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第十五話「寄り道」

「よし、爆破するぞ~」

「ちょ! 待って! まだ離れて…………」


 現在銅貨(爆弾バージョン)の爆破実験をするためにイルに出来るだけ遠くに置きに行ってもらっている。

 どんな規模の爆発なのか分からないので、念のため石の爆破の影響がある五mほどのおよそ六倍の距離――三十mほどのところに置いてきてもらっている。

 ほら、石で確か六個くらい作ったところでこんな感じの状態になったしね。

 と、現在の状況を振り返っていたらイルが必死の形相で帰ってきた。


「おうおう、どうしたそんな焦った顔して」

「お前……兄貴がまだ俺があれ置いてないのに爆破するとか言ったからだろ! 滅茶苦茶怖かったんだぞ!」


 そういうイルの目にはわずかに光るものが…………ぷぷー、涙目~。

 いやぁ、楽しい楽しい。人のこういうところ見るのって楽しくてたまらんわ。あ、こいつは人じゃなくて獣人か。いや、人って入ってるしどうなんだろ…………ハゲドー(激しくどうでもいい)

 

「よし、イルも帰ってきたことだし、爆破しますか」


 誰にともなく呟いて俺は爆破させる。


「【爆破(エクスプロージョン)】」


 遠くにあり、尚且つ木の陰に隠れて見えない爆弾(銅貨)に意識を向けて言葉を紡ぐ。別に口に出さなくてもいいんだけど、ほらあれ、いつも口に出しといて、いざというときに無言でやって、な、なに!? みたいな反応とか見たいじゃん。

 念じると共に【爆破(エクスプロージョン)】と言ったほんのコンマ数秒後。


 けたたましい爆発音と共に突風を全身に受けて俺は後ろへ何回転もしながら転がった。

 

「たっ! とっ! ぅてっ! いたっ! ちょ! っつ!」


 言葉を紡ぐことも出来ずに後ろへ転がる。

 視界はグルグルと回りっぱなしで周りの景色なんて見えやしない。

 口の中には土が入り、ジャリジャリと嫌な感触が広がる。

 

 そうして何回転もしてようやく収まったとき、元々魔力の枯渇で動かすのが億劫だった体が更に重くなった気がした。

 体のところどころには擦り傷などがあり、わずかだが血が滲んでいる。唾付けときゃ治るからこれはいいや。

 俺は億劫な体に鞭打って立ち上がり、何が起きたのかを確認する。

 そして俺は乾いた笑い声を上げた。


「ハハッ…………さすがにこれはワロエナイ」


 俺が先ほどまでいたところは森と草原の境目のようなところだ。

 しかし、今はそこから三mほど草原に飛ばされていた。……うん、文字にしてみるとあんますごい気がしなくなってきたわ。

 でも、その向こう側を見たらもうそんなこと言えない。

 



 ……………………なんか直径五mくらいのクレーターが銅貨があったっぽいところにあってそこを中心に木が外に向かって倒れていた。




「よ そ う が い! なにこれ?! ちょ?! 確かに魔力ほとんど持ってかれたけどこんなすげぇの?!」


 俺は思わず天を見上げて叫んでいた。

 いや、マジか~。あの破壊力マジか~。完全に予想外だわ~。

 俺はしばし呆然とし、頭を落ち着かせる。

 …………よし、現実を受け止めた。大丈夫だ、俺!

 我を取り戻した俺はどかりと腰を下ろし、胡坐をかいて思考をめぐらす。


 まずは実験の結果から考察だな。

 とりあえずあの途轍もない破壊力から、魔力を多く込めれば破壊力も大きくなるってことが分かったな。

 ついでに、石のときはどんなに頑張っても小さな爆発程度しか魔力を注げなかったけど、結果を見るに物質を変えると注げる魔力の量も変化するのかな? 

 でも木の枝をやったときはあんま変わらなかったような…………気付かないほどの量しか変化しなかったのかな? うん、そうだな、それしかない。

 んで、他には何かあるかな~………………あ! 四つ目! 四つ目の爆弾が作れてる!

 俺はそのことを思い出して、それが間違っていないかを確認するため爆弾にした石を三つ取り出す。服屋でこの服買ったときおまけで小さなポーチっぽいものをもらっていたので、そこに手を突っ込んで。

 それを出してすぐさま適当なところに投げる。もちろん最低限自分に被害が及ばない距離に。


「【爆破(エクスプロージョン)】」


 俺の言葉に反応してか、石は一瞬赤く発光し、爆破する。

 それは先ほどと比べるとあまりにも小さく見劣りするが、確かに爆発した。

 つまり、俺は四つ目の爆弾を作ることに成功したのだ。

 

「むぅ……」


 俺は顎に手を当て考える。

 考えられる可能性としては二つかな。

 一つ目は一つの物質につき、三つまでしか爆弾を作れない、というものだ。これは適当に木の枝を変えてみれば分かるだろう。

 で、一つ目に当てはまらなかった場合は、おそらくレベルアップ的なものによるものだと思う。

 思えばこの世界にもレベルのように『階位』があった。

 つまり、それによって爆弾所持数が増えてもおかしくはないということ。

 …………おかしいかな? いや魔力は上がるとか言ってたし、こういうこともあるんじゃね? 孤高魔法だし。なんか例外とかあってもおかしくないとか受付さんも言ってたような言ってなかったような。

 とりあえず考えられるのはこの二つだな。


 ところで、すっかり忘れてたがあの二人はどこいった? 同じように吹き飛ばされたならそこらへんに転がってるかな?

 そう思った俺は辺りを見渡す。


「ど~こ~か~なぁあ!?」


 口に出しながら見渡すと、二人とも俺の真後ろにいてビビッた。おい、背後霊か、お前らは。

 二人は多少服が汚れていたり、頭に草が生えてたりしているが、特にこれといった怪我はないようだ。

 

「よ~し、実験も終わったしジョウロ? 取りに森に入るか~」


 俺は不満げな二人――正確にはイルだけだが――をわざとらしく無視して森へと歩みを進める。

 

 

 










 およそ三時間後。俺たちは森を出て帰路についていた。三人とも腕一杯に薬草であるジョウロを持って。

 日はまだ沈まず、日の高さから考えるにあと二時間は大丈夫だろう。

 俺は文字通り抱えているジョウロの束から香るツンとした薬草特有? の香りに顔をしかめながら実験と検証の結果を反芻(はんすう)する。


 まず、俺の持ち爆弾とでもいおうか、それは四つに増えていた。

 これは同じ物質である木の枝を四つ爆弾に変えることが出来たことから確実と言えよう。このときやはりというか、五つ目を作ろうとしたら弾かれた。弾かれたついでに、ちゃんと魔力は消費されていたらしい。四つ目まではなんとか座っていられたけど、五つ目で倒れてしまった。あのときのなんともいえない疲労感……魔力の枯渇で動けないというのは本当だった。三時間くらいも倒れたままだった。


 次にジョウロか。

 ジョウロというのは塗り薬として使うものらしい。なんでもイルたちのお母さんが作ってくれてたらしいんだと。

 じゃあ作れるかって話になるが、無理らしい。

 ただすり潰せばいい、みたいなものじゃないからだと。

 そういうことで、俺の細かい傷は妹の方に直してもらった。

 ってこれはどうでもいいか。


 あとは…………っと、もう着いたか。

 実験とか以外にも思い出していたらすぐに着いた。

 まだ日は高い……というにはもう低いが、かといって沈むというほどでもない。

 最初みたくあの腐った門兵に喝上げされることもないだろう。その前にやられそうになったら冒険者カード? を出せばいいだけだし。

 と、初めてここに来た頃を思い出していると検問所っぽいところに着いた。

 兵士が来たので何か言われる前に、ジョウロを片腕にギュッと押し縮め――なんか草の汁が服についた気がするが、後にして――冒険者カードを見せる。


「身分を……」

「ほい、これでいいだろ? とおりまっせ~」


 それだけ言うと俺は歩みを止めずにそのまま通り過ぎる。

 兵士も冒険者には何も言えないのかカードを確認すると苦虫を噛み潰したような顔で俺を見送った。ヘッ! 弱者にしか強気ででれねぇのか! 腰抜け!

 お前が言うか、と自分に言いながら俺は冒険者組合へと足を進める。


 


 組合へ行く道すがら。どこからともなく香ってくる肉の焼ける香り。思わず涎が口にたまる。

 そういえば朝飯食ってから何も食ってないな、と思い俺はふらふら~っと匂いのする方へと足を進める。

 ふらふら、ふらふらと匂いのする方へ歩き続けていると露店が立ち並ぶ通りへと出た。

 

 この帝都は、城を中心に上下左右に大通りがあり、その端には門がある。

 そしてその四つの大通りの合間合間に少し細い普通の通りがあり計八つの通りが作られている。

 俺が入ってきたのはおそらく下の大通りだと思われる。ワルンの村がここから南西だと言っていたし、森は南の隣国との境界線らしいしな。森に沿っていたのだから多分あっているだろう。

 

 で、この露店が並ぶ通りは、俺の入ってきた大通りが南とするなら、南西か南東に伸びる通りとなる。

 

「あちゃ~…………」

 

 匂いにつられたからといえ、寄り道しちゃったなぁ。

 今はジョウロという薬草を両手一杯に抱えている状態。こんなんでここにきても無駄じゃないか。

 と、思ったが俺は進む。

 いやぁ、腹の虫には勝てんよ。人間の本能だもの。

 まあ、ジョウロは適当にそこらへんに一旦置くくらいならいいだろうし、別にイルたちにもっと持たせて片手空けれればいいし。

 

「いらっしゃい!」


 ということでもう屋台の前まで来ちゃいました。

 

「クルチャッカの丸焼き一切れ鉄銭五枚だよ!」

「それ三つください」


 屋台は日本のお祭りみたいに品を置く台があるが屋根はなく、向こうには丸焼きにしている鳥っぽい生き物があった。大きさ的に鶏っぽいな。

 一切れっていうのに不安があったが、さっき買っていった客のを見れば結構な大きさだったので買うことにした。

 俺はまたも片腕にギュッとジョウロを押し縮め――もう鼻は慣れたのかあんま感じなくなってきた――腰にまいたポーチから銅貨二枚を渡す。


「まいど! はい、おつりの鉄銭五枚ね!」


 まいどっていうんだ。なんかほんわかした。

 そして渡される大きさが手を広げたくらいで、厚さも手と同じくらいの湯気をたてる肉。皿なんてものは当然なく、なんか爪楊枝(つまようじ)を大きくしたようなもの一本に三つとも刺されて渡された。

 

「うおー! 美味そうだな。てかまんま鶏肉だな」


 俺は、取れないようにちょっと深めに刺して~、と言って中ほどに刺された肉とおつりを受け取り、感想を口にする。

 程よく焼けており、しかも何か調味料的なのを使っているのか香ばしい匂いもする。この手の時代背景だと調味料って貴重品じゃなかったっけ? ……ま、美味そうだからいいけどね!

 

「とりあえず一口」


 俺は誰ともなく呟いて三つのうちの一つにかぶりつく。

 そして目を見開く。

 グッと押し返してくる弾力。それを振り切って更に力を加えれば引っ張ったゴムが戻るかのようにブルンッと肉が口の中で暴れる。

 噛み切った後からは肉汁が溢れ、口の中が旨みで満たされる。

 ギュッと縮こまった肉は少し焼きすぎた感じだが、俺はこれくらいが好みなので頭の中がパレード。

 まあ、正直に言えば日本の料理の方が圧倒的に美味いが、異世界でここまで美味い料理が食えると思ってなかったので軽く感動した。

 思わず顔をだらしなくして味わっていると感じる視線。


「おお、忘れてたな。ほれ」


 そう言って俺はイルの口元へ肉を差し出す。

 イルは驚いたように肉を見つめ、俺と肉を交互に見つめる。

 あぁ、そういえば異世界ものの奴隷ってかなり待遇悪いからな。それで主人公が普通だと思っているような待遇で奴隷は、この人いい人! ってなるんだよな。うん、テンプレだな。

 俺もそれにあやかってこいつらからいい人って思われよう!

 そんな考えにいたって、俺は更に肉を突き出す。


「ほら、別にいいぞ? なんもしねぇから、食えって」

「い、いいの?」


 俺が努めて優しく声をかけてやるとイルは上目遣いに確認を取ってくる。

 その目からは疑いの色が濃い。

 おいおい、俺ってそんなに悪党に見られてんのか?

 そういう考えにいたった俺は口に出す。


「大丈夫だわ。これを食ったからって何かをさせようとか思ってねぇよ。それになんで三つ買ったかわからねぇのか? お前らの分も買ったからだよ」


 なんか軽く芝居がかってるけど、イルは納得したようだ。

 イルは俺の食った肉とは反対に、一番下にある肉にかぶりついた。

 熱かったのか、ほふほふ、としながら食べるさまはなんだかほっこりする。

 

 そして、無表情だが食欲はあるのか物欲しそうな目で見ている妹の方にも肉を差し出す。

 妹の方はすぐにかぶりつき、兄と同じようにほふほふと熱を冷ます。

 二人は噛んで、噛んで、飲み込むと満足そうな息を吐いた。イルなんてとろけた顔をしてやがる。

 

「ほれ」


 食い終わった二人にまた肉を差し出してやる。妹の方には俺の肉を食われてるが、まあ真ん中の肉を食うからいいや。

 そんな感じで食を味わっていると、なんだか周りが騒がしくなってきた。


「あ」


 俺ら屋台の前から移動してなかったな。

 俺はすぐに二人に、行くぞ、と言ってからその場を後にしようとする。

 その前に邪魔をした屋台のおっちゃんに一言言うのも忘れずに。


「わりぃな」

「いやいや! むしろありがとよ、あんちゃん! あんな美味そうに食うから商売繁盛よ!」


 言われてみれば、騒がしいと思ったのは俺らを見て屋台に殺到する客たちだった。

 俺たちが邪魔だったが、別に売るのには問題なかったようだ。

 逆に礼を言われながら俺たちは露店通りを後にする。

 さあ、今日は組合でジョウロを納品したら宿に帰って寝るか!

 俺は最後の一切れを口に収め、爪楊枝を投げ捨てた。

 




 









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