第1話 死体運び屋
きつい、汚い、危険。誰もがやりたくない仕事の三大要素だ。残念なことに、私の仕事はものの見事にこれを満たしている。
『灰化汚染区画』の標識を横目に、高速道路の上を死体を積んだソリを引きながら歩く。この道路に車が来ることは無い。もう滅んだからだ。
「あー、疲れたー……仕事したくないわー……酒飲みたいー……」
地下14階に降りてきて、二日目。回収できた死体の数は5体。一体一万だから合計五万イェン。
死体だけならしょっぱい金額だが、装備品を売れば二十万程度にはなるので、無事に帰れさえすれば上々というものだ。
「ツツミ、騒いだらアイツらが来るんじゃないか?」
「新人は知らないかもだけど、ここの辺りは『太陽』があるからアイツらは来ないよ。その代わり、死にたくなかったら頭を上げないでねー。あと、道路の端に寄らないように」
「どうしてだ?」
「『太陽』に目を付けられると、終わりだから。それに、ここらには『落とし穴』が沢山あるし」
ポケットに入れてあるナットの一つを道路の端に放り投げる。すると、たちどころにナットがぐにゃりと曲がって紙切れほどに潰れ、その場に落下した。
「ああなりたくなかったら、私の言うこと、聞いてね」
「……ああ、わかった」
青い太陽が照り付ける中を、死体を引きずりながら二人で黙々と歩く。
涼しげな見た目の割に、地下四階の気温は三十度近くある。死体からは肉が腐った匂いがするし、汗で喉が渇くし、でも『太陽』のせいで休憩ができない。
こんな場所、早く立ち去るに限る。
「……」
「……なあ、ツツミ、誰かが助けを呼ぶ声が聞こえる」
「あー、それは無視無視。行ったとしても、死ぬだけだから」
「だが……」
「幽玄虚の帰還率は?」
「……34%」
「だから、自分の命を守ることだけ考えて。それ以外は無視。それができないなら、この仕事は辞めた方がいい」
「……わかった」
地下に降りて生還する人間の割合は約3割。そのうち五体満足なのは半分にも満たない。
その事実が、ここがどういう場所なのかを物語っている。
「わかったなら、よろしい。ほら、出口まであと少し!ペース上げていこう!」
「ああ」
数時間歩いて、ようやくトンネルが見えて来た。地下14階の出口だ。
この先に幽玄城塞に戻れるリフトがある。ここまでくれば、一安心。
「とーちゃくー!あー、疲れたー」
トンネル内に入った途端、どこかから吹いてくる冷気が汗ばった体を冷やす。
「ここまで来れば、後はダイジョーブ!タイジュも休んでいいよ」
「そうか」
すぐさまその場に大の字に寝転がった。緊張がほどけて、急にどっと疲れが襲ってきて眠くなる。
師匠が見てたら怒るかもだが、どうせ、誰も見てやしないし、何かあっても殴ればいい。
「ふぅ……」
流石の大男もこの暑さは堪えたらしく、荷物を降ろしてその場に座り込んでいる。
「このまま、しばらく休憩してよー」
「だが、あと5分でリフトが来る」
時刻表を見ると、タイジュの言う通り、そろそろリフトが降りてくる時間だった。
「次のリフトで帰ろーよー」
「今日帰ると姉さんに言ってる。行くぞ、ツツミ」
「先輩権限発動!ここは休むべきです!」
「……」
タイジュは私の方を無視して、黙々と荷物を再び背負い直す。完全に仕事モードに戻ったようだ。
仕方なく荷物を縛り直していると、すぐさま機械の排気音と共に、フロア表示板の光が上から降りてくるのが見えた。そして、合成音声のアナウンスが流れる。
「八番リフト、ただいま到着します。お乗りの方は、黄色い線から離れてお待ちください」
「ツツミ、行くぞ」
「わかったって」
起き上がるなり、ソリの紐を持ち直し、リフトに乗り込んだ。
モーターの駆動音と共に、内臓が持ち上げられる感覚がする。時速四十キロメートルで地下10階に向かっているのだ。
「帰ったらチャーシュー丼を食べるぞー!タイジュも一緒に行く?」
「……」
タイジュはリフトのドアを眺めたまま黙っていた。
「疲れた?」
「いや、そうじゃない」
「さっきの声、気になってるの?」
「……ああ」
タイジュは自分の手を開いて見つめる。
「わかってはいるんだ、俺にできることなど無かったと。だが、見殺しにした事実は変わらない。俺はまた、犠牲にしたんだ」
「タイジュのせいじゃない」
「俺が弱いから迷うのか?なあ、ツツミはどうして、平気な顔をしていられるんだ?」
「フツー、元・殺し屋にそれを聞く?」
「……そうだったな」
タイジュがしおしおと肩を落とすので、慌てて言葉を続ける。
「まあまあ、今日はゆっくり休みなって。そうすれば、嫌なことも忘れるよ。まあ、それでも忘れられないなら、この仕事辞めて、リントの店を手伝えばいいじゃん」
「これ以上、姉さんに迷惑をかけられない」
「本当、新人は優しい奴だな」
死体運び屋なんて、下層の吹き溜まりにいる私らみたいな人間のクズ連中がやる仕事だ。本来なら、真っ当なタイジュみたいな奴はこの仕事をする必要はない。
だが、彼は人ではない。だから、仕事を選ぶことができない。
「どうせしばらく着かないし、マスク外してもいいよ」
「わかった」
マスクの下から小さな二本の角が現れる。
彼は鬼だった。
「ツツミは俺が怖くないのか?」
「別に。鬼も雪女も人狼も全部殺したことがあるからね。一番怖いのは、殺すことができない連中だし」
「さっきの『太陽』とかか?」
「いや、もっと深い所の連中。『太陽』は頑張れば殺せなくも無い。でも、もっと下層のは、どうしようも無い。タイジュはソレらに会うことが無いといいね」
「そうだな」
リントからタイジュを任せられたとき、最初は驚いたのは事実だ。
リントは小柄だったし、角は切り落としていて普通に人間っぽい。それに対し、タイジュは大柄で、筋肉質で、立派な2本の角がある。
鬼には散々会ってきたが、ここまで本物感があるのは初めてで、思わず持っていた茶を落とした。リントに怒られたことは割愛しておこう。
なんでも、角が丈夫すぎて、切り落とせなかったらしい。いくら下層とはいえ亜人は差別の対象だったから、仕事が無かったそうだ。
それで、私の後輩になったのが2週間前。
「タイジュ、後輩になってくれてありがとう」
「突然、どうしたんだ?」
「別に、感謝は伝えられるときに伝えておこうってだけ」
「それなら、ツツミもありがとう。今日も助かった」
リフトはモーター音を響かせながら上層に向かう。
「今日も無事、生きていけてよかった」
「明日も無事に生きてくれ、後輩。さーて、帰ったら飯だ飯!」
10階に戻ったら、新人13階初帰還祝いをしないとな。借金に目をつぶり、私は財布の中身を確認したのだった。
登場人物
ツツミ=ミズナ:主人公。女性。元殺し屋の死体運び屋。
キハラ=タイジュ:ミズナの後輩。たっぱがあるが、戦闘力は皆無。
作者の雨中若菜です。
脳内妄想垂れ流しの日常小説です。
AIと作成した下書きではハッピーエンドなので、こちらでもハッピーエンド目指して毎週書いていきたいと思います。
どうぞ、ごゆるりと読んでいただければと思います。




