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第十六話「嗤う」

 まだ朝日も出ていない時間に俺は起きた。

 昨日は露店通りから出た後、普通に組合へ行き、ジョウロを納品してすぐに宿へ帰った。受付がジョウロの多さにやたらと驚いてたな。あ、ジョウロって薬草だぞ。たまにいっとかないと水やりのと間違えちまう。

 そして宿で寝たのが日が沈んですぐだった。多分六時くらいか?

 そんなわけで、自動的に起きるのも早くなるわけで、まだお日様さんも顔を出さないうちに目が覚めたってわけだ。


 視線を横へ向けると、両脇には俺が暖房代わりに抱いている奴隷の二人。昨日は尻尾がやけにふさふさで気持ちよかったからもふもふしながら寝たな。

 昨日の夜のことを思い出して寝起きにちょっともふもふする。

 もふもふはやっぱもふもふで気持ちがいい。

 しかし、なんだか触り心地はあんまよくないな。毛が汚れているというか。

 と、ここで俺は思い至った。風呂に入ってねぇからだ、と。

 宿に入ってからは手ぬぐいと水で体を拭いてたりなんかしていたが、やっぱり毛とかは汚れ落ちないよな。

 俺は自分の髪を触ろうとして、なんか汚れてそうだから引っ込めた。

 

「よし、風呂がないか聞いてみるか」


 俺は小声でそう呟いて二人を起こさぬよう腕を抜いて起き上がる。

 ってなんで俺が気を使ってんだか。

 変なところに気がついて心でそう吐き捨てながらベッドから出る。

 

「んぅ~ん」


 伸びをすればパキパキと骨が鳴り、固まった体が少しほぐれる。

 少し体操のようなものをして、体から気だるさが抜けきっていることを確認して俺は銅貨を取り出す。

 銅貨に意識を集中させ、握る。

 いつもとは少し違って、全力の半分くらいの力で握る。

 そして五秒。

 体からギュオンッと何かが抜ける感じがして体がだるくなる。

 

「はぁ…………失敗か」


 俺はもう一歩も動きたくない、動かない体を思ってそう呟いた。

 今俺がした検証は込められる魔力は変動させれるのか? というものだ。

 しかし、結果はこの通り。魔力は常にその物質に込められる限界まで搾り取られるようだ。

 昨日宿に帰ってから思いついたこれは昨日もやってみたのだが、失敗した。ついでに気絶した。魔力が本当に空になったからっぽい。

 これは俺の実力不足か、はたまた必然なのか分からないが、とりあえずはこういう結論で落ち着こうと思う。

 ちなみに、この宿とか大きな建物を丸ごと爆弾に出来ないか、とかも思ってやってみたのだが、ダメだった。限界個数以上の爆弾を作ろうとしたときのように弾かれた。もちろんそのときは作っていた爆弾はゼロ個だ。

 

 昨日のことも加えて考察していると何かが動く気配がした。


「んにゅぅ……」


 見れば寝ぼけ眼を擦りながら上半身だけ起こすイルの姿があった。

 てかなんだその寝起きの声は。小説ではよくあるが、現実で本当にあるのかよ。

 やたらと可愛いと思われる鳴き声? を聞き流しつつ俺は声をかける。


「今日は風呂がないか探しに行くからな」

「……ん」

「まあ、軽く探すだけでなかったら川でも探すか」

「……ん」

「……まだ早いし寝てていいぞ?」

「……ん!」


 イルは若干うれしそうな返事をしてバタンと倒れるように眠りに入った。

 むぅ、それはいいとして、やることないし瞑想でもしてみるか。

 俺は太陽が顔を見せるまでの間、前に考えた空気中の魔力を感知して吸収してみるというのを試してみることにした。













「おはようございます」

「おはようございます」


 組合の受付嬢の挨拶に返しながら俺は依頼書を差し出す。

 太陽も顔を出し、すっかり人間の活動時間になったので俺は何か面白そうな依頼を探すために組合へと来ていた。

 そして現在イルの翻訳で見つけた面白そうな依頼を受けるところだ。


「これお願いします」

「はい、分かりました。…………北の山脈の中腹にできた悪鬼の巣の掃除ですね。期限は一週間です。それを超えたら依頼失敗となりますのでご注意を」

 

 やっぱ薬草の次はゴブリン退治でしょ!

 俺が選んだ依頼とはゴブリン退治であった。

 こっちでは悪鬼(あっき)って言うらしいけど、特徴を聞いたら完全にゴブリンだった。

 緑色の体に、醜い顔。百三十cmほどの身長というまさに絵に描いたようなゴブリンだ。

 薬草改めジョウロでは特にこれといったイベントらしきものもなく、無事に終わってしまったが(いや、いいことなんだけどね?)、ゴブリン退治なら何かしらイベントがあると俺は睨んでいる。

 てかぶっちゃけるとあんま刺激的なことがなくてつまらん。

 そんな感じでしょうもない理由でゴブリン退治を受けたのだった。

 ちなみに掃除ってのは普通に討伐って意味でいいらしい。特に深い意味はない。

 

 かくして俺はゴブリン退治のため、俺が入ってきて城門とは反対側にある山脈へと向かうのだった。


























































「やっぱや~めた! つまんねぇ!」


 俺は北側の城門を出てしばらく歩いたところで叫んだ。

 後ろでびっくりしたのか、ビクッとなる気配がしたが置いておこう。

 それより、ゴブリン退治なんだけど、なんかどうでもよくなってきた。てか面白そうに思えない。

 確かに冒険者になったらやりたいクエストナンバーツーくらいにはなってたよ? でもなんかいざやろうとするとそうでもなくなってきた。


「というわけで、あの城爆破してみっか」

「は?」


 銅貨、つまり銅であんなに威力があるんだ。銀とか金でやったらもっと威力は上がるだろう。希少価値的にもそんな感じだろうし。

 本当はミスリルとかのほうがすごそうだけど、確実に魔力足りないからな。てか金でも足りるか分からん。

 あ~、そうなるとレベル、もとい『階位』上げた方が確実か~。めんど~。

 わけが分からず呆然としているイルは努めて無視して考える。

 う~む…………あ! いいこと考えた~!

 俺はニンマリと笑みを浮かべるとイルを見た。


「ヒッ!」

「ヒッ! ってなんだよ。まあ、いい。とりあえずほい」


 俺は何故か怯えたイルに向かって銅貨を投げ渡す。

 イルはそれを危なげなく受け取り不思議そうな顔でこちらを見る。

 それに答えて説明をする。


「おう、それゴブリンの巣に投げ入れて来い」

「え?」

「それゴブリンの巣に投げ入れて来い」

「え? そういうことじゃ……」

「それゴブリンの巣に投げ入れて来い」

「……………………」

「それゴブリンの巣に投げ入れて来い」

「分かったよ! 行って来る!」


 言葉巧みにイルを説得した俺は爆弾を渡して走らせた。

 俺の考えたこととは、単純明快。爆弾をゴブリンの巣に投げ入れて爆破するってだけだ。そうすれば多分かなりゴブリン殺せるし、巣が洞窟だったら崩れて更に殺せそうだしな。

 

 俺は走り去るイルの後姿を一瞥すると、くるぶしほどの高さの草を踏みしめ、ルンルン気分で宿へと戻るのだった。










 宿へ戻り、待機すること数時間。

 太陽がもう少しで真上にくるというときにイルは帰ってきた。

 一応イルのことを考えて閂を外しておいたのでバンッと勢いよく扉は開いた。もっと静かに開けれないのかね?

 ともあれ俺は早速結果を聞きだす。


「お~、置いてきた?」

「ああ、ちゃんと奥の方に投げ入れてきたぞ」

「よしよし。で、巣って洞窟だった? それとも村的なやつだった?」

「洞窟だった。あと、悪鬼は結構な数いたぞ」

「よ~しよ~し」


 俺は満足気にうんうんと頷いて意識を集中させる。

 今はゴブリンの巣にあると思われる爆弾しか作っていない。つまり、念じれば普通に爆発するはずだ。あ、距離的なやつが関係なければ。

 俺は走ってきたからか、やや汗をかいているイルに労いの言葉をかけてやる、目を瞑り一つしかない俺の爆弾へと意識をもぐらせる。

 ん~っと、ん~っと…………あった!

 なんとなく感覚でこれだ! というものが見つかった俺は早速それに向かって念じる。


(【爆破(エクスプロージョン)】)


 やはり、感覚で爆破が成功した感じを受けとる。

 俺はベッドに腰掛けたままゆっくりと目を開く。


「よし。多分おっけーだろ」

「上手くいったの?」

「おう、感覚的にだけどな」


 訝しげな顔で見てくるイルに、でーじょうぶ(大丈夫)、と声をかけてやり、ゴロンと寝転ぶ。

 と、そのとき。


「お? なんか心臓のあたりがブオッてしたぞ?」


 心臓発作か? と変なことも考えたが、すぐに真面目に考える。

 おそらくこれはレベルアップだろう。

 魔力総量が上がるとか言っていたが、この心臓がブオッとなるのが魔力総量の上がった証なんだろう。

 よしっ! と思うのと、距離が離れてても爆破に影響はなし、と二つのことで俺はガッツポーズをとった。


「よっしゃ! 多分『階位』が上がったぞ~」

「え? 本当?」

「ゴブリンたくさんいたんだろ? なら上がってもおかしくはないだろ?」

「そうだけど……」


 何故か不満そうなイルを無視し、俺はやや回復した魔力を振り絞ってもう一度銅貨を爆弾に変える。

 ふふふ、これがもう一つの作戦よ。

 ポーチから銅貨を一枚取り出し、ギュッと握って五秒。

 まいどのことながら体の芯から何かを吸いだされる感覚にびくりとしつつ、爆弾を完成させる。

 

「ほい」


 俺は寝転んだ姿勢のまま、またもイルにそれを投げ渡す。寝転んだままなのははっきり言えば動けないから。すんげぇだるいんだもん。

 イルはまたも突然渡された銅貨を危なげなく取り、怪訝な顔で俺を見てくる。

 俺は視線を天井へと固定して話し始める。


「イル、それを組合のどっかに置いて来い。あ~、あのたくさんある椅子の中の一つでいいや。そこに座って去り際に自然に置いて来い。それと、これは人がいなかったらやるな。目立つからな。ま、注意事項はそんくらいだ。一番大事なのはお前が何か怪しいことをしたってことを悟らせるな。んじゃ、頑張ってきて~」

「え……? っていっても無駄なんだろ? いってきます」


 よくわかってるじゃないか、と言いながら俺はイルが部屋を出て行くのを気配で感じていた。

 って扉閉めてけよな。

 

「扉閉めて~」


 俺はだるそうな声で妹の方に命令する。

 俺と同じようにベッドに寝転がってた妹は命令通りに扉を閉めてくれた。


「あ、閂も~。イルが来たら開けてあげて~。あ、あと宿の主人も~」


 カタン、と閂をする音が、大通りから聞こえる雑音にかき消されずやけに大きく部屋に響いた。

 



















 やや気温が下がり、大通りの人々が住処(すみか)に帰らんとざわざわとしだす頃。オレンジ色の夕日に照らされながら俺はタイミングを計っていた。


「なあ、兄貴。本当にやるのか?」


 窓から大通りを眺める俺にイルがわずかに震える声で俺に尋ねてきた。

 俺は城壁などで見えないほどに沈んだ夕日の方向を見ながら答える。


「ん~? 何がそんなに怖いんだ? 何も怖いことなんかないじゃないか」


 むしろ楽しみだよ、と俺は呟く。

 イルの声が震えていることから怖がっているだろうと思って返した言葉はイルの力強い言葉で否定された。


「違う! ……ただ、あんなことを本当にやるのか…………」

「どこからかバレるのが不安なのかな?」

「ちが……!」

「それとも! ……たくさんの人を殺すことに戸惑いでも感じているのか?」


 イルの否定の言葉を遮り、言いたいであろう言葉をはっきりと言ってやる。

 

「…………」


 どうやらあたりだったようで後ろからは重たい空気が流れてくる。

 

 今回俺がイルにやらせたのはゴブリンの巣の掃除と同じだ。

 冒険者組合に爆弾にした銅貨を置いてこさせ、それを人が一番集まるであろう依頼の報告をする夕刻に爆破する。

 これによってたくさんの冒険者が死ぬ。ついでに建物も倒壊して周りの人も死んだらなおよし。

 これによって生じるメリットは大幅なレベルアップ。

 人間は魔物などよりよっぽど経験地的なのは得られないと思うが、一般人より強い冒険者ならたくさん経験地も入るであろう。これが冒険者組合を爆破地点に選んだ理由。

 そしてデメリットは万が一爆破したのが俺だとバレた時に命を狙われることだろう。

 まあ、だからどうしたというわけだが。むしろスリリングな毎日が始まるのでメリットともいえよう。

 ぶっちゃけ、どんな風に転がっても俺が楽しめるから問題な~し、ということで。


 そんな感じでメリットデメリットについて考えているとイルが口を開いた。


「同じ種族を殺すことに忌避感はないの?」

「お~、忌避感なんて難しい言葉よく知ってたね~」

「茶化さないで答えて」


 なんかいつになく真剣な声色のイルに俺は嘆息しながらも答えを探す。

 別にあいつは奴隷、俺は主人なのだからわざわざ答えてやる必要もないのだが、これからのことを思うと楽しみで、なんとなく答えてやる気分なので答えてやろうと思う。

 む~、と軽くグーを作った手に顎を乗せ、ちょっとばかし考える。

 忌避感ねぇ…………


「ぶっちゃけ全くこれっぽっちも微塵もないね」

「…………」


 俺が答えると思ったとおりイルは何も言わない。

 ちょっと考えてみたけど、俺って驚くほど人間を殺すのに戸惑いがないな~。何でだろ…………あ、人間が嫌いだからだ。

 俺は利己的で自分勝手で我侭で自己を中心に考えて思い通りにならないことが嫌なガキだから、そんな俺を受け入れてくれないあの世界が、てか人間が嫌いだったんだ。

 ま、こんな考えしてるやつなんて受け入れられなくて当然だけどね~。俺だって嫌だし。

 でも、それでも俺は俺だから~。この考え改めるつもりないし~。

 異世界に来てその世界が、必要なものに純粋な力が上位に来る世界で本当によかった~。

 棚ボタ能力で無双は出来ないけど、楽しそうなことは出来そうだ。

 

 ってなんか思考がぐちゃぐちゃになってきた。

 う~ん、よし! こんなときはバーンといっちゃいますか!

 

「よ~し、そんじゃ行くぜ~」

「え?」

「【爆破(エクスプロージョン)】」


 俺はイルが何かを言う前にその言葉を口にする。

 そして突如轟音。

 それは宿からそう遠く離れていない場所からくるものだった。


「ふぅ~! 急な轟音にみんな驚いてるね~。不安とか興味とか顔に出てるぜ? これが見たかったんだよ!」


 俺は大通りを見て、突如聞こえた轟音に戸惑い、立ち止まる人々を楽しそうに眺める。

 やや興奮気味な俺は視線をそのまま横へとめぐらし、轟音の聞こえた方へと向ける。

 宿から数十m先に大通りへと傾いている、否倒れかけている建物が目に入った。


「ナイス! これなら大通りの人も巻き込まれるな!」


 徐々に崩れて倒れていく組合を見て、巻き込まれそうな人たちは悲鳴を上げながら避難をする。 

 横幅二十mほどもある組合はなかなかの人を巻き込みそうで、人々は我先にとその範囲から逃れようと必死だ。

 その光景を俺は嬉々として見守る。


「ひゃひゃひゃひゃ! うわぁ~、醜いな~。あ! 子供を蹴飛ばした! かっわいそ~。って俺が言えたことじゃねぇか!」


 嗤う。哂う。心から…………笑う。

 本当に楽しそうに、否本当に楽しくて笑う。

 轟音につられて怖いもの見たさに集まる人々。驚愕して呆然と立ち尽くす人々。組合に潰されると分かって逃げ惑う人々。潰されると分かってなお、現実を受け止められる呆然とする人々。

 本当に楽しい。

 他人の不幸は蜜の味。

 メシウマ。

 素晴らしい言葉だと思うね。まさにその通りなんだから。

 中には、他人の不幸を喜ぶなんて人はその人も不幸なんだよ、みたいなこと言うやつがいたけど俺からしたら、勝手に決め付けんな、だね。

 別にいいじゃないか、他人の不幸を嘲笑っても。

 別にいいじゃないか、不幸な目にあった人を罵っても。

 別にいいじゃないか、自分が幸せだと思っているならそれで満足だ。

 そもそも幸せの定義ってなんだよ。十分な食事? 綺麗な服? 塵すら落ちていないくらい綺麗な住処?

 地獄の中でほんの小さな明かりを見つけたら幸せと感じるように、その人その人にあった幸せがあるんじゃないのか?

 綺麗ごとばっか言うやつが俺は嫌いだな~。そういうやつに限って俺と同じような目にあえば俺みたいになるくせに。

 あ~、あの変わりようは楽しかったなぁ。だんだんだんだん壊れていって壊れていって自分が何を言っているのか分からないような精神状態になってしばらく精神科にでも行ってもらって直してもらってそこを更に叩き潰して完全な俺にしたときはなぁ。


「っとと、変なことばかり考えてたな」


 俺は頭を振って思考をクリアにする。

 組合を見ればもう既に倒れており、瓦礫の山が出来上がっている。

 端の方には逃げ遅れたのか足を瓦礫の山に潰されて助けを求める人もいる。

 あぁ、痛みに苦しむその顔。いいねぇ。俺もあんな顔をするのだろうか。死ぬ前にあの状態を経験しておくのもいいなぁ。

 ってまたずれた。あまりの楽しさに脳内麻薬が分泌しまくりで頭が狂ってたよ。え? 元から? ほっとけ!

 

 ともあれ、レベルが上がった感じもしたし、目的は果たせたので俺はそのままこの光景を眺めていることにした。後ろから変な視線を感じながら。

















 嗤うは歯をむき出しにしてあざ笑う。

 哂うは息を漏らして失笑する。(※失笑とは、思わず噴出してしまうこと)

 笑うは、普通に笑うこと。ハッハッハッハ!


 あと、今回ちょっと俺壊れてきましたwwなんでだろ?

 



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