョン? 一人の上に一人が乗ってその上に、またその上に、みたいな。
と、ここまで考えたところで思いついた。
今思ったけど頭から作った方が良かったんじゃね? …………もう遅いか。
っと、作業が止まってたな。再開再開。
俺は目を瞑ったまま作業を続けた。もう頭だけだけどね。
頭まで作り終えた俺は、俺の体温でやや暖かくなった地面から手を離し一息つく。
「ふう……なかなか集中力のいる作業だったな。ゴーレム一体作るのにこれだったら俺はもうやめるぞ。ま、なんでも慣れだよな。慣れたら一瞬で十体くらい作れるだろ。想像は得意分野だし。ドヤッ!」
俺はまだ目を瞑ったまま独り言を呟く。最後のドヤッまでちゃんと言ったぞ。
そして俺はゴーレム作りに確かな手応えを感じながら目をゆっくりと開いていく。
目を見開いた俺の瞳に映ったゴーレムの姿は……
「…………え?」
…………酷く、歪な、化け物だった。
足はあらぬ方向に捻れ、腿から胸元まではところどころぶくぶくと水膨れになっていたり、逆に細くなっていたりしてボコボコしており、肩から腕など枝分かれしていて腕が何本に見えたり、さらに頭なんか卵形どころか丸にすらなっていなかった。言うならば瓢箪。しかもトゲトゲした。
俺はこれらを見て決して人間の体とは思えなかった。
「うげぇ、何間違ったかなぁ」
もうかなりめちゃくちゃなものが出来上がり、俺は自然とそう呟いていた。
ただゴーレム(っぽいもの)の足元を見ればクレーターになっているので俺のやり方はあっていたのだろう。現実にある土を操って作るって方法は。
俺はちょい反省して、まだ魔力残量に余裕があることを感覚的に確認するともう一度作ってみることにした。
今度は目を開いて制作途中をはっきりと見て修正も入れていく。ついでにさっき思いついた方法でやっていく。
まずは目の前の失敗作をぶち壊す。
「どりゃ!」
ボゴォ、みたいな音がして胴が真っ二つになり崩れ落ちる。落ちた衝撃で結構バラバラになったので、それをガンガン踏みつけて粉々に。
あらかた地面が元に戻ったところでゴーレム作りに入る。
両手を地面につけて大地との共鳴。
…………よし、次。
失敗作を壊して埋め立てたところに魔力が行き渡っているのでそれを真ん中に集める。場所はさっきと同じだ。
そして集めたところから頭を作っていく。頭が出来たら今度は肩。首はなんか難しそうだったからパス。作っていく度に上へ上へと押し上げていく感じで作る。
肩から下は腕も同時に作って行くので慎重に行く。魔力操作って手が何個か増えた感じで難しいな。思えば、ゴーレム作りなんて一番難しいんじゃね? だって自分じゃない手を何個も使って人形を作るんだぜ? 自分じゃない手とかはっきりいって指とか動かせない。出来るのはグーとパーくらいだ。
っとまた余計なことを考えた。作業作業。
俺は少し気怠くなってきた体に鞭打って魔力を使い続けた。
時折失敗したと思えばまた地面に戻して作り直す。指は面倒なのでパス。手首まででいいや。
そのまま作り、最後に足を作って完成だ。足は踏ん張れるように靴みたいな形になっている。さすがに棒だと倒れそうだし。
俺は完成したのを確認してから立ち上がり、その自信作をまじまじと見る。
「おー…………」
思わず感嘆の声が漏れた。
ゴーレムは失敗作に比べればかなりマシなものになっていた。
頭はまん丸とはいかずも、頭だと分かる形に。肩は撫で肩でなんか思ってたのと違うがちゃんと肩になっている。腕はやや太めで不恰好だが、くの字に曲がっていたり腕になっている。腰は何故かくびれが出来ており、あれ? と思ったがまあ許容範囲内だろう。脚も前よりはボコボコも減っており脚っぽくなっている。膝がないけど……
とにかく、初めてのちゃんとしたゴーレムに俺は少し感動していた。
しばしの間しみじみと心にこの感じを刻んでから、俺はゴーレムに命令を下して見ることにした。ふと気付いたのだが、こんなことを考えている間も徐々に魔力が吸い取られているのだ。ゴーレムは存在を維持するだけでも魔力を使うって本当なんだな。
俺は自分の残存魔力量を気にしながらすぐに口を開くことにした。
「歩け」
基本中の基本。歩くという動作を命令してみる。
ゴーレムの足はいまだ地面とくっついているが、まあなんとかするだろう。無理なら足首を折ればいい。
ゴーレムは俺の命令を受けてコクッと頷いた。それだけの動作でも俺は、おお、と驚いた。どうして首折れないんだろう? という疑問を持ちつつ。首がないと自分で言っておきながら、首が折れるとはこれいかに。
ゴーレムは膝のないはずの脚の、膝があるだろう部分を曲げ、グッと持ち上げて足を地面から離した。ここでまたも俺は驚いた。膝がないのに膝があるだろうところが曲がっているからだ。わけわからん。ま、ここは、マホウスゲー、でいいだろう。
足はちょうど足裏らへんから離れており、頑張って作った靴は健在だった。そのおかげかゴーレムは真っ直ぐに歩いていく。
「やっべ、これ成功じゃね?!」
俺が歩くゴーレムを見て一人はしゃいでいると、ゴーレムは壁にぶつかった。
歩け、としか命令してないからか、ゴーレムはそのまま進もうと足を前に出そうとする。そのせいで膝が壁にガンガン当たっていた。
この光景を見ていると、ドゥン、と昔のRPGゲームで進めない方向に進もうとしたときに出る効果音が頭に流れる。現実はドンッドンッと壁を膝蹴りしているのだが。
面白がってみているとボロボロと何かが落ちているのを発見し慌てて命令することにした。土だからか?! そんな脆いのは土だからか?!
「壁に当たったら方向転換してまた歩け!」
そういうとゴーレムは壁に一度膝蹴りを食らわせた後、クルリと体を回し、歩き始めた。
しばらく見ていると、また壁にぶつかり、方向転換して歩き始めた。ちなみに方向転換の角度は適当っぽい。
……これはあれだな。小学校の技術の授業でやったプログラミングみたいだな。今回は大分簡単かつ楽だけどな。
ゴーレムは言われたとおりの行動しかしない。それは当たり前か。
でも、歩け、みたいにシングルアクションだけじゃなくて、○○をしたら○○をしろ、みたいに二つの行動をつなげることも出来るみたいだ。
もしかしたら指示の出し方次第で大分柔軟に動くこともできるんじゃないか? 俺の能力が試されるというわけか……プ、プレッシャー……
とにかくどれだけ柔軟に動けるかはこれからの検証次第だな。あ、あとゴーレムに生き物を殺させたら階位はどうなるかも検証せねば。あ~、階位とか感覚だからわかりずらいんだよな。
そんな感じで俺はゴーレムの検証で一日を過ごした。




